第111話【聖火は失われた】
美しかった炎の面影すら消し去り、真っ黒な邪悪に満ちた自身の黒い炎に《ローエンフリューゲル・朱雀・ユーベル》は焼かれて苦しむように唸る。
『_____ッ!!!』
耳障りな甲高い咆哮をあげると、《ローエンフリューゲル・朱雀・ユーベル》は黒炎の火柱をフィールドに数え切れないほど出現させていく。
「っ! どこから来るかわからない!」
「うあっ! あ、足が……」
地面から噴き出るように出現する黒炎の火柱は予測が出来ない。地面が一瞬黒くなったかと思うと、避けた先で黒炎は噴き出るのだ。
そして、黒炎の火柱を足に受けてしまったベリーの足は自分のものではないかのように動かなくなり、HPの最大値が3分の1になる。
「ベリー……っ!」
黒炎の火柱は敵味方関係なしのようで、フィールドにいるモンスター達は黒炎に焼かれて消滅していく。
そして、片足が動かなくなったベリーに向けて、《ローエンフリューゲル・朱雀・ユーベル》は巨大な黒炎球を吐く。
「っっ!!!」
ベリーは目を強く瞑り、賭けに出る。脳をフル回転させて、【雷公】、【真・雷公ノ太刀・八雷神】、【伏雷】を連続で、それも高速で発動する。
「ッはぁッ……はあッ……! 避けれた……!」
そう思ったのも束の間、避けた黒炎球は地面に衝突すると、フィールド全てを焼き尽くす勢いで強く弾ける。
もちろんその攻撃は避けられるはずもない。が、しかし。こちらも予想外だ。
「【パーフェクトガード】ッ!!!」
「【テレポート】ッ!」
なんとこの短時間でソラとベルが到着したのだ。ソラはバウムの前に立ち、【パーフェクトガード】を発動。そしてベルはベリーに触れると【テレポート】を発動してソラの後ろに瞬間移動する。と、こんなことをしている間に普通は攻撃を喰らっているところだろう。だが短時間で来れたのにも理由がある。
「ぐおっ!? クッソ重いなぁおい!」
「間に合って良かったぁ……アップル達も後から追い付くからねベリー、バウム君」
「な、なんで……こんな早く?」
「あぁ、ロウとハクを丁度見かけてね? スピード爆上げして貰った」
「なるほど」とベリーとバウムは心のなかで思いながら、安堵した。
「っと、ロウがワールドチャットでプレイヤーに呼び掛けてるね、これならすぐプレイヤーが集まるかも……ソラ兄さん、平気かい?」
「兄さん言うな! MP回復頼むッ!」
「はいよ、【マジックヒール】」
ベルはソラの無くなったMPを【マジックヒール】で回復させる。
「おっ? 私の【分身】によると後……10秒で100人連れてくる……!?」
【分身】を一人、アップルやフィール達のところへ残していたベルは、【分身】の情報を受け取るとそう言って驚いた。
そしてそれが本当のことだと、すぐにわかった。
「べ、ベル……あれ……」
「うわぁ……」
ベルは理解した。あれはハクの《ファング》だと。隣を走っている《ファング》と比べると小さいものは、恐らくアップルが召喚した《ニーズヘッグ》だろう。
《ファング》の大量の触手がうねうねと“何か”を掴んで走ってくる様は、むしろあちらがボスモンスターではないかと思うほど強烈な印象だ。
「ま、待たせたわね……うん、私もっと頑張るわ……」
「うん、まぁ、あれと比べちゃうとね……」
《召喚術師》ではないハクがあんなものを召喚……いやもう召喚なのかすらわからない。
そして《ファング》にくわえられるのが嫌だったのか、アップルと一緒に《ニーズヘッグ》に乗っていたロウが降りてくる。
「こいつの乗り心地最高だな…次は《召喚術師》にするか……」
そうロウが言うほど《ニーズヘッグ》の乗り心地はいい。
乗り心地は別として、アップルに乗せてくれと懇願するプレイヤーもたくさん居たが、今は大人しく触手にくわえられている。
「まぁ……それはいいとして、あのモンスターを倒せばいいってことね」
黒炎球の爆発も終わり、そう言って空を漂う《ローエンフリューゲル・朱雀・ユーベル》を見据えるアップル。
「うん、でもあの炎は絶対避けてね! 当たったら動かなくなるんだよ!」
「そうか、だが時間制限があるはずだ、しばらく後ろで待機してろ」
ロウはそう言うとこの場にいるプレイヤーに対してメッセージを送る。
「よし、暴れるぞぉぉッ!!!」
「はい! 【パワーアップ】!」
ロウの言葉で、プレイヤー達は《ローエンフリューゲル・朱雀・ユーベル》へ突撃していく。その途絶えのない攻撃にいくらユーベル化した四神であろうと耐えられるはずがない。
「【狙撃】ッ!」
ベルはスナイパーライフルを構えて《ローエンフリューゲル・朱雀》の頭や心臓部分に弾を撃ち込む。
そしてもちろんハクの《ファング》やアップルの《ニーズヘッグ》も攻撃をする。
『//★∠▼◇∋≫≫▼ッ!!?』
しかし《ローエンフリューゲル・朱雀・ユーベル》も分身体を出現させて対抗していく。その咆哮に多くのプレイヤーが不気味がるが、《ファング》や《ニーズヘッグ》、ロウの攻撃で怯む姿に「自分達もやらなくては」という気持ちになり、《ローエンフリューゲル・朱雀・ユーベル》のHPはどんどん無くなっていく。
「【遠雷】ッ!」
ベリーも【遠雷】で微力ながら攻撃していく。
「ん……あと少し……【グラム・フィニッシュ】……!」
《ローエンフリューゲル・朱雀・ユーベル》のHPが残り僅かとなり、フィールは【グラム・フィニッシュ】を発動して拘束する。
「ナイスフィール! 【神技・大車輪】ッ!」
ソラはそう言うと【神技・大車輪】で拘束されて動けなくなった《ローエンフリューゲル・朱雀・ユーベル》を攻撃する。
続けて他のプレイヤー達もスキルを発動して《ローエンフリューゲル・朱雀・ユーベル》のHPを削り切った。
「んだよ、手応えねぇな」
「これだけプレイヤーがいたらそうなりますよ……」
多すぎるプレイヤー、そして《ファング》、《ニーズヘッグ》という強力なモンスター。到着してからすぐに決着がついてしまった。だから、気が緩んでいたのかもしれない。
「……ッ!? 皆ガードをッ!!!」
ベルが何かを感じ取り、そう叫ぶ。だがしかし、どうやら遅かったようだ。




