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工房

 ギルト教師はそう言って立ち去り、また解析者と話をしにいった。


「アメリア、お疲れさま。とりあえず無事編入もできたし、Sランク認定を受けて奨学金を受け取れることが決まった。これで当面の生活費は問題ない」

「お疲れさま。あんたも今日は合計三回も戦闘したし疲れたでしょう? 寮部屋を使えるのは明日からだし今日はもう休みましょうよ」

「まだやることが残ってる。アメリアは疲れてるなら休んでていいぞ」

「いや、あたしはあんたの心配をしてるんだけど」

「体力は人一倍あるから安心しろ」

「そう。ならいいけど。あたしも持久戦は得意だから大丈夫。どこに行くか知らないけど着いてくわ」

「別に俺は剣魔術士と魔法剣は常に一緒にいるべきだ、なんて考えは持ってないぞ? 今はそういう考え方が主流だが。魔法剣じゃないただの剣も護身用に持ってるし」

「あたしはパートナー同士は一心同体って教えられてきたけど、それとは関係なくあんたに着いていきたいの。まだ会ったばっかりで、あんたのこと、全く知らないから」


 この言葉は、少し嬉しい。少なからず興味を持ってくれているということだから。


「それもそうだな。俺もまだお前のこと、ほとんど知らないし。あと、お前一人のときに追っ手が来たら困るよな」

「確かにあたし一人じゃ追っ手を倒せないわね。あたし、剣魔術士じゃないもの」


 やっぱりそうだったか。計測のときに剣魔術士ランクの測定申請をしていなかったからそうなんじゃないかとは思っていた。

 ファースト、セカンドだからといって必ずしも剣魔術士であるというわけではない。剣魔術士とは魔法剣を用いて戦闘を行う者の総称。多くの剣魔術士はファーストあるいはセカンドだったりする。

 しかしアメリアのように、魔法剣としては優れていても剣魔術士としてはからっきし、という例もある。


「で、でも下級剣魔術士や一般人相手だったら負けないんだからねっ! それなりに戦闘訓練は積んできてるし!」

「今日襲ってきた追っ手はCランク二人にBランク一人だったよな? 今後もそれくらい、またはそれ以上の追っ手が来るんじゃないか?」

「うぐっ! ま、まあそうかもしれないわね」

「だろ。なら尚更一緒にいないとな。俺たち二人ならそうそうやられないだろう。変な意地張らずに、俺の近くにいろ」

「……うん」


 理解してくれたのか、急に静かになる。

 パートナーとしてアメリアを守りつつ、自分の目的を果たしていこう。

 しおらしくなったアメリアを連れ、周囲を警戒しつつ、俺は目的地へ足を向けた。


 学園を出る前、明日からこれを着てきて下さいと制服を渡された。アメリアの服はボロボロだったし、俺の旅装束もくたびれてきていたので、そのまま着ることに。

 道中では多くの視線を感じた。俺たちが王立アルカス剣魔術士学園の制服を着ているっていうのもあるが、視線を集める大きな要因はアメリアの容姿によるものだろう。


 陽の光を浴びてこれでもかと輝いている、銀色に近いプラチナブロンドの髪。有名な芸術家が生涯をかけて作り上げた彫刻のように整った、美しさと可愛さが絶妙に混在した顔。胸は控えめだが全体的なバランスが神がかっている引き締まった肉体。

 黒を基調とした軍服のような制服がそれらを一層引き立てる。

 そういえば以前、アルカス学園の制服は人気が高いと聞いたことがあったな。特に女子制服。洗練されたデザインの中に、胸元の赤いリボンや丈が短めのスカートといった要素があってカッコかわいいのだとか。


 ああそうだ、この話をしてたの、あの人だ。確かアルカス学園の卒業生だったはず。あんまり自分のことを話す人じゃないから忘れていた。


 にしても恐ろしいほど似合ってるなこいつ。そりゃ道行く人の視線を釘付けにするわけだ。

 ちなみに俺が着ている男子制服については特に言うことがない。こいつと違ってとりわけ容姿に優れているわけでもないからな。ネクタイがうっとうしいとだけ言っておこうか。

 この地区では制服が身分証明になる。だからこそ制服の取り扱いには注意しなければならないが、便利な面も多い。パッと見で学生だと判断してくれるし、その結果割り引きがきくようになるから。


「そうだ、アメリアお前顔は隠さなくていいのか? 隠した方が追っ手に見つかりにくいと思うんだが」

「顔を隠したくらいじゃ変わらないわよ。どうせ探索魔法使いまくるでしょうし。あたしがいた施設のやつらは、個人個人の能力は高いけど数が少ないし、強いヤツほど一人で行動したがるから人を探すのに向いてないのよ。それにこの地区にあたしがいるなんて思いもしないでしょうね」

「だろうな。どの学校もよっぽどのコネがない限り編入なんてできないし、警備もかなり厳しい。身を隠すにはもってこいの地区だ」


 だから卒業するまでここにいるのが本来はベストなのかもしれないが、俺の目的を果たすためにはそれでは遅すぎる。滞在期間は短くとも半年、長くて一年だな。

 その間に活動資金を貯め、この環境を活かして魔法剣・ブランフラム、つまりはアメリアを使った戦い方に慣れて追っ手を退ける力をつける。今向かっているのは前者に関係する場所だ。

 やや早足で向かったおかげで徒歩一五分ほどで到着。


「ここは……工房?」

「そうだ。この地区は鍛冶師を育てる学校もあるから、ここみたいに規模の大きな工房がいくつかある」


 事前にこの地区の案内図を入手していたため、主要施設は把握済みだ。


「そういえばあんた言ってたわね。鍛冶の知識を持ってるとかなんとか」

「知識というか技術かな。ここで売れそうな作品を作って売り、活動資金を稼ぐ」

「なるほどね。それでユキトは何を作るつもりなの? ……もしかして、魔法剣、とか?」


 アメリアがなぜか緊張した面もちでそう聞いてきた。


「いいや。人格が芽生えるほどの業物なんて、まだ俺には作れないよ。訓練用の刀か、料理用の包丁が作れるくらいだ」

「刀、包丁ってここからかなり東方にある地域で作られてるものよね。黒髪黒目といい、あんたってもしかして東方出身?」

「パンも知らないくせにそういうことは知ってるんだな」

「相手の外見の特徴から出身地、戦い方を推測するのは相手の裏をかくのに必要なことだから」


 こと戦闘系の知識に関してはアメリアに勝てる気がしないんだよな。その知識を得るために一体どれほどの時間を費やしてきたのだろうか。

 ……いや、俺も似たようなものか。小さい頃からバカみたいに剣を振るってきたんだから。


「アメリアが一緒ならどんな敵にも対応できそうだな。頼もしい限りだ」


 とりあえず褒めてみる。


「へ? 頼もしい……。ま、まあ当然よね! こんな優秀な魔法剣そうそういないんだから!」


 なんとなくこいつの扱いがわかってきたような気がする。


「うんうん。そんな魔法剣と契約できて俺は幸せものだなー。さーてそろそろ造り始めるかー」

「ちょっと棒読み気味なのが気になるわね」


 強引に会話を終わらせたあと、俺は工房主のところに挨拶をしにいき、使用許可を得た。この制服のおかげで快く工房の一角を使わせてもらえるようになったが、アルカス学園には鍛冶師クラスなど存在しないため訝しげな顔をされた。作ればいいのに、鍛冶師クラス。

 素材は工房で購入し、早速作業にとりかかる。

 俺は作業しつつアメリアと話をすることにした。


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