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the gift from heaven


その紅い瞳に見つめられていた時に

私は冷静に、あぁ勝てっこないなって思った


だってそれは、何時間も化粧をした私よりも、ずっとずっと可愛くて、そんな私が逆立ちしたってどうしようもない差で、だから先輩はひと目見ただけで彼女を好きになって…


何を着ても似合うだろうし、どうしたら自分が可愛く見えるかなんて気にもした事無いようで

それが、当たり前みたいな澄ました顔をしていて


どうして、おんなじ人なのにこんなにも埋まらない差が有るんだろう?

どうして、私はそういうふうに生まれてこれなかったんだろう?


たしかに私は

今まで、誰かの一番になりたいなんて願ってなかった

誰に向けられた努力でもなかった

そんな、怠惰の罰なのだろうか?


それならそれで構わない

私は先輩の一番になれなくてもしょうがない


だって、わかりきっていた横恋慕だから

そう分かってなお、それでも諦めきれない邪な心だったから


なら、先輩はなんの罪でそんな罰を受けなくてはいけないのだろう?


ルール通りに戦って、まっとうに努力して、ちゃんと向き合い続けた彼は誰にも気づかれず、誰一人にも認められなかった


そして、そんな先輩が欲した物を踏みにじった高坂先輩が

それを嘲笑ったそんな愚か者が

先輩が恋い焦がれた彼女と一緒にいる


ただ、人より見栄えが良いなんてだけで

何ひとつ見ようとしないで

そこに居るのが当たり前のような顔をして


これはなんの冗談だろう

一体なんの間違いだろう


努力は無駄で、生まれ持ったそれは埋められず

どんなに足掻こうが、欲しようが手に入らないのなら


もしこれが、世界の当たり前だとしたら

先輩は、何に救われれば良いんだろう?


私はなんて、先輩に声をかけたらいいんだろう?


一人残された店内で

ぼんやりとモールの人並みを眺めていると

小学生のような女の子に連れられ

腕いっぱいに荷物をかかえるアッシュグレーの髪が目に入る


なんで、こんなところに居るんだろうなんて疑問よりも

今まで考えていた、終わらない疑問よりも


その姿を見て思ったのは、嬉しさで

スマホを取り出し電話を掛けてみる


電話口に出た先輩の声は怪訝そうで

「…なんだよ、山城あずき」

「隣を歩いてるのは彼女さんですか」


先輩は忌々しげに隣を歩く少女を見て足を止める

「…お前の目は節穴なのかよ、違うわ」

「つーか、どっから見てんだ?」


「べつに、どこだっていいじゃないですか」

「ただ、聞いてみたかっただけです」


それだけを告げて電話を切った

いま先輩と何かを話せる気はしないけど

ただ声を聞いてみたかった


一緒に歩いていたあの子は、……先輩の妹さんなのかな?

絵面はちょっと犯罪っぽいけど、親しげなそれは

なんとなくそう感じさせて


なんの理由もなく、ただ当たり前にその隣に居れる少女が羨ましいとすら思ってしまう自分に気がつき、ため息を吐いてしまう


意識してしまえば、認めるほうが容易くて

認めてしまえば素直になるしかない


頬杖をつきながら、私はそれを口に出す

「なんで、好きになったんだろうなぁ…」


かっこ悪いところも、いっぱい見てる

一生懸命取り繕った作り物だと、私が一番よく知ってる


私にかけられる言葉は、べつに優しくはなくて

言うことは適当で、卑屈で、分かりづらくて


そもそも、私の事を好いてすらいないどころか

他に好きな人が居るなんて


なにひとつ、好きになるべきところは無い筈なのに

こんなふうに心乱されるのは何でだろうか?


