幕間劇
「万有引力」
彼女の答えを聞いた時に
それを笑っていいのか、感心していいのか分からなかった
「林檎と恋」
そんな2つで、俺が連想するのは
「禁じられた果実」
知ってしまえばもう戻れず、知らなければ欲さない
毒のような甘さの事を言っているのだと思っていたから
そんなヒントをだしたのに
なるほどどうして、そう聞いてしまえば
確かにその答えも間違いではないが
――ただそれは、答えが合っているに過ぎない
最後の質問を聞く限り
「どうして落ちるのか」を考えて、その答えにたどり着いた訳ではないのだろう
俺がその言葉の正しい意味を理解したのは
もう、随分と昔の事で
高校でそこまで教わったのかどうかは
流石に思い出すことが出来ない
知る事と理解することは違う
彼女はまだ答えを知っただけに過ぎず
それに気づかなければ、この問題に丸は付けられない
なぜなら、これは証明問題だから
似ているようで違うそれに気づかなければ
それを証明できなければ、満点とは言えない
彼女はそれに気がつくだろうか?
この世界を不条理と嘆く彼女は
当たり前だと諦めずに、神のせいだと押し付けずに
それがどうしてなのかを考え続けられるだろうか?
この世界が不条理なのは、酷く単純で
それは、どこから物を見ているかの違いでしかない
誰かの幸福は、誰かの不幸であるように
勝者がいるならば、敗者がいるように
そんな天秤だと考えてしまえば
それは不条理でも何でもない
この世界は正しく、同じだけの幸福と不幸が有るのだ
ただ、その視点が違うだけに過ぎない
そして、常識は疑うべきで、常に曖昧で
誰かによって作られたものだ
「天動説」だって「四元素」だって
いつかの世の中では当たり前の常識だった
惑星は地球を中心に廻っていると思われていたし
物が落ちるのは元素があるべき所に還るからだと思われていた
でも、そうでない事を俺は知っている
地球だって、公転をしているし
物が落ちるのは重力があるからだ
でも、ただ知っているだけの俺は
当時のそれを、愚かだと笑えるのだろうか?
自分しか見る視点を持たなければ
どちらも同じだけ、正しく見えるとは思わないだろうか?
それが違うかどうか分かるのだろうか?
だから、これは証明問題
落ちるという意味を、万有引力と解いたその解を
正しく理解して、証明することが出来なければ
神様として、俺は彼女と会うことになる
彼女が嘆く不完全な世界を作った愚か者として
舞台に上がらなければならない
だから、目を背けず、耳を塞がず、疑う事を恐れずに
どうか、その問の正しい答えを導いて欲しい
「…そもそも疑うべきは俺が神なのか、だけどな」
薄暗闇の中に、微かに見える星に目を向け
歪な形の煙草に火を付けて深く吸い込み、吐き出す
神様なんて下らない役者になって随分と経つが
そんな大層な名前を付けられたというのに
この地球が廻っていることを感じることは出来ないし
電話がどうして声を伝えるのかも知らない
神だって、何でもは知らない
そんな些細なことすら知らず
当たり前すら与えられないまま
愚かで、浅ましい、神になった理由を
そうと知りながらも、願った想いを見て
「…どうか幸せであって欲しい」
そんなことを呟いてしまう
神と呼ばれる俺は、一体それを誰に願えばいいのかと考えて
そんな、他人事のように願おうとした自分に気がついて
やっぱり神は無力だと
そう嗤うしかなかった




