第103話【第四階層ボス戦…】
「どうして…なんでこんなことに……」
ベリーはそう言って脱力する。
どうしてこんなことになったのか、それは数分前の話だ。
* * *
第四階層ボスを倒し、第五階層へ行こう。ということになったベリー達は、何事もなくいつものようにダンジョンを攻略していった。
「っと、そろそろボス部屋かな? それにしても私達もうまく連繋できるようになったね!」
ベリーは段差を下りてそう言う。確かにベリー達の連繋も前と比べると格段によくなっている。
「まぁこんだけ一緒にやってたら嫌でもうまくなるよ、おっ、ボス部屋到着!」
ベルがそう言ってボス部屋の扉の前に立つ。
「よーし、張り切っていこー!」
ベリーの掛け声に、みんなも声を上げ、気合いを入れる。
しかし、重々しく開かれた扉の奥に居たのは……
「えっ、クーちゃん…?」
ベリーは目の前に起きていることが理解できていない。
そこには第四階層の水晶の街の守護龍であるクーちゃん、《クォーツドラゴン》が何かを貪り喰っていた。
『…………?』
《クォーツドラゴン》はベリー達に気付いたようでこちらを振り返る。
「く、クーちゃんがなんでここに? だって、え? クーちゃんが第四階層のボスなの…?」
「ベリー、武器構えて」
「べ、ベル? なんで…皆もなんで武器を……」
ベリー以外の全員が、それぞれの武器を構える。ベリーはその行動に一瞬理解出来なかった。しかし、ベル達の雰囲気、そして様子がおかしい《クォーツドラゴン》と、その奥にある、《クォーツドラゴン》が貪り喰っていたものを見て、ベリーは静かに刀を抜く。
「この前、第四階層攻略者達の話が聞こえてね、どうやら恐竜っぽい見た目のやつだったらしいんだけど……あの奥の死体、第四階層のボスだよ……」
「え……」
そう、《クォーツドラゴン》が貪り喰っていたもの、それは本来、この第四階層のボスを務めるモンスターだったのだ。
『グォォォォーーーッ!!!』
《クォーツドラゴン》から、理性も何もない咆哮が部屋中に轟く。
「あの名前の表記は……!」
ローゼがそう言って、瞬時に攻撃体勢を取る。
第四階層ボスを倒し、それを喰らう、そして第四階層攻略者達の話から、これは本来起こってはいけないこと。
「《クォーツドラゴン・ユーベル》……っ!」
『グオオォッ!!!』
『クエsトを開始しmス』
新たな第四階層のボスとなった、《クォーツドラゴン・ユーベル》の討伐クエストが開始されると、部屋は一瞬で結晶化し、《クォーツドラゴン・ユーベル》は冷気のようなものを纏う。
「どうして…なんでこんなことに……」
ベリーはそう言って脱力する。
「ベリー! 来るよ!」
脱力したベリーに、《クォーツドラゴン・ユーベル》は空中に水晶の塊を作り出し、それを高速で放つ。
「【オートディフェンス】ッ!」
ソラがそう言って自身の盾を投げる。【オートディフェンス】は《聖剣士》が取得できる、仲間を自動ガードするスキルだ。それによってベリーは水晶の塊から守られる。
「っ、ありがとうソラ君!」
「おう! どういうことかはわかんねぇがあれは俺達が知ってるクーちゃんとは違う、とりあえず瀕死まで追い込むぞ!」
「…うん、そうだね、【鬼神化・閻解】ッ!」
ベリーはそう言って【鬼神化・閻解】を発動。攻撃を開始する。
「「【一閃】ッ!」」
ベリーとバウムが同時に【一閃】を発動して放つ。が、しかし、なんという反応速度か、《クォーツドラゴン・ユーベル》は瞬時に水晶の壁を生成し、攻撃を防ぐ。
そしてそこから動きがないと思った瞬間、水晶の壁を貫通して極太のレーザーのような白銀のブレスを吐く。
「【パーフェクトガード】ッ! 今がチャンスだ、叩き込め!」
ソラが【パーフェクトガード】でレーザーブレスを受け止めると、その言葉で一斉攻撃を仕掛ける。
「【クリンゲル・シックザール】!」
ベルがHPを消費し、《クォーツドラゴン・ユーベル》の防御力を下げる。
