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援助交際

「…食べ過ぎました」

私はよろよろと歩きながらそんな呟きを漏らす

「そりゃあんだけ食えばな」

結局ステーキを食べた後、デザートを頼んでしまった

「てか、ホントに奢りでいいんですか?」

私は彼に向き直りそんなことを聞く

会計の時に財布出したら

「俺が出すからいい」

なんて言われて一円も支払ってない


彼は何でもない様子で

「服買いに一緒に来てくれたから」

「その礼だ」


「そういう事なら、お言葉に甘えますけど」

「それだったら私だってもう少し遠慮したのに…」


なんだかんだ言ってこの前のカラオケの時も

サラッと支払い済ませてるし


なんだか申し訳ない気持ちになってしまう


「今日はもう特に用事ないから帰るか」

確かに服も揃って髪も切ったからモールに用事はない

それでも家に帰ってやる事も思い付かず

もう少しだけ先輩のことを聞いてみたいと思った


「食後の運動がてら散歩しません?」

「デートプランもまだ聞いてないですし」


彼は苦笑いして

「…あったねそんな宿題」

わざとらしく私は怒った顔を作る

「まさか、忘れてたんですか?」


ぶっちゃけ、私も忘れてた

先輩の変身ですっかり抜け落ちてた


「大丈夫、捏造すっからちょっと待っとけ」

呆れ顔で私は先輩を見る

「…捏造って」


「じゃあ取り敢えず歩きながら、サクッとお願いします」



「……で俺はそこで差し出して」

「先輩ちょっとストップ」

私の静止に、彼は歩みを止める

「何?」

「…それ真面目に言ってます?」


彼の顔を見れば、大真面目そのもので

私は思わずため息を付いてしまう

「…なんかまずい?」


先輩のデートプランは聞くに耐えない代物で

そんなのを実践した日には、先輩の恋はもれなく墜落した挙句血を吐いてのたうち回るのが目に見えるようだった


「ロマンチックは結構ですけど」

「初デートにそれは無理です」


「…重い?」

「いや、キモい」


今の先輩のルックスだったら

そういうのが好きな人なら

ギリ耐えられるレベルだけれど

正直、少女漫画の読み過ぎだと思う

それに、前の先輩なら犯罪と呼べる内容だった


「よっぽど自分好みのイケメンだったら耐えられます」

「けど嬉しくは…無いかな?」


「デートってそういうもんじゃないの?」

「いや、先輩のそれプロポーズですから」


彼は困った顔をして

「じゃあ、お前ならどんなのが好みなんだよ」

「うまいこと言いくるめてホテルへGOって感じ?」


偏見極まりなかった

何もそこまで現実的にしろとは言ってない


「別にふつーで良いですよ」

「美味しいケーキ食べいくとか」

「買い物行くとか」

「水族館行くとか、そんなんです」


「じゃあこれはデートって事でいいの?」

私は笑って

「先輩が私のことを好きならデートです」

「そうじゃないならただのお出かけです」


まずます困惑した顔をする先輩


「言葉の綾みたいなもんですよ」

「大した違いなんて無いんです」

「誰と行くかが違うだけって話」


そんな私の言葉に彼は疑問を投げかける

「受け取り手は関係ないと?」


「さぁ?自分の気持ちしか分からないですから」


彼はため息を付いて

「一生わかる気がしないんですけど」


「大丈夫です、私が採点しますから」

「先輩のデートプランも言動も」

容姿については採点不可だったけど

立ち振る舞いやプランだったら多少自信がある


彼は恐る恐る聞く

「ちなみにさっきのは?」

私はにこやかに笑う

「0点です」


「…温情は無いんですかね?」


「本番と同じだからテストの意味があるんです」


そう、テストだ

予習、復習さえちゃんとしていれば

内容なんて理解してなくったってどうにかなる

満点は望めなくても

付け焼き刃でもなんとかなるのだ


「だから定期的に練習すること」


「練習って…誰と?」

私は手を上げる


「何で?」

「流石に私もゲームの時どっかに消えないと怪しまれるんで、お互いに都合がいいじゃないですか」


先輩はデートの練習

私は時間つぶしになる


お互い自分の為に相手を使う

利害の一致というなら理にかなっている


「だから、毎回ちゃんと考えて下さいね?」


それでも先輩はどこか躊躇するような顔で

「…俺は構わないけど」

「お前はそれでいいの?」


何を心配してるのだろう

だって私は先輩が彼女の事を好きだと理解してる

それとも練習って単語に負い目を感じているのだろうか?

だとしたら、それこそお門違いだ


「先輩は彼女が好きなんですよね?」

「…そうだね」

「じゃあ別に良いじゃないですか」

「それとも私じゃ不満ですか?」

「いや…そんなことは無いんだけど」


それでも先輩の言葉は歯切れが悪く

何かを考えている様子で


そんな先輩に私は強く言う

「踏み台って言ったのは先輩です」

「そんな関係求めてないのはお互い様です」


「だから思う存分練習しましょうよ」


そこに愛はなくて

自らの欲の為にただ使うだけの関係

そんな関係を表す言葉を私は知ってる


「この関係に名前をつけるなら」

「援助交際ですかね?」

ただ飛ぶためだけの踏み台として

理想に生きるための練習として

お互いに援助するのなら

交際の真似事をするとすれば

それこそ、正しく援助交際


私はそんなブラックユーモアを口にして笑う



それでも、私はこの時気がつくべきだった








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