第113話【真実への扉】
鈴は気持ち良さそうに眠る苺を見て安心する。
「私が……遅れてたら……」
そう、鈴が苺のところへ少しでも遅れていたら、命の危険もあったと医者が言っていたのだ。
しかしこうして苺は助かったし、顔色も元気そうだ。
ここまで数時間の間だったが、鈴は生きた心地がしなかった。
「私が戦っていれば……苺一人だけに任せなければ……!」
鈴は、自分がその場にいたというのに、こうして苺を危険な目に合わせてしまった自分を責めていた。
しかし、そもそもこんなことがゲームであっていいはずがない。鈴が運営に問い合わせたところ、『直接会って話がしたい』と返信があった。運営にとってもイレギュラーなことだったのだろう。
「《NGO5》、日本サーバー管理部長、三嶋竹志です」
「……どうぞ」
病室の扉がノックされ、日本サーバー管理部長……三嶋が入る。
「この度は本当に、本当に……」
「……その言葉、この子が起きてから言ってください……運営側も予想外のことだったくらいはわかりますが、命の危険もあったそうです」
三嶋が鈴に向かって謝ろうとすると、鈴はそう言って止める。その声は酷く冷たく、鋭かった。三嶋個人に対して怒っても仕方ないと鈴もわかっている。自分にも非はあるのだ。しかしゲームとしてあってはならないことだ。
「はい……それでは、詳しく状況を説明してもらえますか?」
「そうですね、そっちにイスがありますし、座りましょう」
運営が手配したのか病室の中は大きく、ベッドだけじゃなく、洗面台や浴槽、トイレ、大きめのテーブルに4つのイス。キッチンもあったらそこで生活していけそうなほど設備が充実している。
「では改めまして、三嶋竹志です」
「一条鈴、プレイヤーネームはベルです」
ベル、という名前を聞いて、三嶋は深く息を吐く。
「やっぱり、ベルさんでしたか」
「私のこと知ってるんですか……? あ、でもその顔どこかで……」
「はい、第三回目イベントで戦ったタケです」
「あぁ思い出しました! 運営側の人だったんですね」
鈴の表情も少し和らぐ。
「それでは本題に入らせて頂きます、そちらの方のプレイヤーネームは“ベリー”、そしてユニークスキルの使用で現実の身体に異常があったと」
三嶋もその事を聞くのは初めてだった。スキル使用で現実の身体に異常が出るなんてこと、あったらすぐにでも修正、もしくは停止しなくてはならない。
「はい、元のスキルは【鬼神化】、見た感じではベリーの成長に合わせて進化しているみたいで、でも【鬼神化】の能力である連続でのスキル使用で前までは頭痛がありました」
「連続…?」
「一度発動したスキルをMPがある限り続けて発動出来るんです、もしかして知らないんですか?」
初耳だった、実際に戦ったこともあるのに三嶋も八神も気付かなかった。
「それで無理な動きをしたせいで頭痛となる、ということですか……では今回の原因はなんなのでしょうか?」
「【真閻解】というスキルです……私もよく知りません、でもそれを解除した時に苦しみだして……」
「この状況になったと……わからないことだらけですね……」
【鬼神化】はあることは確認している、しかし頭痛があるなんてベータテスト時にも、制作段階でも知らなかった。【真閻解】に関しては聞いたこともない。恐らく《自動クエスト生成システム》の影響だろう。
「これから、どうするおつもりですか?」
再び鈴の鋭い声が静かに響く。
「……努力します」
三嶋は強くそう言った。
「……ん……? こ、ここはどこ!? 私は苺! 記憶は大丈夫、でもここはどこぉぉ! って鈴!」
「苺っ! よかった!」
「うっ……く、苦しいよぉ鈴~!」
苺が目を覚まし、鈴は強く苺を抱き締める。
「この度は本当に申し訳ございませんでした、八坂苺様」
「あ、あなたは?」
「《NGO5》日本サーバー管理部長、三嶋竹志……プレイヤーネームはタケです」
「タケ……? あっ! イベントの時の! こんにちわ!」
元気な苺の声に、鈴も三嶋も一安心する。
「具合のほうは大丈夫?」
「あっ……うん、そっか、私寝ちゃってたんだね……何日くらい?」
「いや、一日も経ってないよ」
「そっかぁ、でも心配かけちゃったね、ごめんね鈴、もう大丈夫だから!」
苺はそう笑顔で言う。
「それでは話の続きをしてもよろしいでしょうか?」
「まだ何か?」
「はい、ローゼのこととユーベル化モンスターのことです、これについてはここだけの話ということで、聞いてください」
三嶋の真剣な表情に苺も鈴も耳を傾ける。
「……ここからは社員としてではなく、タケとして喋る、これを言うのは禁則事項だからな」
「わかった、じゃあ堅苦しいのはなしってことで」
そして、三嶋はローゼのことについて、苺と鈴に伝える。
「……まずなぜここでローゼの名が出るかだが、以前、《自動クエスト生成システム》というものが導入された、今回の件もこれが原因だと俺は予想してる、そしてこの《自動クエスト生成システム》……本社のほうでは、《ローゼ・システム》と呼ばれているらしい」
「え……? つまりローゼは……?」
「AI、人工知能だ、プレイヤーの言動や行動を読み取り、最適なクエストを生成していく、それが最近導入されたことで一番近くにいた君達チーム《ゼラニウム》を中心に多くのクエストが展開された」
ローゼの正体を知った苺と鈴は驚愕する。当たり前だ、ローゼがAIなんて信じられなかった。
「ただローゼ自身が手動でクエストを作ることは出来ない、クエストの生成はローゼとは別のものだ」
ローゼはただプレイヤーの気持ちや表情を理解しているだけにすぎない。ローゼ自身にそれを止めることは出来ない。
「………そして、ここからが最も重要な話だ」
三嶋は苺と鈴にお茶を淹れ、少し間をおいてからそう言った。