「【三日月斬り】ッ!」
「【閻魔】ッ!」
「【グラム・フィニッシュ】…!」
バウム、ベリー、フィールの三人の攻撃が《クォーツドラゴン・ユーベル》に命中する。見た目通り鱗である水晶は硬く、武器が弾かれてしまうがベルの【クリンゲル・シックザール】により防御力が低くなっているため、HPは問題なく削れる。
「【シーセン】ッ!!」
そしてローゼはホーミングレーザーを大量に放つ【シーセン】を発動して攻撃する。しかしローゼはその一瞬の時に《クォーツドラゴン・ユーベル》がブレスを吐きながらこちらを見ていたことに気付く。
「皆さんガードを!」
そうローゼが言った瞬間、《クォーツドラゴン・ユーベル》は空中に水晶を作り出し、【シーセン】を反射していく。
「【絶対回避】ッ!」
ベルは【絶対回避】を発動して避けるが、すぐ背後に水晶の板が出現し、避けた【シーセン】を反射してベルの背に命中させる。
「くっ、ってまずいソラが!」
長々とレーザーブレスを吐き続ける《クォーツドラゴン・ユーベル》により、ソラはその場から動けずに居た。
「や、やべぇ!」
「ソラ……! 【カウンター】…! 【カウンター】…!」
ソラに向かってきた【シーセン】をギリギリでフィールが【カウンター】を発動して防ぐ。
「すみません、私のせいで……」
「ローゼのせいじゃないよ! ほら、行くよ!」
「はい……」
ベリーはそう言ってローゼと共に《クォーツドラゴン・ユーベル》に攻撃をしていくが、ローゼはそれでも謝るざるを得なかった。なにしろこんなイレギュラーな展開になったのはローゼの《自動クエスト生成システム》が半分原因なのだ。“悪魔”によりモンスターのデータが狂わされ、本来のクエストから脱線するモンスターを修正ではなく、新たなクエストとして生成してしまう。
「(そもそもあの“悪魔”自体、データに存在しないはず……私のシステムはクエストは生成出来ても新しくモンスターは生成出来ない……このゲームを開発した五島文桔に連絡しても応答なし…運営はこの事を認知していない…?)」
ローゼは幾度となくアメリカの本社にいる、NGO制作者の五島文桔に連絡を試みたが、応答は無く、メールを送っても既読すらされていなかった。
「【閻解ノ大太刀】ッ!!!」
ベリーは【閻解ノ大太刀】を発動して、《クォーツドラゴン・ユーベル》の首を攻撃すると、レーザーブレスがやっと中断された。
「HPも半分を切った! 総攻撃した一気に削るよ! 【フルチャージ】ッ!」
ベルの【クリンゲル・シックザール】により防御力が低下したためHPはもう半分以下となった。
「【激流】! 【真・激流ノ太刀・高霎】ッ!」
「【サウザンドシュート】ッ!」
「【幻手】、【新月】ッ!」
ベリー、ベル、バウムの攻撃が放たれ、そして続いてソラ、フィール、アップル、ローゼも攻撃する。
『グォォォォ……ッ!』
大ダメージを受け、転倒して気絶する《クォーツドラゴン・ユーベル》、狙い通り瀕死まで追い込むことには成功したが、元に戻るというようなことは感じられなかった。
「クーちゃん……」
ベリーは納刀し、そう呟く。すると、そんな声が届いたのか《クォーツドラゴン・ユーベル》はゆっくりと目を開ける。
「クーちゃん! クーちゃんっ!」
『……あ、ナた…達……ハ………おネガい…でス、殺シ、て……クダさい、このマまでハ……街の人達ヲ、危険に…晒しテシまウ……だか……ラ……ッ!?』
しかし、クーちゃんはそう言ったのを最後に“クーちゃん”というものは消えてしまった。
『《自動クエスト生成システム》ニヨル、クエスト生成ヲ確認。第四階層ボス戦ヲ開始シマス。四神討伐クエストヲ開始シマス。ユーベル化討伐クエストヲ開始シマス。モンスターデータノ融合ヲ開始シマス。完了マデシバラクオ待チクダサイ。』
バグったように電子音声が響き、《クォーツドラゴン・ユーベル》の身体はドロドロに溶け、新たな形を形成していった。




