第104話【青晶龍アズールブラウ・クォーツドラゴン・U】
《クォーツドラゴン・ユーベル》の形がドロッと崩れ落ち、どういうわけか四神青龍のデータが融合して新たなモンスターとして形を成していく。
「そ、そんな、こんなこと……あり得ないです…!」
この場にいる全員の中でも一番驚愕しているローゼがそう言って身構える。
ドロドロになったものは、やがて巨大な水晶として構築され、その中には一匹の龍の姿が見える。
『_____ッ』
龍は目を開けると、水晶を破壊して中から出てくる。
『__#¥○%▼、♪¶¬¢!』
耳障りな電子音で大きく咆哮して現れたのは、四神青龍と融合した、《アズールブラウ・クォーツドラゴン・U》という、新たなモンスター。
第四階層ボスでもあり、四神でもあるその姿は《クォーツドラゴン》の面影はあるものの、翼が二対四枚となり、尻尾も太く長く鋭利になっているようだ。その大口から垂れる涎は強い酸性を持っているようで、地面に『ジュッ』と音をたてて消え、牙は鮫のようなギザギザした歯が上顎下顎にビッシリあり、二重になっている。
『t¥>sk§£△t‰Δ▲▼%』
見た目からは想像できない声は、その姿をより一層不気味に感じさせる。
「…やるしかない、みんな、やるよ!」
ベルはそう言って戦闘態勢を取る。ベリーも本能的に「この状況はおかしい」と悟り、再び刀を構える。
「ん…? あ、あれ? う、動けない…!?」
しかし、ベリー……いや全員の足が自分の足ではないかのように動けなくなる。
「あ、足が水晶に捕らわれてるわっ!」
「くっ、やべぇ、あいつのあの動き……またレーザーブッ放す気だッ!」
全員の足が《アズールブラウ・クォーツドラゴン・U》の能力で足が水晶に包まれ捕らわれる。そしてそんなところを狙うように大口を明け、レーザーブレスをチャージし始める。
「【絶対回避】を発動したとしてもここから離れるかわからないし……あのブレスの長さじゃどのみち…ッ!」
「砕く…しか……ない……!」
ブレスの長さ、そして【絶対回避】がうまく発動するかもわからない。ベルはどうこの状況を打開するか考えるが、フィールの言う通り砕くしかない。が、しかし。
「っ! なに……これ……」
《エクスカリバー》で足の水晶を砕こうと突き刺すと、水晶は《エクスカリバー》を呑み込むように広がっていく。それと同時に、全員のMPが徐々に減っていく。
「もしかして……僕達のMPを吸収してる!?」
「なんだと!? クッソ、これ取れねぇ! 動くとどんどん広がってく…ッ!」
ソラはなんとか取ろうと足を動かすが、動くと水晶はソラを呑み込んでいってしまう。
『_____ッ!!』
大口に溜まっていく青白いエネルギー体が、どんどん大きくなっていく。時間はもう無い。
「…………【捕食者】」
するとベリーは【捕食者】を発動し、《アズールブラウ・クォーツドラゴン・U》のHPとMPを吸収する。
「【開放ノ術】」
そして【開放ノ術】を発動し、攻撃力を上昇させる。
「【正宗ノ技】…!」
さらに【正宗ノ技】を発動して攻撃力を二倍にする。
「ベリーさん、無理はしないでください……」
「…うん、わかってるよ! 大丈夫! 私がなんとかするから!」
ベリーはローゼのほうへ向かって笑顔で言ったが、正面の《アズールブラウ・クォーツドラゴン・U》を見る顔は真剣そのものだった。
「待ってて、クーちゃん……【真閻解】ッ!」
そう言ったベリーは【真閻解】を発動する。もしかしたら前のように眠ってしまうかもしれないが、それでも今は、ベリーの中ではクーちゃんの願いを叶えることが最優先だった。
