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天罰の剣(ネメシス・ソード)

 地を蹴って後方に下がり、俺をとらえそこねた二人が地面に着地する瞬間を見計らって前方に飛び出すと、片方の男の胸に片手剣を突き刺す。

 叫び声をあげる暇もなく男は倒れる。まずは一人。

 奇襲は相手に気づかれさえしなければかなり有効な手だが、察知されたら手痛いカウンターを食らうことになる。

 もう一人は仲間がやられたことなどこれっぽっちも気にせず、すかさずこちらに斬りかかってきた。

 すでに身体強化魔法を使っているのか、速い。Cランクの剣士型らしく剣筋もなかなかに鋭い。

 だが。


 一撃、二撃、三撃。何度剣を振るっても、相手は俺にかすり傷一つつけられない。そのことに最初は驚き、その後だんだんイライラしてきていることが伝わってくる。

 この魔法剣は軽いし薄い。つばぜり合いをしたり、相手の剣を力技で弾きかえしたりすることができない。

 だから、刀身の刃でない部分に、相手の斬撃を当て、すべらせる。剣の通る道を、方向を強制的に変えさせる。

 繊細な動きをするため精神力を使うが、この剣を使う限りはこの戦法でいくしかないのだ。

 そうやってひたすら斬撃を受け流しながら、片手剣のカンを取り戻していく。剣に身体を順応させていく。

 よし、もうほとんどつかんだ。ここから一気にしとめる。


「片手剣型二番・氷雨ひさめ!」


 相手の筋の継ぎ目を複数正確に突く型。これを受けた相手はたちまち筋肉の自由がきかなくなり、身体を動かすことができなくなる。

 倒れ込んだところでとどめをさす。その、瞬間。

 魔法剣からピリッと危険を知らせるような振動が伝わってきた。


『避けて! 攻撃魔法がくるわ!』


 俺はすぐさま横っ飛びでその場を離れる。直後、さっきまでいたその場所に光輝く円盤が飛来。地面をえぐりとっていく。

 危なかった。この子が知らせてくれなかったら致命傷を負っていただろう。


『油断しないで! 次がくる!』


 言葉通り、左右から先ほどと同じ光の円盤が飛んでくる。いや、上からもだ。

 しまった、このままじゃ回避が間に合わない! くそ、身体強化魔法さえあればこんな攻撃簡単に避けられたはずなのに!


『諦めちゃダメ! あたしを使って魔法を斬り裂くのよ!』


 真っ白になりかけていた頭に、凛と響く声。

 まだだ。まだ死ぬわけにはいかない!

 目を見開き、魔法剣を握る手に力を込める。


「片手剣型四番・桜流し!」


 円形に、流れるように斬撃を繰り出していく。ほぼ同時に飛来した攻撃魔法は剣に斬り裂かれ、あっけなく霧散した。

 ずっと人剣セカンド、つまり身体強化特化型の魔法剣を使っていたからすっかり忘れていた。

 剣人ファースト、攻撃魔法が得意な魔法剣ブレイドはある程度の魔法耐性が備わっている。剣で魔法を防ぐことができるのだ。

 今までは強化された身体能力でひたすら避けてきたためとっさに思いつかなかった。

 にしても、まさか魔法を消滅させるほどとは。さっきの警告といい、魔法察知、魔法耐性が異常に高い。


『間一髪だったわね』

「ああ、助かった」


 周囲に注意を向けつつ、身体を確かめる。戦闘開始から三分弱が経過したが、まだこちらの攻撃魔法は放てそうにない。

 魔法は、魔法剣から供給される魔力を身体に取り込み、循環させることで発動させることができる。

 俺の身体は生まれつき魔力を通しにくい。だから他の剣魔術士よりも魔法の発動が遅い。魔力の性質が違うのか、なぜか身体強化魔法だけは人並み以上に扱うことができるが、他の魔法はさっぱりだ。

 だとしてもこれだけ時間が経っても発動できないのはおかしい。魔力の巡りが極端に遅いのは、供給されている魔力の性質と体質的に合わないか、それとも供給量が多いかのどちらか。

 まだ発動のめどがたたない以上、しのぎきるしかない。おそらく相手は今のを見て攻撃魔法から剣術に切り替えてくるだろう。

 警戒しながら様子をうかがっていると、どこからか声が聞こえてきた。


「……素晴らしい剣術の腕だ。できればこれ以上戦いたくはないな。どうだろう。その魔法剣をこちらへ渡してはくれないだろうか? そうすればこちらもこれ以後手出しはしないと誓おう」

