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また今度

「買い物だけど、今からは勘弁な?」

「申し訳ないが、キャパオーバーだ」

脇の椅子にある荷物を見ながら、そんなことを呟く先輩

…これ以上荷物を持てというのは酷だった


「いや、時間も微妙ですから、また今度で良いですよ」



店内放送のチャイムが鳴る

「…市からお越しの木暮千秋様」

「迷子センターにて千早ちゃんがお待ちです」


「…あのロリ姉貴、マジでふざけんなよ」

ため息混じりに、椅子を立つ先輩


「呼ばれてるみたいだから、行ってくるわ」


私は最期にそれを確認する

私のルールが正しいのか、前提は間違っていないのかを


「先輩、もしもの話ですけど」

「好きな人に、想い人がいたとしたらどうします?」


その質問に、迷ったままのように答える

「…それでも、やるけどさ」


「もし仮に、そうだったとしたら」

「…お前は勝てると思うの?」

先輩は、弱々しく笑う


そんな先輩を見て、口を継いで出たのは

客観的な意見でもなく、理由すら述べられない

……ただの願望だった


「…勝てるに決まってるじゃないですか」


そんな言葉に少し微笑んだ先輩を見て思う


本当に望むべきは、叶えてほしいのは

それでも、私と付き合うことではない、と



叶うのだとすればその頑張りを

彼が本当に認められたい人に認められてほしい

そんな人と好き同士になってほしいと願う


そう、願いはするのだけれど…


それでも私は、彼の一番じゃなかったとしても

憧れじゃなかったとしても、理想じゃなかったとしても

私を好きだと言って欲しい


これも、私の本音だ


理想と現実


願いと欲望


そんな混ざる事の無い二律背反を抱えて

白にもなれず、黒にもなれず、私は中途半端のまま

そんなふうに答えて


先輩は私に背を向け、手だけを振る

「…じゃあ、また学校で」


なんの気もなく告げられた、彼のそんな言葉を聞いて

彼のいる屋上に居ていいと言われた気がして

それを嬉しく思うけれども


もう、私には仮初のそこ以外

何処にも居場所が無いことも思い出してしまう


そんな苦さと甘さを噛み締めながら

見てないとは知りつつも


それでも小さく手を振って先輩と別れた



家を出た時にはまだオレンジ色だった空も

帰路につくときにはもうすでに色を失っていて

ポツリポツリと街灯が付き始めていて

そんな、薄暗闇の中を歩いていると


「やぁ、また会ったね?」


不意に声をかけられる

そこに居たのは、いつかの露天商の彼だった

「こんばんわ」

「今日は違うところで売ってるんですか」


ニコリと笑って

「いつも同じ所にいたら露天商の意味が無い」

「それで、君の答えは見つけられたかい?」


私は、自信ありげにそれに答える

「えっと、恋はするものじゃなくて、落ちるものでした」

不思議そうな顔で私を見て

「どこが林檎と似ていると思ったの?」


「万有引力…でしたっけ?」

「林檎が落ちるのを見て、どうってアレです」


彼はその言葉で

やっと合点がいったかのように頷き

「…そうかい」

「答えが見つかったなら、それは良かった」


だが、答えを出した時に返すべきイヤーカフは

今、私の手の中には無い


「イヤーカフ、先輩が持ってるんで」

「まだ返せないんですけど…」


彼は何でもないことのように

「いいよ、あげると言ったら遠慮しそうだったから、そう言っただけだ」


「君が出した答え、それを受け入れて」

「大事にしてくれれば、それでいい」


それでも申し訳なく思ってしまう

「じゃあ、なんか買ってきますよ」


彼は私のそんな言葉に微笑んで

「…残念だけど今日はもう店仕舞いだ」

「それに、返した時に買ってくれればいいと言ったからね」

「要らないものを買う必要は無いだろう」


そして、彼は真剣な目で私を見て

苦しむように、痛むように


「願わくば、もう会わないことを祈るけれど」

「もし、それが返ってきたなら、またおいで?」

「そして、その時迄に考えておくと良い」


「何が欲しいのか、何が願いなのかを」


突然の質問に何も答えられない

願い?、欲しいもの?

いっぱいあるけど、それはまだ形を成していない

ぐるぐると廻る渦の中だ


――「神様に告げるべき願い事が何なのかを」


それだけを言って彼は立ち上がる


「…じゃあ、さようなら」

「君が、どうか間違えない事を願ってる」


彼が神様だとは思わなかったけれども

それでも聞かずには居られなかった


「…もし貴方が神様なら、どうしてこんなに、この世界は不条理なんですか?」

「抗えない物を、飛べない鳥を」

「そんな不完全を作ったりしたんですか?」


それは、神様だけが知る回答


それでも神様だと言った彼は

私の疑問に答えることなく、黙したまま

薄暗闇の中に消えていった



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