第119話【立ち向かう、そして勝つ!】
逃げる。ただひたすらに。だがそれで何か変わるのだろうか?
今こうしてベリー達は一度登った階段を降りている。
……本当にそれでいいのだろうか?
「…戦おう、皆!」
ベリーはそう言った。逃げても何も変わらない、立ち向かって何も変わらなくても、それでも立ち向かったんだって、自信をもって胸を張れる。それだけでいいじゃないか。
「そうだね…こんなイベントそうそうない! このイベント、私達でクリアしてやろうじゃんか!」
ベルもそう言う。突然始まるイベント、頭がおかしいくらいに強力な敵、今までにないモンスターの動き。それがゲームの醍醐味だ。戦う理由……そんなもの、ゲームを楽しみたいからに決まっている。
だがユーベル化したモンスターが苦しんでいるのをもう見たくないというのもある。モンスターとしてではなく、同じ生物として戦うのはもはやゲームではない。ただの意味もない殺し合いになってしまう。
「あぁ! あんなの倒したら有名人になれるかもな!」
「……それはない……でも、楽しくなってきた」
ソラとフィールはそう言って武器を装備し直す。
「怖がってばかりじゃカッコ悪いわよね…やられたらキッチリやり返すわッ!」
「僕もやられっぱなしは嫌だからね」
アップルとバウムも戦う意思を示す。そして、そんな皆を見て、一番怖がって震えていたローゼも気が変わっていく。
「それでも凄い強敵です…負けるかもしれませんよ?」
ローゼは少し試すかのようにベリーに問う。
「負けないよ、皆がついてるから! うん、絶対に負けない! 何がなんでも勝ぁぁーつ!」
ベリーはそう強く言う。その言葉でローゼの中で何かが変わった気がした。
「はい! では私も微力ながらサポートします! 行きましょう、ベリー!」
「……! うんっ! ローゼ!」
さっきは“悪魔”の強さを見せつけられたが、次はこちらが見せつける番だ。
「もう逃げない、さあ! 正々堂々、いざ尋常に勝負ッ!」
ベリーが走る足を止めて《鬼神ノ太刀・閻解》の刃を“悪魔”に向けながらそう言う。
『▲▼◆♯ッッ!!!』
「全員掴まって! 【テレポート】ッ!」
“悪魔”が足を止めたベリー達に殴り掛かろうとした瞬間、ベリー達は手を繋ぎ合わせ、ベルの【テレポート】で“悪魔”背後に回る。
「……今私が触れることができるシステム全てを検索しましたが…やはりあの“悪魔”は正規のモンスターではありません、ユーベル化というのも外部からのウイルスによるもののようです」
「そ、そこまでわかんのか?」
「ちょっと奥の方に潜っただけですよソラ、もう少し潜ってみます!」
ローゼはそう言うとさらにさらに奥のシステムにアクセスする。
「ベリー、ここじゃ戦いづらい、せめてボス部屋に戻るか地上に行くかしないと……っておや?」
ベルの言う通りここは第五階層ダンジョンの階段だ、戦いづらいことこの上ない。しかし戦いづらいのは“悪魔”も同じ、ベリー達に戦う意思があるとわかったのか、自らダンジョンの壁を壊し、地上に落ちていった。
「あっちも堂々やるみたいだね、僕達も行こう」
「うん! ……とうっ! って意外と高いぃぃーー!!!」
ベリーはバウムの言葉に元気よく返事をすると、“悪魔”が壊した壁から飛び降りてそう叫んだ。
「あぁ、全くあの子は……ほら皆、ちゃんとリーダーを支えるよ!」
ベルはそう言ってベリーを追い掛けるように飛び降りる。続けて皆の飛び降りる。
「うわっ、ほんとに高いわね……地面が遠いわ、けど私達こんなに登ったかしら?」
「各部屋に入った時に上へ部屋ごと瞬間移動していたのでしょう、私達が階段を降りている時も瞬間移動していたことを確認しています」
ローゼはアップルの疑問にシステムの奥へアクセスしているのにも関わらず的確に答える。
「……ソラが空を飛んでる………ぷふっ……」
「ん!? お、おい今っ! 今フィールが自分で言ったことで笑ったぞ!? なぁ聞いたか皆!」
いつも笑顔はあまり見せないフィールが、こんなときだが自分で言ったダジャレで吹き出したことにソラが驚いてそう言う。
「笑ってない」
「え、いや笑って……」
「笑って、ない」
「あ、すみませんでした」
そのフィールとソラのやり取りに皆の緊張がほぐれる。変に緊張していると身体が強張ってしまうので丁度良かった。
「……っ! わかりました、と言っても情報は少ないですが……」
と、ローゼが早くも“悪魔”の情報を見付けたようだ。
「それで、どんなの?」
「はい、“悪魔”の名は《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》、…仮にユーベルウイルスとしましょう、そのウイルスを作り出す能力を持っているようです……そしてユーベル化モンスターが消滅する時に光と共に舞う闇の粒を吸収することでそのモンスターの力も吸収していたみたいですよベル」
「“不安定で邪悪な悪魔”か……アンファングの意味はよくわかんないけど……無駄に長い名前だなぁ」
ベルがローゼが掴んだ情報の一部を聞いてそう言う。ただもう地面も近い。続きを聞く暇はないようだ。
「【バウンド】ッ!」
ベルが大きめの【バウンド】を落下地点に設置すると、全員それをうまく使って地面に着地する。
『◆▲▼●▲▲■◆』
「ほー、仲間引き連れてサプライズか? だが全然驚きもしねぇな、その程度、俺でも予測できるぞ!」
ユーベル化したモンスターを大量に引き連れた《ザ・アンステーブル・ユーベルデーモン・A》が地上でベリー達を待ち構えていた。




