第108話【雷公】
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活動報告は今回はお休みさせて頂きます。
それではどうぞお楽しみください!
『スキルばかりに頼っているようでは俺を倒すことは出来ないぞッ!』
そう言う鬼は、確かにスキルの多用はしていない。しかしベリーもそうしてしまうとやられかねないのだ。だがベリーもスキルを多用しているだけではない。
「っ、ちょっと怖いけど……応用技を見せてあげるよ!」
『ほう、応用とな?』
応用、それは【閻解ノ大太刀】の力を留めるのと同じで、スキルなどの使い方を工夫し、オリジナルの技を生み出す。もちろん簡単なことではない。
「【激流ノ太刀・雨ノ剣】ッ!」
ベリーはそう言ってスキルを発動すると、《試練の間》の天井に雲ができ、剣状になった雨が作られる。
「よし、【真・激流ノ太刀・高霎】…10連ッ!」
そして、ベリーは【激流ノ太刀・雨ノ剣】を維持したまま、【真・激流ノ太刀・高霎】を《試練の間》の壁を利用して連続して発動し、風を起こしていく。
『……まさか、ハッハッハ! そうか、確かに可能だな!』
ベリーの意図がわかったのか、鬼はそう言って高々と笑う。
“雷”の発生方法は知っているだろうか。簡単に言うと雲の中の氷が俊敏に動くことで、氷同士が激しくぶつかり、ぶつかったときの摩擦で静電気が発生する。そしてその静電気が大きくなることで雷となる。
【激流ノ太刀・雨ノ剣】で発生した雲に、温度や水分があるのかは疑問だが、【真閻解】などの炎が熱く感じるように、スキルはリアルに近い形で作られている。ならば、雷を発生させるのも可能だ。
「ハッ! やぁッ! とうッ!」
【真・激流ノ太刀・高霎】による摩擦も重なり、静電気が大きくなっていく。
『だが、その雷如きで俺を倒せるとでも思っているのか?』
確かに雷で鬼を倒せたとしても、また復活するだけだ。しかしベリーの狙いはそこではない。
「ハァァァッ!」
最後の【真・激流ノ太刀・高霎】を発動し終えた瞬間、雷が発生し、雷が鬼の元へ……落ちなかった。
『何ッ!?』
「水を得て【激流】の力が解放されたのなら! こういうことだぁぁッ!」
ベリーは自ら発生させた雷に直撃する。その瞬間にまたトラウマが甦る。
「……ッ! もう高校生なんだし、そろそろ克服しなきゃ! 怖くない、雷なんて怖くないよ!」
ベリーがそう言うと、それに答えるかのように《鬼神ノ太刀・閻解》は雷を吸収していき、金に近い黄色に輝いていく。
「あ、あの石……!」
ベリーは拾った綺麗な石は、さらに強く光る。
『自ら力を解放するとは……認めよう、貴様は持ち主に相応しいッ!』
鬼はそう強く言うと、【真・激流ノ太刀・高霎】を発動する。
「【雷公】ッ!」
そう言ってスキルを発動したベリーは、髪も、瞳も、装備も全て黄色く変化する。ずっと輝いていることで金色にも見えなくはないが。
『なにっ、避けただと……!?』
「凄い……身体が軽いよ!」
【真・激流ノ太刀・高霎】をベリーはスキル無しで簡単に避ける。
攻撃力を主に強化する【閻解】、バランスよく強化する【激流】と、ステータス強化も変わってくるのだが【雷公】は主に、俊敏力を強化する。防御力が少し下がるが、その分素早く動くことができるのだ。
「【帯電】!」
ベリーは【帯電】を発動し、雷属性攻撃力の強化、雷属性耐性の強化、そして唯一の欠点である防御力を強化する。
『だが不死の謎は解けていないぞッ! 【水流加速】ッ!』
鬼はそう言って【水流加速】を発動してベリーに接近する。
しかしベリーは落ち着いてスキルを発動する。
「【雷光一閃】ッ!」
【一閃】の攻撃力、スピードを超強化した【雷光一閃】を放って鬼の首を斬る。
鬼はまた復活するが、ベリーは構わず復活中に接近して再度背後から首を斬る。
『グッ……! まさか……もう気付いているのか…?』
「【雷槌】ッ!!」
ベリーは雷を左拳に纏わせ、【雷槌】を発動して鬼の頭を殴り飛ばす。【雷槌】は拳や刀の柄で行う唯一の打撃攻撃だ。応用も効きやすい。
「い、いったぁ……! 柄でやれば良かったよぉ!」
ベリーは赤くなった左手をぶらぶらと揺らして言う。鬼を殴り飛ばしたのだから当然だろう。そしてベリーは気付いている。復活までの時間がどんどん長くなっていることに。
