第102話【今の僕の精一杯の気持ち】
四神、白虎を討伐してから数日、現実世界時刻13:00、今日は苺達の住む街に初雪が降り、雪が薄く積もり始めて来た。
今日は休日、苺は鈴達と共に、雪が降る中を特に目的なく散歩していた。たまにはこんな日もあるのはいいものだ。
「ん……寒い………」
「大丈夫か? ほれマフラーやるよ」
マフラーをしておらず、寒がっている理乃に大斗は自身が着けていたマフラーを取り、理乃の首に巻く。
「あ…ありがとう……」
「…おう」
そう言って顔を赤らめる二人を見て、苺達は心が暖かくなる。
「ロウさんやハクちゃん、ローゼともこっちで会ってみたいなぁ……」
ふと苺がそんなことを言う。
「それはわかるけど、場所が近いとは限らないし、その三人は忙しそうなイメージがあるからねぇ」
鈴はそう言いながら、近くにあった自動販売機の前に立ち、お金を入れる。
「あー、特にローゼは知的な雰囲気があるし、仕事とか凄い出来そうよね」
林檎はそう言って、鈴の後に自動販売機で飲み物を購入する。
「意外とみんな近くにいたりしてな! ってそれはさすがにねぇか、俺もなんか買うか…理乃は何にすんだ?」
「大斗と同じの……」
と、大斗はそう笑いながら言って自動販売機で飲み物を二つ購入する。
「僕も買お…って、あはは、みんなコーンポタージュだね」
正樹がそう言って大斗の後にみんなと同じくコーンポタージュを購入する。寒い時期のコーンポタージュやココアは格別だ。
「ほあぁ~、暖まるねぇ……」
「そうだねぇ~」
苺達はベンチの上に少し降りかかった雪を退けて、腰掛けてコーンポタージュを飲んで一息つく。
通行人達も初雪を眺めて会話が弾んでいるようだ。
「四舞、コンポタ飲むか? 奢るぞ」
「ほ、本当ですか六山さん! それは嬉しいですが……でもそれで前の件、無かったことにする気じゃありませんよね?」
「んなわけねぇだろ、ちゃんとやってる、で、飲むのか? 飲まないのか?」
「の、飲みますけど! …なんかボクを子供扱いしてません?」
そう長身の男性と…長身の男性に比べると小さく見える女の子の会話が聞こえてくる。苺達と同じくコーンポタージュを買って、その場から離れていく。
「だから“ボク”はやめろって、てかなんで“ボク”なんだ?」
「これは生まれつきだから仕方ないです! というか最近の六山さんはやっぱり丸くなりましたね! そっちのほうが気になりますよ!」
「まぁそりゃあな…ってまずい、次の授業遅れちまう」
「次授業あったんですか!? 急がないとまずいですよ!」
「あぁ、ちょっと先行ってるわ、俺のコンポタやるからお前はゆっくりこい」
「え? ちょ、ちょっと、待ってくださいよー!」
四舞と六山という二人は、そう言って走っていってしまった。
「…なんか…ロウさんとハクっぽい?」
「え? マジか? まぁ似た人くらいいくらでも居んだろ」
「まぁ大斗の言う通りそんなもんだよ苺、あっ、私そろそろ行かなきゃ、じゃあねみんな! また!」
鈴は用事があるため、そう言って手を振る。
「あ、私も行きたいところがあったわ、今日はこれで失礼するわね」
「うん! 鈴も林檎ちゃんもまたねー!」
苺はそう言って正樹達と共に手を振って見送る。
「あっ! やべ、俺まだプリント終わってねぇよ!」
「ん…教えようか…?」
「マジか! 助かる! んじゃそんなわけなんでまたな、苺、正樹!」
「ばい…ばい……」
大斗は学校で出された数枚のプリントをやるため、そして理乃はそんな大斗に教えるためにそう言って走っていった。
「なんか急にみんな行っちゃったね? 正樹君はどうする?」