ローゼ以外、【真閻解】を初めて見るみんなはその姿に驚いて声も出ない。
「閻魔さん、力をお貸しください……」
ベリーは胸に手を当て、そう祈る。
『……承知、我が主の願いならば』
鬼神閻魔はベリーに答え、さらに力を解放する。
「【全解放】ッ!」
【真閻解】の全ての力を引き出す、【全解放】を発動したベリーは、炎に包まれ、その身を焦がす。
「こ、これ…私達のMPがベリーに?」
【真閻解】の能力の一端、フィールドのMPを持つものから瞬時にMPを吸収する。それは自身のMP上限に達しても吸収し続ける。
それだけではない、【全解放】によりMPの吸収スピードは格段に上がり、さらにベリーのステータスは二倍される。
『我は鬼神、我は閻魔、我が力は炎! 主の願いを聞き入れ、今ここで罰を下すッ!』
ベル達の耳にも、鬼神閻魔の声が聞こえると、炎から開放され、HPが1になったベリーの背後に巨大な鏡が出現する。
「『いざ、【審判】の時ッ!』」
ベリーと鬼神閻魔がそう言うと、背後の鏡に《アズールブラウ・クォーツドラゴン・U》だけが写し出される。
『◎◎⇒▲〇∀…?』
『判決を言い渡す、灼熱の炎に焼かれて天に還れッ!』
【審判】が終了すると、鬼神閻魔がそう言い放つ。その瞬間に《アズールブラウ・クォーツドラゴン・U》の身体の至るところから炎が噴出する。
『g+++△+*;◇!?』
自身から噴出する炎に焼かれ、HPが急激に減少していくことで、《アズールブラウ・クォーツドラゴン・U》は暴れだす。
「……【真・閻解ノ燈太刀・閻魔纏・天昇】ッ!」
ベリーは静かに刀を、《鬼神ノ太刀・閻解》を構え、【真・閻解ノ燈太刀・閻魔纏・天昇】を発動して、《アズールブラウ・クォーツドラゴン・U》を焼く炎を吸収する。
「せめて安らかに……さようなら、クーちゃん……ッ!」
ベリーは吐き出すようにそう言って、力強く踏み込み《アズールブラウ・クォーツドラゴン・U》に一筋の光を残しながら一直線に斬った。
『a/r▲gt__u▽●』
《アズールブラウ・クォーツドラゴン・U》は身体中にヒビが入り、まるで脆いガラスだったかのように崩れ落ち、光の粒となって【真・閻解ノ燈太刀・閻魔纏・天昇】の炎と共に天昇して消滅する。
「……ベリー、ごめん、何も出来なかった………」
「ううん、ベルもみんなも悪くないよ…! 私がやらなきゃって思っただけ! と、とりあえず第五階層の街に行って休もうよ! ね?」
ベリーは暗い表情のベル達に向かってそう笑顔で言うが、内面ではそうとう無理をしていた。
『…主よ、【真閻解】の発動中はまだ平気だが、解除には極力気を付けるよう……』
「う…ん……大丈夫……」
発動中は鬼神閻魔が表に出ているので、力の制御が可能だが、解除すると鬼神閻魔が内側に引っ込んでしまい、その反動で意識を失ってしまう。しかしそれは普段より深く眠るだけとなるので、身体的な心配は低いと思われる。
「ベリーの言う通り…一度休もうか」
「僕も賛成です…」
「……私もよ」
ベル、バウム、アップルはそう言って、出口へ向かって歩き出す。
「ソラ……」
「大丈夫だ、安心しろ……じゃあ先へ進もうぜ、ほらローゼも来い」
「はい……」
ソラはそう言ってフィールを安心させ、立ち止まっていたローゼを呼ぶ。ローゼの表情は暗く、どこか自分を責めているようだった。
こうして、ベリー達はイレギュラーに遭遇しながらも《アズールブラウ・クォーツドラゴン・U》を討伐し、第五階層へ進んだ。




