ショッピング
翌日、ショッピングモールで待ち合わせた
先輩の格好は制服だった
私はジト目で彼を睨む
そんな視線に怯えるように彼は言い訳を始める
「…考えなかった訳じゃないんです」
「ただ、考え過ぎて良くわからなくなって」
「どれも違うなって感じで」
「…で、結局制服ですか?」
彼は申し訳無さそうに
「これなら一緒に歩いてても恥ずかしくないかなと…」
どうやら先輩は
昨日の私の言葉を真に受けていたらしい
「そりゃそうですけど…」
「一応着てこようと思ったのは写真撮ったから」
「あと、家に有るのも全部」
私は先輩の差し出すスマホを手に取り
それを眺める
んー持ってる服とか全部が全部
ダメって訳じゃないのか……
それでも着回しの難しそうな服ばかりで
挙句、服のジャンルに統一感がない
パンツなんかもサイズが合ってるようには思えなかった
「先輩…これ全部季節外れのワゴンセールで買いました?」
彼は驚いたような顔をして
「何?エスパーなのお前」
「いや、売れ残り感凄かったんで」
大体、どんな物でも個性が過ぎるものは売れ残る
それは人だって例外じゃなくて
個性だ何だって騒ぎ立てる人達が
流行りに乗っかった没個性なのを見れば一目瞭然で
個性と異質は紙一重なのだ
だから
自分に価値が欲しいと思うなら
誰かに好かれたいのなら
一人が怖いというのなら
そんなテンプレートに沿って生きるしかない
私は笑って言葉を続ける
「しかもワゴンの中でも派手なの選びましたよね?」
彼は諦めたような顔をして
「…マジで見てたの?お前」
「先に言っときますね」
「個性的なんて幻想です」
「一部の特権階級の戯れ言です」
彼は目を丸くする
「尻軽ビッチがそんな言葉知ってんのな…」
どうやら、全然違うところに感心していたらしい
私は先輩を指さし
「中身と外見が合ってないって」
「先輩も言ってたじゃないですかっ」
「そんなことより分かりました?」
「個性は幻想です」
反論されるかと思ったが先輩は素直に頷き
「多分、正論だろうな」
「ゲームだってなんだって、結局テンプレが最強だ」
なんの話だか分からないけど
理解が早くて助かる
「だから、先輩は無難な服を買いましょう」
「無難って…抽象的すぎない?」
「そうですね、だから方向性は示します」
私は、先輩をまじまじと眺める
背はそんなに低くないし、太ってもない
だからオーバーサイズな服じゃなくていいけど
かと言ってスキニー着るほどスタイルは良くなくて
顔にしても、血色はあまり良くないし
男っぽいって感じでもない
しいて言うなら、中性的とでも言うのだろうか
だが、それも変に伸びっぱなしの髪のせいで
暗い印象を覚えてしまって
全部ひっくるめると陰キャラって感じだろうか?
「あんま個性無いですねー、先輩は」
彼は苦笑いして
「絶対褒めてないよねソレ」
「別にそんなことないですよ?」
特別何を着てもすごく似合う事はないけれど
逆に言えば、何着せてもそれなりにはなれそうだった
「後は、向こうの好みとか分かれば良いんですけどね」
何着てもそれなりなら
向こうの好みに寄せること
それが一番手っ取り早い
でも、それを先輩に望めないのは私がよく知ってる
「とりあえず…キレイめで行きましょうか」
「…どんな格好だよそれ」
「襟付きのシャツとかそっち系です」
「だからそれ、どっち系だって」
ああもう、面倒くさい
全部言葉で説明できるわけが無い
「とりあえず試着です!試着!」
「分かりました?」
「…俺に選択権が無いことだけは分かった」
「なら返事は?」
彼は諦めたように、私に頭を下げる
「よろしくお願いします」
適当に選んだ服屋で
先輩に服を合わせてみる
「んー悪くは無いですけど」
「なんか違うかなぁ」
黒のワイシャツをラックに戻して
また違う服を探す
私はさっきからマネキンと化している先輩に声を掛ける
「先輩生きてます?」
「おう、なんとかな」
その返事は、死屍累々と言った調子で
「服屋さん苦手なんですか?」
先輩は、バツが悪そうに
「…あんまり得意じゃない」
「店員さんに声かけられたりするの苦手なんだよ」
その気持ち、分からなくもないけど
そんなになるほどじゃないと思う
「だから髪の毛も切り行かないんですか?」
先輩は頷いて
「あれも無理、耐えられない」
「いろいろ聞いてくるやつですか?」
「それもだけど、なんか場違いって気がして」
…それは、考え過ぎな気がする
「先輩、いろいろ考えすぎですよ」
「みんな、いちいちそんな事思わないですから」
先輩だって、私だって
一日何人も来る客の一人に過ぎない
だから、それはどこかで先輩が
自分って特別だと思ってるだけで
「…って言われてもな」
「思うもんは仕方ないだろ」
それがいい意味であれ、悪い意味であれ
一度言っとかないと、埒が明かない気がする
「そういうの自意識過剰って言うんですよ?」
そんな言葉に、先輩は卑屈っぽく笑って
「自己評価はかなり低めに付けてるつもりだけど?」
「だから、それが自意識過剰なんですよ」
「別に調子に乗ってるだけが、それじゃないんです」
「自分が特別不細工だとか」
「周りから見て引かれるくらいダサいと思ってるとか」
「そういうのも自意識です」
彼は困ったように
「でも、ダサいって言ったのお前じゃん」
どうやら先輩は昨日のことを
言っているようだった
「…それは確かにそうですけど」
「でも本当にどうしようもないなら」
「そんなこと言わないです」
「変えられない事をそんなふうに言うのは」
「ただの悪口ですよ?」
彼はそんな私の言葉に神妙な顔をして
「…お前ってそんな格好してるくせに」
「性格は悪くないよな」
私は、そんな言葉に呆気にとられる
「いや、そんな事ないと思いますけど?」
多分、本当に性格が良ければ
先輩の事をダサいなんて言わないだろう
「先輩だって私の言葉に傷ついてるじゃないですか?」
彼は少し笑って
「傷ついて無いって言ったら嘘になるけど」
「でも、お前の言ったソレを」
「悪意すらなく、他人に言える奴が腐るほど居る」
「どうでも良いと思いながら言う奴ばっかだ」
「だけど、変えられると思って言ってるんなら」
「何も言わない奴より、お前は優しいんだよ」
どんなミラクルか知らないけど
貶したのに褒められるとか良く分からない
だから、とりあえずもう一回貶しておこう
「先輩ってマゾなんですか?」
ドン引き顔を作って先輩を見る
先輩はそんな私を気に留める様子もなく
「マゾでも何でもいいけど、服どうすんだよ?」
どうやら、少しは耐性が付いたらしい
私は笑って
「そうですよ、そんぐらいのメンタル持たないと」
「人間社会で生きてけないですよ?」
「ペンギン先輩」




