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飛びたい理由

――まるで本当に、ペンギンみたいだ


昨日、彼にそんなことを言われたからだろうか

カフェのテラス席に友達と座りながら

私はそう思ってしまって


囲むようにして、皆が相槌を返して

内容はくだらないことばかりで

それでも私は、仲間外れになりたくない一心で

みんなと同じように笑っていて


まるで、寒さに震えながら身を寄せ合うペンギンみたいで

そんなペンギン達と同じように

中と外では、暖かさが違うみたいだった


「てかさ、あずきはいい加減、彼氏出来たん?」

急に話題を振られて戸惑いながら

私は困ったように愛想笑いを浮かべて

「いや、出来てないよー」

そんな返事を返しながら


聞いた彼女はどうでも良さそうに

「彼氏くらい、さっさと作んなよ?」

そんなことを言って、また違う話題が始まって


…さっさと、って何なんだろう?

それはまるで誰でもいいみたいな言い方で

それでも、そんなふうに言われてもしょうがないと

自分でも思いながら


化粧ポーチからコンパクトを取り出して覗きこむ


茶色く脱色された髪

第二ボタンまで空いたワイシャツ

規則なんて知らないような短さのスカート

耳に開いたピアス

可愛く作られた表情で笑うのが


山城あずきなんて私で


…こんな姿で言っても、説得力はないけど

私は別に、男遊びを趣味にしてるとかそんな事はないし

遊びどころか、男の子と付き合ったことすらない

ただの女子高生で


そんなただの女子高生は、この群れの中では異質だから

ただ頷きを返して、笑みを浮かべるだけの

端っこに追いやられて


ーーこれが、私の日常


「じゃあ、結果発表ー!」

告げられた宣告に暗くなりそうな表情を堪え

皆、バックからお金を取り出して机の上に並べて


「…っと私がトップかな?」

彼女の前に並べられた一万円札は4枚


「次はウチだね」

「今日はマジ捕まんなかったー」


彼女達は口々に言い合いながら笑っていて

テーブルにお金を出していないのは私ともう一人だけど

その彼女は不敵な笑みを浮かべて


「残念だけど」

「今日の一番はアタシだねー」


バックから取り出された10万円を見て

彼女達は一気に沸き立つ


「渚ヤバっ」

「10万ってどんだけヤリたかったって話?」

それに笑いが起こって


「んで、あずきは今日もゼロ?」

その言葉に私は小さく頷きだけを返して


これが私達のゲームでルールは至極単純

「援助交際を持ちかけて、誰が一番お金を持ち帰れるか?」

なんて、それはいつからか度胸試しみたいに始まり

気が付けば日常の一部になっていて


「なーんてね」

「メンドいからしてやったから」

「ノーカン、ノーカン」

「だから、あずきと一緒で今日はゼロ」


笑顔で告げられた言葉に戦慄して

…ノーカンって言うのは、彼女は行為に及んだって事で

確かに、このゲームのルールでは禁止だけれど


したのにノーカンってどういう事なんだろう?

そんな疑問はグルグルと渦を巻く


「…てか、あずき焼き鳥じゃない?」

「いっつもゼロだから恒例行事だけど」


このゲームでは何でか知らないけど

一ヶ月上がり…誰も捕まえられず、お金も持ち帰れ無いことを焼き鳥って呼んでて、そんな焼き鳥にはペナルティが課せられる


ペナルティは毎回違うけれど

誰も捕まえられない私はそれの常連だった


「っていうかさ、あずきはいつも突っ立ってるだけで誰にも声掛けてないし」

「ホント、興醒めなんだけど?」


群れから向けられる呆れるような視線に

縮こまるようにして


「…うん、分かってる」

そんな返事を返すけど、私は何もわからないままで

それでも私の居場所はここにしか無くて


彼女たちの言葉の海に溺れる私は

昨日の彼に言われた、ペンギン以下なんて言葉を思い出す


飛べもせず、泳げもせずにただ地面を這いつくばって

それはまるでニワトリみたいだなんて

だから、焼き鳥なのかと妙に納得してしまい


皆の出来る当たり前すらままならなくて

ただ、自分を終えてしまうことすらも出来なくて

臆病(チキン)な私は


夢を見ながら飛べなんて言ったけど

こんな悪夢を見てるなら

私は、何を見ながら飛べばいいんだろう?


それがニワトリな私の日常

一生懸命に囀る私の飛びたい理由なのに






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