ランク計測
「そうですか、分かりました。それでは明日からあなた方がこの学園で学ばれることを楽しみにしています」
「よろしくお願いします。では、これにて失礼させていただきます」
今日はまだやることがあるため、早めに切り上げることにしよう。確かこの後は学園についての説明を受けるんだったな。動けるのはその後か。
礼をして出ていこうとしたところで、学園長に少々お待ちくださいと呼び止められた。
「教室分けのこともありますので、お帰りの際には当校の闘技場でランク計測、登録をしていただけませんか? 紹介状には剣魔術士ランク及び魔法剣ランクの記載がなかったものですから」
「分かりました」
振り返ってそう返し、もう一度会釈をしてから今度こそ退室する。にしても学園長、王家の人間のはずなのにやたら腰が低かったな。ああいう人はかなり珍しい。王家の人間っていうと横暴なイメージが強い。もちろんあの人もそうだった。
さて、ランク計測へ向かうとしよう。あの人からだいたいこのくらいじゃないかと教えられていたが、実際に測ったことはない。どのくらいか少し楽しみだな。
先ほど言われた通り別室で教師の一人から学園についての説明を受ける。説明を聞き終わってから、俺はある質問をした。
それは、どうすれば奨学金を受けることができるのか、ということ。
質問の答えは至ってシンプルだった。ランク計測でSランクに認定されること。それだけだ。ちなみに俺とアメリアが編入する予定の高等部二年には二〇〇人中Sランクは二名もいるそうだ。まあ何人いるだとかはどうでもいいか。問題は俺にSランク相当の力があるかどうか。こればかりはやってみるまで分からない。
「ねえユキト、せっかくの機会だしあたしの他の魔法を試してみない?」
移動中にアメリアがそう提案してきた。
「そうだな。剣魔術士養成学校の闘技場なんだ、かなり頑丈に造られているだろう。試してみるか。前使ったのは聖属性だったが、剣状態に色から判断すると炎属性の魔法も使えそうだよな」
「あったりー。あたしが今使えるのは聖属性が二つ、炎属性が二つってとこ。じゃあ計測では二つある炎属性の魔法のうちの一つを試してみましょうか」
「了解」
そう取り決めをしたところでちょうど闘技場へ到着した。
円形にぐるっと分厚い壁が囲っていて、観覧席がいくつもある。天井はなく、青い空がよく見えた。
観覧席にはすでに三人ほど剣を握りながら待機していた。これから戦う相手か、それとも解析者か。
「では、早速計測をはじめよう。君には二回の戦闘を行ってもらう。戦うのは私の魔法で生成したゴーレムだ。ゴーレムのランク、数は君に任せる。どのランクのゴーレムが何体ほど必要かな?」
そう言ったのは俺を引率してくれた、落ち着いた雰囲気の若い男性教師だ。知的かつお調子者、みたいな不思議な印象を受けた。メガネをかけていて、髪の毛が教師らしくなく長めでばっちりキメてあるからそういう印象を受けるのかもしれない。
なるほど。難易度を自分で選択できるってことか。それは都合が良い。
「じゃあSランクのゴーレムをだせるだけお願いします」
教師の眉がピクリと動く。
「君は何を言っているのかわかっているのか? 私が一度にだせるSランクゴーレムの数は一〇体。この学園のSランクの生徒にだって倒せるかどうかも怪しいというのに」
「問題ないです」
俺があまりにまっすぐそう言い切るものだから、教師は諦めた様子で眉間に指を当てた。
「わかったよ。Sランクゴーレム一〇体でいこう。危なくなったら即中断だからそこは了承してほしい。計測は当校の解析者三人が行うから君は自由に戦ってくれ。戦闘は二回。一回目は剣人、二回目は人剣を用いて行う。君のパートナーは?」
「もちろんあたしは気高きファー……」
「ファーストです」
「ちょっと最後まで言わせなさいよ!」
「そうか。なら人剣はこちらで貸しだそう。それでは一回目の準備をしてくれ。準備といっても当校の戦闘用制服を着てもらうだけなんだけど」
「すぐに着替えてきます」
差し出された制服を受け取り、口頭で行き方を教えてもらった更衣室で着替えたあとに再び集合する。
戦闘用制服は黒くてぴっちりと肌に張り付く素材で、伸縮性もかなりある。どうやって作っているのだろう。
俺より一〇分ほど遅れてアメリアが戻ってきた。
「遅いぞ」
「仕方ないでしょ、こういう服着たことなかったんだから」
アメリアのものも俺と同じタイプのものだ。そのせいでその、スタイルが丸わかりだ。胸は控えめだが全体的に芸術的なまでにバランスが整っている。むき出しになっているお腹と、腕や脚の真っ白な肌に目がいきそうになるのを必死にこらえた。
「準備、完了しました」
「では、計測を開始しよう。制限時間は今から一五分。命に関わる怪我をする、またはゴーレムをすべて倒しきった場合はその瞬間に終了。所定の位置についてくれ」
その言葉に従って闘技場の中心へと歩いていく。
「アメリア、緊張してないか?」
「ううん、これっぽっちも。むしろ戦えるからわくわくしてきた。あたしの価値は戦いでしか発揮されないから」
「そうか。俺も特に緊張してない。大丈夫そうだな」
緊張を解いてやろうと思ったのに杞憂だったようだ。
俺たちはどちらともなく手を差しだし、そしてつなぐ。アメリアの手は華奢で色白でほっそりしているから慣れないんだよな。これから何度もつないでいくからいつかは慣れるとは思うんだけど。