第117話【ヴァールハイトテューア・シュピネ・U】
「ぬぅぅ~…っと! お、重かったぁ……」
扉を開けたベリーは息を切らしてそう言う。
部屋はいつも通り大きいが、黒や金といった、豪華な装飾が目立つ。
「敵は待ってたみたいだな……」
ソラが目の前に静かに佇む黒鋼のような色合いの巨大な蜘蛛を見て言う。あの威圧感はやはりユーベル化しているのだろう。
《ヴァールハイトテューア・シュピネ・U》がベリー達の前に立ちはだかった。
「行くよ! 皆! 【閻解】ッ!」
そう言ってベリーは【閻解】を発動する。
『▲▲▲▲◇……!』
《ヴァールハイトテューア・シュピネ・U》はベリーの【閻解】に反応するかのように動き出すと、子蜘蛛が大量に出現する。
「数が多いッ! 【クイックスラッシュ】ッ!」
「ベル、子蜘蛛は私に任せてボスを! 【白狼】、【黒狼】ッ!」
アップルがそう言って《白狼》と《黒狼》を召喚する。召喚上限は無いため、ここはアップルが適任だろう。アップルはさらに続けて《ニースヘッグ》も召喚する。
「ベリー! 前方5mのところに【幻手】を置いたから踏み台に!」
「ありがとうバウム君! 【閻魔】チャージッ! ……とうっ!」
ベリーはバウムの【幻手】が見えないながらも【閻魔】をチャージしながら、しっかり足をつけ飛び上がる。
【閻魔】チャージ中は動きづらいが、《神従の腕輪》の効果なのかペナルティーが軽減されていた。
「せいやァァァッ!!」
ベリーは大きく振りかぶって、【閻魔】を解放しながら《ヴァールハイトテューア・シュピネ・U》を力強く斬る。
だが……。
「なっ!? まずい、ベリー逃げて!」
「効いてねぇだと!? ッ! 【オートディフェンス】!」
《ヴァールハイトテューア・シュピネ・U》にその刃は全く通らなかった。【閻魔】の炎すら、効いていない。
そしてそれを待っていたかのように、《ヴァールハイトテューア・シュピネ・U》は脚を上げ、ベリーを斬り裂こうとするところを、ソラの【オートディフェンス】でガードする。
「ありがとうソラ君!」
「あぁ、だが【オートディフェンス】も一瞬で砕かれた…あいつ防御も攻撃も桁違いだぞ…」
【オートディフェンス】は一瞬で砕かれたが、その一瞬の隙でベリーは回避できた。
【閻魔】が効かないほどの防御力と、【オートディフェンス】が一瞬で砕かれるほどの攻撃力も持ち合せている《ヴァールハイトテューア・シュピネ・U》、さすがラスボスと言える。
「くっ! 子蜘蛛もHPは少ないけど硬すぎよ! 【金狼】、【銀狼】ッ!」
アップルも防御力が高い子蜘蛛を相手に苦戦している。
数も多い、押し切られてしまう可能性もある。
「【ロックオン】、【ベシースング】開始っ!」
ローゼが子蜘蛛達を【ベシースング】で撃ち抜いていく。
「ッ! ダメだ…銃弾も通らない!」
「《ゲイボルク》も……刺さらない……っ」
ベルの銃弾もフィールの《ゲイボルク》も通らないとなると、攻撃手段が一気に無くなる。
「とりあえず子蜘蛛を狩りながらボスの攻撃パターンを見ようぜ!」
《ヴァールハイトテューア・シュピネ・U》に攻撃が効かないので、とりあえず周りの大量に出現した子蜘蛛を狩っていく。
『◇◆∋∈★¬∪ッ!!!』
しかし《ヴァールハイトテューア・シュピネ・U》の猛攻が始まる。子蜘蛛達を避けながら、ベリー達のところへ突っ込んできた。
「【パーフェクトガード】ォォッ!!」
ソラがその突進を【パーフェクトガード】でなんとかガードするが、その隙を子蜘蛛達が狙う。
「ソラ……! 【ゲイボルク・フィニッシュ】……!」
そんな子蜘蛛をフィールは【ゲイボルク・フィニッシュ】を発動して貫いて倒す。
「ナイスだッ、フィールッ!」
そう苦しそうに言うソラに構わず、《ヴァールハイトテューア・シュピネ・U》は脚を使いソラの【パーフェクトガード】を連続で突いていく。
「【フルチャージ】、【オーバーチャージ】、【リミットブレイク・チャージ】ッ! 【アイス・エイジ】ッ!」
そしてベルがチャージした【アイス・エイジ】を発動し、《ヴァールハイトテューア・シュピネ・U》と子蜘蛛達を凍り付かせる。
「【フルチャージ】! 【マジックショット】ッ!」
続けてベルは、凍り付いた《ヴァールハイトテューア・シュピネ・U》に【フルチャージ】をした魔法弾、【マジックショット】を放つ。
『£▲∀□☆■!!?』
「やった! 少しだけだけどHPは減ったよ!」
そうベルが言う通り微量だが《ヴァールハイトテューア・シュピネ・U》のHPはしっかり減っていた。
「魔法耐性が低いみたいですね……なら! 【マジックアタックアップ】ッ!」
ベルの攻撃で魔法攻撃に弱いことがわかったローゼが、魔法攻撃力を上昇させる【マジックアタックアップ】を発動する。
…だが、それだとベリーの【閻魔】も通ったはずだ。
『▲◆■★▲▽▼▼ッッ!!!』
「もう拘束を解いた!? ええい大人しくしろ! 【バーストグレネード】!」
【アイス・エイジ】を無理矢理解除した《ヴァールハイトテューア・シュピネ・U》にベルは【バーストグレネード】を投げる。
もちろんダメージは物凄く薄い。
「【マジックショット】ッ! ってあれ? 効いてない?」
ベルは続けて【マジックショット】を放つが、さっきと比べてHPが減っていない。ローゼの【マジックアタックアップ】もあるのでそんなはずはないのだが。
「……あっ! もしかして! 【激流】!」
何か気付いた様子のベリーが、【激流】を発動する。
「【真・激流ノ太刀・絶対零度】ッ!」
【真・激流ノ太刀・絶対零度】というスキルを発動したベリーの《鬼神ノ太刀・激流》は白く凍り、《鬼神ノ太刀・氷華》と成る。【真・激流ノ太刀・絶対零度】は冷気を操り一時的に特殊な【鬼神化】、【氷華】を発動させるスキルだ。ベリーの髪も瞳も銀色に近い白になっている。
「【氷乱絶風】ッ!」
そう言ってベリーが発動した【氷乱絶風】は鋭い氷が竜巻に舞いながら範囲内の敵を切り裂く。
《ヴァールハイトテューア・シュピネ・U》はそれを喰らうと、HPは今までで一番大きく減る。
「やっぱり、このモンスター氷が弱点だよ!」
「なるほど、ナイスだよベリー! 【アイシクル・ショット】ッ!」
ベルがそう言って【アイシクル・ショット】を発動すると、やはり《ヴァールハイトテューア・シュピネ・U》のHPが大きく削られる。
物理攻撃には全く歯が立たないほど強いが、氷属性の魔法攻撃にはとても弱いようだ。
「勝てない相手じゃないよ! 皆、頑張ろう!」
ベリーの言葉に、全員が力強く返事をする。絶対に勝つ、勝てる……そう思った。
確かに、このまま行けば《ヴァールハイトテューア・シュピネ・U》は倒せただろう。だが、そんな希望は打ち砕かれる。
次%kイ_▼″U+;__【悪魔降臨】




