焼き鳥
「どうする?あずきの焼き鳥」
彼女たちは楽しそうに
私のペナルティ、その内容を決めている
「前回は何やったんだっけ?」
「覚えてるわけなくね?」
笑いが起こる
ちなみに前回は
「クラスの男子にエロ写メを送る」だった
…今、思い出しても嫌になる
散々まとわり付いて来た挙句
告白してきて、その理由を聞いたら
「軽そうだったから」
それは、体重?
それとも、貞操観念?
どっちにしたって、デリカシーは欠片もないだろう
そんな事を堂々と言ってくるなんて
それが褒め言葉だと思ってるのだろうか?
その言葉はまるで
好きな食べ物の質問で
「安いから」
そんな理由で選んだみたいに聞こえて
適当に言い訳で誤魔化して、どうにか断ったけれど
振られたそいつは
写真をSNSでばら撒いた
初めてタイムラインに
画像が出てきた衝撃は忘れられない
確かに、特定されないように写真は撮った
危ないところは加工して、誤魔化して
それが私なんて分からないようにしてるけど
そいつが私に振られたなんて噂
そいつが流した誰か分からない写真
答えは名探偵な先輩じゃなくたって分かる
「それは、どう見える?」
正解は
「男遊びを趣味にしてる尻軽女」
…どうだろう、大正解だろうか?
ただ、それが私かと問われると
それは途端に難しくなって
この事件は迷宮入りしてしまう
確かに写っているのは私だし
そいつを振ったのも、私だけど
その尻軽女は私なのだろうか?
人から見た姿が本当なのだろうか?
……そこまで考えてどうでも良くなった
別に、考えても変わらない
私がそう思われてるのも
ここしかもう居場所が無いのも
何一つ変わらない
「……てかあずきって、ヤった事あんの?」
…全然話を聞いてなかった
私は少し笑って
「んー、無いよ?」
とりあえず返事を返す
彼女たちは私を見て
「最近、あずきビッチって言われんじゃん?」
さっき考えてた、クラスの噂話のことだろう
「ほんとテキトーだよね」
「私そんなことした事ないのに」
彼女たちは笑って
「だからさ、今回の焼き鳥それで決まりね?」
私は身震いする
いつもみたいに分からない訳では無くて
それでも聞かずにはいられない
「それって…何?」
群れのボスが笑顔で告げる
「だって可哀想じゃん」
「そんなふうに言われてるのに、した事ないの」
まるで優しさみたいな言い方で
「だから、ヤッちゃえばいいんだよ」
やっぱり私は噛み合わない
彼女たちのそれが理解できない
処女なのにそんな噂をされる事が可哀想
そんな噂をされるのに処女なのが可哀想
構成する物は同じなはずなのに
なんでこんなにも結論が違うのだろう?
私は笑ってしまう
確かに焼き鳥なら、串に刺されて然るべきだと
そんなどうでもいい事を思いついて
私は、笑うしかなかった。