「姿を隠したやつにそんなこと言われてもな」


 だいたい場所はわかるが、ダミーという可能性もある。

 相手の出方をうかがっている間に、握った魔法剣から僅かな震えが伝わってきた。


『いいのよ、ここで引き渡しても。逃げるのに必死で、つい通りすがりのあんたに頼っちゃったけど、見ず知らずの人を命の危険にさらすことなんて、間違ってるもの』


 消え入りそうな声量でそんなことを言う。


「はっ、急にそんなしおらしい声だしやがって。会ったときの威勢はどうしたよ。安心しろ、一度引き受けたからには最後までやり通す」

『……律儀なヤツ』


 ボソッと少しだけ弾んだ声音で、そう呟いた。

 ここまできて見捨てることなんてできない。そんなことをしたらあの人に顔向けできなくなるからな。

 気を張り続けながら、いつでも剣を振るえるように構える。

 数秒の沈黙の後、さきほど攻撃魔法を放ってきた敵が姿を現した。

 女の子が着ていたものによく似たボロボロの外套。フードを目深に被っているため口元しか見えない。

 だからこそ胸元に刺繍されたマークに目がいく。

 クロスした二振りの剣。それを囲うような炎のモチーフ。

 いくつか思い浮かぶ組織のどこにも該当しない。新興か、あるいはどこにも情報を漏らしていない力のある組織か。


「ほら、姿を現したぞ。さあ、それをこちらに」

「お断りだ、ね!」


 言いつつ地を蹴り、先制攻撃を仕掛ける。

 低姿勢から放つ刺突。その突きは、ひらりとかわされてしまった。

 人間の動きとは思えない速さ。十中八九、身体強化魔法を使っているな。

 突きをかわしたそいつは即座に背後から斬りかかってくる。俺は突きの勢いそのままに片手を地面につけ、腕力で身体を前方に投げ出すことで回避。

 強化された相手の剣筋はすさまじく速い。

 だが、見える。動きについていくことはできないが、インパクトの瞬間に合わせることができる。

 このまま相手の攻撃を受け流し、魔法発動までの時間を稼ぐ。


『あとだいたい一分くらいね。持ちこたえられる?』

「もちろん」


 キンッ、キンッと、剣と剣がこすれる音が響く。

 最初は余裕のある表情で剣を振るっていた相手だったが、だんだんと険しい顔つきになっていく。


「! バカな、その魔法剣は身体強化魔法を使えないはずだ。なのになぜ」

「お前の剣筋、単純すぎるんだよ。魔法に頼った力技なんて見切られて当然だ。素のままの身体のままで十分だ」


 ぎりぎりと歯ぎしりしながら、ますます荒くなった剣を振るってくる。このまま打ち合えば、勝てる。


『魔力循環、完了! もう発動できるわよ!』


 だが、せっかくだし魔法でしとめよう。契約を結んだときのために感触を確かめておきたいしな。

 循環した魔力を練り上げ、魔法を発動する。


『降りそそげ! 天罰のネメシス・ソード!』


 ! すさまじい魔力量だ。身体を巡っていた魔力が一気に抜けていったが、反動、脱力感が半端ではない。こんな魔法そうそう連続して打てないぞ。

 さて、問題はどういった攻撃魔法かだ。

 白く輝く巨大な魔法陣が上空に現れる。色から判断すると聖属性だな。

 相手はそれを見て、唐突に戦闘を中断した。


「くそっ! こんな、こんなところで死んでたまるか!」


 声を震わせながら、こちらを振り返りもせず逃げていく。俺はすぐに後を追おうとしたが魔法の反動が大きくて膝が笑ってしまったため、剣を地面に突き刺して支えにする。こうなったらもう発動した魔法に頼るしかない。

 魔法陣から現れたのは、この魔法剣とよく似た、白い魔力によって形成された剣だった。

 一つだけではない。同時に何本も何本も現れ、雨あられと逃げる相手向かって降りそそぐ。それはまさしく魔法名のように天罰そのもののように見えた。

 最初の数本こそ魔法や剣術で防いでいたが、無限に湧き出てくる剣に押し負け、天罰の剣の餌食になる。

 相手が絶命してもなお剣は降り続け、この森の一帯を根こそぎ削り取った。

 なんだこの威力は。こんな強力な魔法、今まで見たことない。それも未契約で五割ほどの力しか出してないはずなのに、だ。

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