そんなことを考えていると

不意に、テーブルに2つカップが置かれ

開いてる椅子に荷物が投げ込まれる

「つーか、お前はこんなところで何してんだよ?」


正面に座ったのは

先程まで思い描いていたその人だった


「…何でここだって分かったんですか?」


彼は当たり前のように

「電話口の後ろで、世界滅ぼしそうな呪文聞こえたからな」

そんな言葉を聞いて笑みを浮かべてしまう


せっかく来てくれたのに追い返すほど性悪でも無ければ

自分に素直じゃないわけでもないのだ


だから、何を言ったらいいかは分からないけど

取り留めのないことを聞いてみる


「…先輩には私が見えてますか?」


彼は、意味の分からなさそうな顔をして私を見る

「いや、見えてるからここに座ったんじゃねぇの?」

「一人だったら絶対にこんなとこ来ないわ」


そして、忌々しそうに店内を眺めて呟く

「…リア充スポット過ぎて息が詰まる」


別に、そんなに浮いてるなんて思わないけど


「別に大丈夫ですよ?」

「今の先輩だったら」

「可愛い女の子とデートしてる風に見えますから」


彼は面食らったような顔をして

気恥ずかしそうにしている


――もし本当にそうだったら、どれだけ良かっただろうか


「ていうか、妹さんはどうしたんですか?」

先輩はその言葉に笑い

「あぁアレ?」

「捨て置いてきた」


捨ておいてきたって…何をしてるんだろうこの人は?

「迷子とかになったらどうするんですか?」


その言葉に堪えきれないように大笑いして

「…大丈夫だよ、あんなんでも一応姉貴だから」

「迷子になったら一人で帰んだろ」


そんな先輩の言葉に呆然となって

……髪型変えた時にたしかに、そんな話は聞いた気もするけど

あれがお姉ちゃん…?


どんなに、贔屓目に見ても中学生が限界だった

乾いた笑いしか出て来ない


「でも、買い物かなんかの途中なんじゃ…」


先輩は服の山を指差す

「べつに、ただの荷物持ちだから、居ても居なくても大して変わんねえよ」

「休みの度に無駄に連れまわされて、いい迷惑だ」


―― 休みの日はいつも、暇なんだ…

「じゃあ、今度私の買い物にも付き合ってくださいよ」


口を継いで出たのは

意識すらしないで言ってしまった、それは


余計な一言が付いているけれど、私のお願いごとで

言うつもりはないはずの下心で


彼はひとしきり考えるようにして、それに笑う

「べつに、構わない」

「お前は買い物の荷物持ちが欲しくて」

「俺は姉貴から逃げる、いい口実が出来た」


「まぁ、利害の一致だろうよ」


…自分たちが作ったルールなのに、忘れそうになってた


私達の関係は

「利害の一致」そして「自己都合」

それから外れてしまったら、落ちるだけの綱渡りだ


妹でもいいから、一緒にいたいと思った事は訂正しよう


べつに、嫌だと思われて一緒にいて欲しい訳じゃない

逃れられない、それになりたい訳じゃない


ちゃんと見て、選んでほしい

私を好きだと、愛してほしい


一生懸命羽ばたいてなお、それが叶わないとしても

それが見るだけ、無駄な儚い夢だったとしても

それを夢見なければ、飛ぶことは叶わない


そして、先輩は一度確かに飛んだのだ

寒さに震える、飛べないペンギンは羽ばたいた

私はそれを知ったから

誰が見ていなくても、みんなが嘘だと笑っても


私だけは、それを見たから

だから、まずは一歩


お姉ちゃんと一緒に過ごすよりは、私と過ごしたほうが楽しい


まだ、取るに足らない一歩だけど

私はそれを手に入れた


なら、私は戦おう

浅ましく、愚かに、貪欲に、恥知らずに

勝てないなんて諦めずに


たしかに、天から与えられたプレゼントは無かった

当たり前に飛べる翼はなかった


彼を何も言わずとも虜にできる美しさはない

見ているだけでいいなんてほど高貴な物でもない


必死に羽ばたいて、なお堕ちるだけの

ただの夢見がちなペンギンだ


でも、そんな常識を作った神様に

それを無理だと笑った人間に

私の価値は付けられたくない


だから戦う


彼女に抱く好きよりも、私を好きにすればいい


私の恋も諦めず、先輩も傷つかず

なんのルール違反でもない


自己都合で、お互いを好きになって

一緒にいることが、利害の一致なら


ちゃんと、ルール通り戦ってる


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