なぞなぞ
先輩は薄いオレンジ色に染まってきた空を眺めながら
「そろそろ帰るかな」
そんな呟きを漏らしながら彼は地面に置きっぱなしのカバンを手に取って、私を見た
「てかさ、なんでお前死にたいの?」
まるでどうでも良さそうに
それでもその顔は真剣そのもので
私の事情を聞いてくる
先輩に笑いかけて
「何でだと思います?」
そんな意地悪なクイズをしてみた
彼は黙りこんだまま、考えているようで
しばらくして、ゆっくりと口を開いた
「まず、恋愛じゃない」
「その心は?」
「お前は恋なんてくだらないって言ってた」
「そんな下らない理由で死ぬ人いっぱい居ますよ?」
「違うね、それは他人から見たらそう見えるだけだ」
「自分でくだらないなんて思うものに命は賭けない」
正解だった、死ぬほど好きなんて意味が分からない
「で、いじめでもないだろう」
「学校から飛び降りる人、8割方そうだと思いますけど?」
「じゃあ、残る2割だろお前は」
「普通に考えて、その見た目でいじめは無いだろ?」
…確かに、どちらかと言わなくても派手な見た目
そこそこ可愛い容姿
クラスでも割とギャルみたいな集団に私は居た
その中では、地味な方ってだけで
別にイジメられてはない
だから、それも正解
「んで、そんな見た目してんのに、お前割と純情だよな?」
「100人切りとか、してるかもですよ?」
彼は鼻で笑って
「俺の話を馬鹿にしなかった」
「理由なく好きって言った俺を」
「ただ、恋焦がれてただけの夢を」
彼は真剣な目で私を見続ける
「出来るなんて言った」
彼はそこでふっと笑い
「あとパンツな」
「ビッチで、あれは無い」
その言葉にイラッとする
経験なさそうな先輩に言われたくない
私はいたずらっぽい笑顔を作り
「…先輩?」
スカートをたくし上げる
彼は慌てて目を逸らし顔を赤らめる
…私のスカートの下には
白くフリルのついたドロワーズがあって
「残念、見せパンでしたー」
彼はそれでもこちらを見ようとせず
目を背けたまま
「それでも見せるもんじゃないだろ?」
私はスカートから手を離す
「で、結論出ました?」
やっとこちらを向いた彼は私に正解を告げる
「中途半端だから、かな?」
その言葉に、私はドキリとした
「落ちた時にパンツ見えるの嫌なんて言うくせに」
「その癖、見せても良いパンツも有るなんて」
「中身と外見も」
「言ってる事とやってる事も」
「全部、中途半端だからだろ?」
そう、たしかにその通りだった
見た目なんて全部作り物で
それなのに、心は作りきれず
寒さに震えないために縋り付く居場所は
そこしか無い
それが理解出来なくても
そこにいる為にはやるしか無くて
そんな思いをするよりも
独りで居るのはもっと嫌だった
私は冷めた目で先輩を見ながら
「大正解です」
パチパチと乾いた拍手を贈る
じゃあそんな先輩にもうひとつ聞いてみよう
「あるのに無かったことになるのってなんですかね?」
彼女たちが言う、ノーカンの答えを教えて欲しい
彼は、皮肉っぽく笑って
「今度は、なぞなぞかよ」
考えるまでも無いような口ぶりで答えを口にする
「…どうでもいいもの、だよ」
「お前の見せパンと一緒みたいにな」
その答えに、私の顔が歪む
…私がそれを見られてなんとも思わないみたいに
彼女たちは、それをどうでもいいと思ってる
彼はそう言ったのだ
それなら私は多分ずっと、ペンギンにはなれなくて
作り物のまま、寒さに震えるのだと思う
彼はドアを開け、階段を下る寸前に誰に向けるでもなく
「あとは、片思いとかな」
それだけを言い残して、消えていった