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鍛錬

 朝。スッキリとした目覚めを迎える。アメリアと契約してからなぜか寝起きが良くなった。  

 さて。朝食を摂る前に学園の闘技場で朝の鍛錬をするとしますか。今まではただの剣でやっていたが、今はアメリアがいる。起こさないと怒るだろうな。ちなみにカメリアと契約していた頃、朝起こしたら大層不機嫌になられたので朝鍛錬を一緒にやったことはない。

 ちらりと隣のベッドを見やると、そこには誰もいなかった。

 イヤな予感がして、自分の毛布をめくる。案の定、そこには丸くなって眠っているアメリアがいた。


「んん~、ふあぁ~、おはよ~ユキト~」

「おい。なんでここにいる」

「あんたと契約してパートナーになったからでしょう。寝ぼけてるの?」

「寝ぼけてるのはお前だ。なぜ俺のベッドにいる」

「宿に泊まったときも言ったでしょ。パートナーたるもの夜襲に備えるべく契約者のそばにいるもの。昨夜はうっかりそのまま寝ちゃいそうになったけど、直前で気付いてあんたのベッドに潜り込んだってわけ。また人の姿に戻っちゃってたのは謝るわ」


 そうだった、忘れてた。こいつの用心深さというか、パートナーとはこうあるべしという姿勢の強さは筋金入りだった。受け入れ、慣れていくしかない。


「俺は今から朝の鍛錬に行くんだが、お前も行くか?」

「もちろん。あたしも施設にいた頃は早朝から訓練させられてたもの。やらないと落ち着かないくらい」

「そうか。なら準備してすぐ出るぞ」

「了解!」


 施設、か。昨日はアミラ村関連の話に気を取られてしまったが、アメリアの境遇は俺に引けを取らないどころか俺以上にヒドいものだった。だからパートナーとしてこれから色んな楽しいことを教えてやりたいな、と思う。こりゃ外出費が増えそうだ。

 朝の闘技場では俺たち以外にもちらほら生徒が鍛錬に励んでいた。意外なことに、そこにはギルト教師もいた。


「二人ともおはよう。朝から鍛錬とは感心感心」

「先生もいらっしゃるとは意外でした」

「私も教師であると同時に一人の剣魔術士だからな。なかなか自分の時間がとれなくてね。こうやってスキマ時間を見つけて鍛錬しているというわけさ。それより君たち、というかブランフラムの噂、もう広まってるぞ。なんでも挑戦者たちをばったばったと倒してるそうじゃないか」

「もうそんな情報が広まっているんですか。迷惑なことです」

「そう言うな。みんな転校生に興味津々なのさ。特に、強い転校生に対して、ね。他のクラスの生徒たちも色めきたっていたよ。いつかサモンジの方を引っ張りだしてやるって」


 これは厄介なことになったぞ。無駄に目立ちたくは無かったんだが。


「大丈夫よ。あたしが全員なぎ倒してみせるわ!」


 アメリアは張り切っているが、どうだろうな。そろそろ俺が出張らなければならなくなるかもしれない。Aランク、Bランクの剣士型には対応できないだろうから。

 まあ、当分はそんなこともないか。今挑んできてるのは面白半分のやつか発展途上のやる気に溢れたやつらだ。本当に強いやつは時間の使い方に無駄がなく、また、三ヶ月後の覇導祭を見据えている。俺をマークしてるやつは手の内を明かさず、アメリアの手合わせの様子を観察して情報を集めていることだろう。

 今だって、闘技場で朝鍛錬してる連中は俺たちの方に目もくれず、ひたすら自分の鍛錬に打ち込んでいる。動き、発動魔法を見るにB~Aランクだろうな。


「頼んだぞ、アメリア。期待してる」

「任せなさーい! 剣魔術士じゃなくても勝てるってことを証明してみせるわ!」


 この元気はつらつ自信満々なところは見習いたいものだ。

 俺たちのそんな会話を聞いてギルト教師はこらえきれなくなったように吹き出す。


「はっはっは、純粋な戦闘術、格闘術だけで倒されちゃ、うちの学園の生徒たちもたまったものじゃないね。ここの生徒たちはプライドが高いから良い刺激になるだろう。どうかこれからも手合わせしてやってほしい」