苺のその言葉に、最後に残った正樹はビクッと身体を震わせる。そう、全員が居なくなったのにはわけがあるのだ。
正樹は「そろそろ進展しろ!」と大斗や鈴に言われ、とりあえず今できることをする決意をしたのだ。
「そ、その…八坂さん……僕、八坂さんに案内したいところがあって……」
「え!? なにそれなにそれ! 行きたい!」
苺は目を輝かせて言う。鈴からのアドバイスで「正樹君なら大丈夫、正樹君がしっかり伝えれば苺にちゃんと届くから」、そう言われた。
「(告白はまだ心の準備が出来てなくて無理だけど……せめて……)」
正樹はそう心の中で強く思いながら、すぐ近くにある小さな山に向かった。
「ここって…私も小学生の時に鈴と来たなぁ! ブランコとかして! でもここの公園もう無くなっちゃったんだよね」
そう、正樹と苺が向かった小さな山には、元々公園があった。今は遊具も撤去され、広い平坦な空間があるだけ、そう街の全員は思っている。
「……これ、見せたかったんだ」
辿り着いたのは、元々公園があった場所の真ん中。そこには一本の大樹がまだ葉っぱを残して生えていた。
「わぁ……この木まだあったんだね! それに凄く綺麗!」
苺は葉を残し、その上に雪が積もった大樹を見てそう言った。
「そ、それで、その…実は……ぷ、プレゼントが、あって……」
「プレゼント…? わ、私誕生日だったっけ?」
急にプレゼントと言われ、そう言って首をかしげる苺。
「いや、その……日頃の恩返しというか……なんというか……」
正樹は必死に伝えようとするが、緊張と寒さからうまく口が回らない。
「あ、あの、そのっ……えっと……」
「……正樹君」
中半パニックになっている正樹に、苺はそう静かに声をかける。
「大丈夫だよ、安心して? 私は正樹君に何言われても、嫌いになんかなったりしないから」
「…っ!」
苺はそう言うが、正樹も苺を見てきた、もちろん苺はそういう人だということは重々承知してる。しかしやはり、声に出すとなるとどうしても緊張してしまう。
「それでも緊張しちゃうなら、笑えばいいんだよ!」
「わ、笑う…?」
「うん、笑えば緊張だってどっかいっちゃうよ! ほら、私みたいに笑って笑って!」
「八坂さん…みたいに……」
正樹は苺の言葉を聞いて、いつも苺がやっているような、明るく暖かく、みんなを包み込んでくれるような笑顔をイメージしてみる。
「…うん! いい笑顔だよ正樹君!」
苺の笑顔で正樹は自然と笑みが溢れていた、そして不思議と緊張も無くなっていった。
「八坂さん……いや、苺…さん、僕、いつも苺さんの声に救われました、そのキラキラした目に救われました、そしていつもみんなを明るくしてくれる、その笑顔に、救われました」
先程までの緊張が嘘かのように言葉が出てきた。
「だから、そんなあなたに、僕の、感謝の気持ちを、受け取ってほしい…です」
正樹はそう言ってコートのポケットから一つの包みを取り出し、苺に渡す。
「……わあ、ヘアピンだぁ! ありがとう! 正樹君! すっごく嬉しいよ!」
正樹がプレゼントしたヘアピン。苺に似合いそうなものを、何時間も考え抜いて選んだ、明るい苺の色をしたシンプルなヘアピンだ。今はまだ感謝の言葉しか言えないが、それでも今は、これを伝えられたことが何よりも嬉しい。
そして苺は早速それを身に付ける。
「っと、どうかな?」
「かっ、可愛い…です」
「えへへ……正樹君、このヘアピン、絶対大切にするよ! 本当にありがとう!」
そう言った苺に、雲の切れ間から光が差し、ヘアピンを輝かせる。しかし正樹がその時見た苺の笑顔は、光を反射して輝くヘアピンよりも、大樹の葉の間から漏れる光よりも、この晴れ行く空よりも…。
世界で一番、眩しかった____。




