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VS.ゴーレム

「我が鋼鉄の魂よ、楔を放ち剣魔と為せ」


 そうつぶやき、アメリアはその姿を一振りの剣へと変える。

 本日二回目。何度見てもこの剣の美しさに目を奪われる。

 制服に着替えたおかげで鞘がしっかりとした造りのものになっている。これはありがたい。前の戦闘ではボロボロの服を着ていたため脆い鞘だったが、今回は鞘を使った剣術が使えそうだ。

 前の戦闘では魔法の反動がすさまじく、膝をついたまま何分間も動けなかった。だから一発の魔法で一〇体同時にしとめなければならない。


『今回もこの私、魔法剣・ブランフラムに任せておけば全部うまくいくわ!』

「はいはい、それはもういいから」

『むぅ』


 アメリアを適当にあしらいつつ、俺は魔法剣・ブランフラムを構え、準備が整ったと合図をする。

 教師はそれを確認してから、腰にさしていた巨大な両手剣を地面に突き刺す。

 闘技場には大量の土がしきつめられている。ということは生成されるゴーレムは最も強い土製だな。

 ゴーレムとは土や岩、場合によってはその他の素材で構成される魔法人形。自然界には存在しないため、魔法によってのみ作られる。作られたゴーレムの強さは素材と創造主に左右される。今回のはおそらく両方ともトップクラスだろう。


 こういう生成系の魔法は一応攻撃魔法に分類される。珍しい魔法でなかなかお目にかかることはできない。さらにSランクのゴーレムを作り出すことができる剣魔術士となると相当数が絞られるだろう。さすが名門校の教師といったところだ。

 突き刺された地面は数秒後、おそるべき早さで隆起し、次々にゴーレムを生成していく。

 さすがにデカいな。全長20mくらいはあるだろうか。昔見たBランクゴーレムは8mくらいだったから、そのスケールの違いに驚く。

 総勢一〇体ものゴーレムは一斉にこちらを見ると、お互いの身体が干渉しないように殺到してくる。あんな巨体のくせに動きまで速いとか反則だろ。普通の人間より断然速い。


 だが、身体強化された剣魔術士のスピードに比べれば大したことはない。

 俺は振り降ろされる腕、脚を寸前のところで避ける。避け続ける。雨のように間断なく降ってくるため休む時間など一秒たりともない。こりゃ体力勝負になるな。

 あまり囲まれすぎると避けることもままならなくなるため、適度に脚の間をすり抜け輪から抜ける。それをひたすら繰り返した。

 ちらりと視界に移った教師、解析者の顔には驚愕という文字がぴったりな表情が浮かんでいた。よし、評価は高くなりそうだな。

 身体に巡る魔力量から判断すると発動までに残り一分といったところか。

 だがそのタイミングで、ゴーレムたちが同時に飛び退いた。

 なんだ、何が起こったんだ?

 五体のゴーレムが壁を作るように俺の前に横並びになり、後ろに五体のゴーレムが控えている。この布陣は……?