「それはいいですけど……俺は、あなたと手合わせしてみたいです。学園長室で見ましたよ、写真」


 学園長室に飾ってあった歴代覇導祭優勝者の写真。八年前の優勝者の写真には、若かりし頃のギルト教師が写っていた。


「あれを見たのかい? 恥ずかしいなぁ。今君と手合わせしても負けるだろうから遠慮しておくよ。四年前だったかな、戦場で受けた傷の後遺症のせいでもう当時ほど動けないんだ」

「……そうだったんですか。不躾にすみませんでした」

「いやいや。ま、元々教師と生徒の戦闘行為は禁止されてるしね。手合わせだとしても。あ、ランク計測とかのときは例外だからね。さ、私はそろそろ鍛錬に戻るとしようかな。君たちも鍛錬に励みなさい」

 そう言ってギルト教師は闘技場の奥の方へ足を向けた。


「ちょっと待ってください! 優勝したとき、何をお願いしたんですか?」


 足を止めることなくひらひら手を振りながら答えてくれた。


「将来ここの教師にさせて下さいってお願いしたよ。その願いはこうして果たされた。だから、心配しなくていい。君がもし優勝しても、ちゃんと願いを叶えてもらえるよ」


 ……お見通しのようだった。さすが教師。これで安心することができた。優勝者は願いが一つ叶えられる。叶えるのは学園、つまり人だ。学園側にとって不都合な願いなら別の願いにさせられたり、話自体がなくなる、なんてこともあり得る。

 昨夜、アメリアが重要な情報を教えてくれた。でもそれだけじゃまだ足りない。優勝してもっと情報を得なければ。

 朝鍛錬はいつも以上に力が入った。剣術についてはルーチンワークになっている型の確認。同じことをひたすら繰り返し、無意識でも身体が動くようにする。普通の剣では刀用の型。ブランフラムでは片手剣用の型。


 次に魔力循環鍛錬。苦手を少しでも克服するため、つまり攻撃魔法発動までの時間を短縮するためだ。被害が甚大になるのと、覇導祭までに他の生徒に知られないように実際に発動はさせない。あくまで、発動直前の状態まで魔力を練り上げるところまで、だ。

 そして魔力を身体に巡らせながら動けるように同時に型の確認も行う。

 これで大分体力をもっていかれた。今まで剣士型としての戦闘スタイルのみ追求してきたから。


 最後に、身体能力向上鍛錬。人の姿になったアメリアとの実戦形式で行う。

 嫌々やってもらった剣術鍛錬だが、実力に差がありすぎるせいで鍛錬にならなかった。アメリアのやつ、剣を持たせると途端に動きがおかしくなる。ずっと剣術だけは避けてきたって言っていたがこれほどとは。身体強化魔法は身に付かないわけだ。


 格闘術の鍛錬に切り替えてからは、俺が圧倒される番になった。そこそこ自信はあってそこらのやつらには負けないという自負はあったが、実力に関してはアメリアの方が一枚も二枚も上だ。

 アメリアに指導してもらいながらの鍛錬は新鮮で、ためになった。戦闘では剣を一時的に手放してしまうこともあるかもしれない。そういう時のために格闘術が必要だ。おろそかにすることはできない。

 鍛錬に熱が入りすぎて僅かに息が上がってしまった。体力を使い過ぎたな。


「あんたの体力は化け物並ね」

「そういうアメリアもあんまり疲れてるように見えないが」

「あたしもめちゃくちゃしごかれてきたから。全く、施設にいたあたしはともかく、あんたはどうやってそこまでの実力を身につけたんだか」

「好きこそものの上手なれ、ってやつかな」

「むちゃくちゃね……」


 少しだけウソをついた。二年半前にカメリアに拾われてからは、復讐心を原動力にしてそれまで以上に身体をいじめぬいた。カメリアに止めてもらわなかったら身体を壊していたかもしれない。

 その日も何事もなく終わり、放課後が来る。

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