「不死身じゃなくてあなたのはただの“超再生”……かな?」
『気付かれたか……あぁそうだ、システムが死亡した、と判断する前に回復しているだけだ』
これも鬼の力なのか、それは不死ではなく超再生。しかしその力は強力で即死レベルのものでも一瞬で回復し、復活するのだ。
だが復活速度が遅くなっているということは、限界があるということになる。
「悪いけど一瞬で終わらすからね!」
『やれるものならなッ!』
鬼は刀を力強く振るう。もちろんベリーは避け、“真”の力を発動する。
「【真・雷公ノ太刀・八雷神】ッ!」
ベリーはそう言ってスキルを発動する。だが攻撃もする様子がない。ただ雷の力を得た《鬼神ノ太刀・雷公》が激雷を纏い、大太刀となっているだけだ。
『それが“真”の力だと言うのか? それに、貴様が使えるなら俺も使えるのだぞ?』
「使える…と思うよ、でも、あなたの《鬼神ノ太刀》は《烈火》のまま!」
そうだ、鬼が使う《鬼神ノ太刀》は今だ《烈火》。その理由は【閻解】、閻魔を解放できていないからだ。ベリーの《鬼神ノ太刀》が自由に変化できるのは《閻解》の名を持っているからできることなのだ。
だから【雷公】を使えたとしても、それは確実にベリーより劣る。
「そして“八雷神”の力はここからだよ! 【大雷】ッ!」
【真・雷公ノ太刀・八雷神】は攻撃力を強化し、新たにスキルを追加する。その一つが【大雷】、名の通りの巨大な雷を落とし、鬼のHPを0にする。
『グァァッ! まだだ! 【真・激流ノ太刀・闇霎】ッ!』
鬼は【真・激流ノ太刀・闇霎】を発動し、ベリーに攻撃する。
「【伏雷】!」
ベリーは【伏雷】を発動する。その効果でベリーは雷に成り、瞬間移動とも思えるスピードで鬼の両腕を斬り落とす。
『グゥッ!』
「……【静靂】」
そして“八雷神”ではない、【雷公】のスキル、【静靂】で納刀した状態から音もなく鬼の首を斬る。再び納刀するのだが、恐ろしく速く、刀など抜いていないように見える。
『……そろそろ、限界…か……』
復活した鬼だが、左腕の再生がまだ終わっていない。
「ありがとう鬼さん、いろいろ学んだよ」
『そうでなくては困る、もう一度言うぞ……貴様は上へ登れ、そして己に嘘を吐かず、真の心を持って生きて行くのだぞ』
鬼は《鬼神ノ太刀・烈火》を納刀し、どっかりと地面に胡座をかいて座って言う。
「うん! 私頑張るよ!」
『あぁ……では殺れ』
「や、やっぱり……やらなきゃダメなの?」
『ダメだ、殺れ』
鬼の強い眼光に圧され、ベリーは目を閉じ静かに刀を抜く。
「……ハアッ!!!」
そして、鬼がやっていたように、力強く刀を振るい、首を斬った。
『クエスト《五老人ミニゲーム・ファイナル》をクリアしました。』
電子音声がそうクリアしたことを知らせる。鬼も光の粒となって消え……
『あぁ、終わったか』
「えっ、ええぇっ!!?」
鬼は消えず、再生して何事もなかったように起き上がってそう言った。
『言っただろう、不死だと……超再生の効果を薄くし、クエストをクリア認定させる……あとは普通に生き返るだけだ』
「え、えぇ……」
ベリーはなんとも言えない顔をする。
『まぁいいだろう? ほら、報酬だ、受け取れ』
「は、はい……」
鬼から報酬としてスキル、【風林火山】を受け取るベリー。
『そして俺個人からの報酬だ、その石を渡せ』
「えっ? えぇっと……はい!」
ベリーは鬼に光輝く石を渡す。すると鬼は何か力を込めていく。
『やはりこの石、凄まじい力を秘めている……これなら』
鬼がそう呟き、懐から腕輪を取り出すと、石をはめ込む。
『《神従の腕輪》、これを装備すれば【鬼神化】をうまくコントロール出来るはずだ』
「そ、そうなんですか!?」
【鬼神化】のコントロール。それはつまり、副作用である頭痛を無効化出来るということだ。
ベリーはそれを受け取ると、早速装備すると、どこか軽くなったような気がした。
『ではな、また何かあったらここへ来い』
「はい! ありがとうございまし……たぁぁぁぁ!!?」
ベリーがお礼を言っている途中で鬼はベリーを浮かせ、天高く打ち上げる。
『礼はいらん、強く生きろ』
鬼がそう言うと、第零階層は蓋を閉じたように消え、ベリーは気付いたときには第五階層の五柱の遺跡に戻ってきていた。
「……こ、高所恐怖症になるよぉお!」
本日二回目の空中浮遊にベリーはそう叫んだ。
雷、完全克服!