『ユキト! あいつら、魔法を使おうとしてる!』

「はぁ!? ゴーレムが魔法!?」

『あんたそんなことも知らなかったの? Aランク以上のゴーレムは一種類だけだけど攻撃魔法を使えるのよ?』

「聞いたことなかったな。アメリア、お前魔法耐性高いよな? 防げそうか?」

『五体同時……長くは保たないけど、こっちの魔法発動までは耐えられそうね。踏ん張りなさいよ』

「わかった。魔法発動までなんとか耐えてみせる。お前こそ折れるなよ?」


 アメリアは当然でしょと言うように不遜にフンッと笑ったきりしゃべらなくなる。俺も気を引き締めゴーレムたちを見据える。

 回避できそうなら回避。無理ならアメリアを信じて耐久するのみ。

 後ろに控えるゴーレムたちはそれぞれ魔法陣を生成。空気が僅かにヒリつく。魔法が、くる。

 襲いくるは、円錐型の岩の塊。一つ一つの大きさはたいしたことないが、いかんせん数が多い。


「片手剣型二番・氷雨ひさめ!」


 俺は連続突きの型を用いて対応。魔法耐性が高いおかげで微かに触れただけで消失する。それはありがたいのだが、腕を振るい続けるのは限界がある。


『あと一〇秒だけ耐えて!』

「うおおぉぉぉおお!」


 気合いを入れるために雄叫びを上げながら突きを繰り返す。

 こちらの魔法準備が整ったところで、ちょうど相手の攻撃魔法がやんだ。


『燃え尽きて灰と化せ! 太陽神の煌めき(アポロン・レイ)!』


 魔法剣・ブランフラムを天に掲げ、魔法陣を展開させる。そして訪れる強烈な脱力感。わかっててもキツいな。未契約のときとは段違いだ。

 倒れ込まないよう片膝を突きながら魔法発動を見守る。はたしてどれほどの魔法なのか。

 魔法陣から出現したのは、巨大な熱の塊。直径5mくらいの熱線だった。

 まるで伝承の中のドラゴンの息吹のような、それこそ魔法名の通り太陽の神が放ったかのようなそれは、一〇体ものゴーレムを一瞬のうちに焼き尽くした。そればかりか、おそらく魔法物であろう闘技場の分厚い壁を突き抜け、その背後にあった岩場をも削り取っていく。アメリアの魔法はどうしても地形を変えずにはいられないらしい。


「計測終了!」


 教師のよく通る声が響く。

 魔法が終わったころには、闘技場はボロボロになっていた。


「ありがとうございました」


 俺は片膝を突きながら礼をのべる。まだ立ち上がれそうにない。

 すさまじい魔法だった。これほどの炎魔法はやはり今まで見たことはないほどの規模。Sランクどころの話じゃないぞ。


「お疲れさま。いや、にしても驚いたよ。私も多くの魔法剣を見てきたけど、これほどの攻撃魔法は見たことがない。まあ発動までにかかった時間も今までで最長のものだけど。実戦でのデータはとれたから、あとは解析魔法で調べる。私の見立てでは間違いなくSランク認定されるだろう」


 だろうな。これでSランクに届かない方がおかしい。


「すみません、ちょっと休ませてもらってもいいですか?」

「元より休憩時間は設けてあるよ。控え室で休んでくれ。二回目は一〇分後に行うから、それまでには戻るように」


 そう言って教師は両手剣を鞘に収めると解析者の方へ向かった。

 俺はなんとか立ち上がり、まだ反動のせいで上手く動かない身体を酷使しながら控え室へ向かう。

 そのとき、鞘に収めていたアメリアが、人間の姿へ変わった。


「まったく。魔法一回使ったぐらいでそんなに消耗してんじゃないわよ。ほら、あたしが肩貸してあげるから」

「お前の魔法じゃなきゃここまで反動が残るもんか。……肩、ありがたく借りる」

「ん。次の計測であたしは戦えないから、後はあんた一人で頑張りなさいよ。剣術の腕は確かだけどなんだか心配なのよね」

「心配はいらない。剣術勝負ならよっぽどのことがない限り負ける気はしないからな」

「そう。いらない心配だったみたいね。さ、着いたわよ」


 控え室で一〇分間の休憩をとり、闘技場に戻る。反動は抜けきっていた。一回目の測定の疲れがやや残っているが二回目に支障がでるほどではない。

 解析者に剣状態のアメリアを手渡し、それと入れ替わりで貸し出されたセカンドを受け取る。


「今回の測定だけだがよろしく頼む」

『はい、よろしくお願いします。自分は戦闘の邪魔にならないよう、計測がはじまったら一切口を開きません。身体強化魔法は計測開始直後に発動します。ランクはC。多少の傷は問題ありませんので存分に腕を振るってくださいね』


 頭の中に響くのは落ち着いたしゃべり方の中性的な声。この人も学園関係者かな。

 Cランクの身体強化魔法か。契約してないから効果は半減するが、俺にとってはEランクですらありがたい。Cランクなら上等すぎる。


「所定の位置についたね。では二回目の測定を開始する」


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