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生き残り

「それで、私に何かご用でしょうか?」

「サラ学園長なら知っているかな、と思いまして。お聞きしたいことがあるんです」

「知っている範囲であればお答えしますよ」 


 サラ学園長は微笑みをたたえながらこちらの発言を待っている。


「……この大陸の最東端にあったアミラ村。二年半前にその村が滅ぼされた事件を、知っていますか?」

「ええ、もちろん知っていますよ。刀の産地として有名だった村ですね」

「なら話が早いです。そのときの犯人について、何か知っていませんか?」

「なぜそれを知りたがるのですか?」


 サラ学園長の顔つきが険しくなる。これは何かしら知っているな。王家の人間なら世間に知られていない情報を知っているかもしれないと踏んだが、ドンピシャだったようだ。


「俺の、故郷なんです」


 ここでウソを言っても仕方がない。本当の事を言わなければきっと教えてくれないだろう。極秘情報のはずだが、事件のあった村の出身者、ともなれば話は別のはず。ここは情に訴えてでも情報を引き出さなければ。

 サラ学園長は目を見開き、俺の顔を信じられないといった様子で見てくる。そのまま数秒間固まり、その後思案顔になる。

 まあこの反応も当然か。アミラ村の住人は全滅したってことになっている。まさか生き残りがいたとは思わなかっただろう。


「残念ですが、お教えすることはできません。たとえ貴方が唯一の生き残りであろうとも」

「! なぜ、ですか。村の生き残りである俺には、知る権利があると思うのですが」


 食ってかかりたい気持ちを懸命におさえ、努めて冷静にそう言う。くそ、計算違いだ。思った以上にこの情報は秘匿度が高いらしい。

 力技で、とも思ったがすぐに無理だと悟る。王家の人間は例外なく優れた剣魔術士。不意打ちが成功しない可能性は極めて高い。どうする。別のルートから探るか。今から探すとなると相当厳しいな。


「それは、秘匿度Sの情報だからです。知ったが最後、貴方はこの国から追われることになりましょう」


 なるほど。思ったより大きな組織、あるいは人物が関わっているということか。国が隠したがるくらいの。

 村を滅ぼしたやつの顔が思い出せないことが本当に悔やまれる。あの人は、あまりに辛い記憶というものは自分でも知らないうちにロックをかけてしまう、と言っていたがそのせいかもしれない。


「それを知るにはどうしたらいいのでしょうか? 何か方法はありませんか?」


 そのレベルの情報だと巷で得ることはできないだろう。ここは食い下がってなんとか糸口だけでもつかみとりたい。


「……三ヶ月後、この学園で年に一度の大会、覇導祭があります。その大会で学園一位の成績を修めることができれば、願いを一つ叶えることができます。もちろん実現可能な範囲で」

「その覇道祭で一位、つまり優勝すれば、願いとしてその情報を要求すればいいと」

「そういうことです。ただ、高等部一年、二年、三年混合で行われるので優勝は相当難しいですが。もう一〇〇年以上、優勝者は三年生なことからその難しさがわかるでしょう」

「優勝すれば情報が手に入る、そのことがわかれば十分です。教えていただきありがとうございました。失礼します」


 時計塔からチラッと闘技場が見えるのだが、アメリアの手合わせがやっと終わったようで、きょろきょろと誰かを探していた。十中八九俺を探しているのだろう。早く迎えに行ってやらないとな。


「頑張ってくださいね。健闘を祈ります」


 と、いかにも教育者らしいセリフで締めくくる学園長。

 ああ、頑張るさ。これ以上ないほどにな。



 学園長室を後にした俺はアメリアを迎えに行くべく闘技場へ向かう。直接情報を得ることはできなかったが、その情報を得るための方法は見つかった。

 必ず優勝してみせる。そして俺の故郷を滅ぼした人物をつきとめ、復讐を果たす。

 俺にとっては復讐を果たすこととあの人を探すことは同じくらい大事なことだ。どちらも成し遂げるべく平行して進められるときは進めていく。あの人の行方についての情報は聞き込みで集めていく予定だ。王家の人間でなくなったあの人の行方なんて国が関知しているはずがない。


 アメリアを回収したのち工房で作業し、夜はあの人の情報収集をしよう。

 時計塔を降り、外に出たところでアメリアが勢いよく突っ込んでくる。俺は反射的に投げ飛ばそうとしてしまったがアメリアは器用に俺の手を払いそのまま抱きついてくる。格闘術ならこいつの方が上、か。


「おい、どうしたんだ」

「手合わせ、楽しかった! あたし、試合形式の戦いなんてはじめてで、あんなに楽しいなんて思わなかった! 授業もそう! 教室の雰囲気やみんなで相談しながら問題を解いたり、先生のマメ知識を聞けたり、全部が新鮮で! 学校で勉強するのってこんなに楽しいんだね!」


 喜びを爆発させるように頭をグリグリ俺の腹に押しつけてくる。若干苦しかったが、アメリアの満面の笑みを見たらそんな些細なことは心底どうでもよくなった。

 目的のためとはいえ、この地区を選んで良かったな。ここまで喜んでもらえるなんて。なんだかこっちまで嬉しくなってくる。


「そうか、それはよかったな。俺の代わりに手合わせを引き受けてくれてありがとう」

「ううん。さっきも言ったけど楽しかったし! ユキトはあたしが手合わせしてる間、何してたの?」

「ちょっと学園長に聞きたいことがあってな。詳しいことは今度話す。俺は今から工房へ行くんだが、アメリアはどうする? 先に寮に行ってるか?」

「あたしも着いてく。あんたが鍛冶してるの見るの、好きだから」


 好きだから、の言葉に一瞬だけドキッとさせられたがすぐに気を持ち直し、そそくさと工房へ向かって歩き出す。早く工房へ行って仕上げをしないとな、うん。

 昨日と同じ工房で作業の続きをし、その後は約束通りアメリアとステーキ屋でたらふく肉を食べたあと、あの人の情報収集をしに大衆食堂や居酒屋を巡る。

 聞き込みをするのは大衆食堂、居酒屋に限る。酒を飲んで気が大きくなった人たちなんかが狙い目だ。


「アメリア、先に帰っていてくれないか?」

「なんで?」

「ちょいと一人でやりたいことがあってな」

「あたしはあんたのパートナー、魔法剣なのよ。突発的な戦闘が起こったときに対応できるよう常にそばにいるわ」

「学園内ほどじゃないが、この地区の警備はかなり厳しい。治安の良さで言ったら王都に並ぶほどだ。だから心配はいらない」

「なら、剣状態でついてく。それならいいでしょ? あんたの邪魔にならないようにずっと黙ってるから」


 アメリアの魔法剣としてのこだわりの強さは出会ってから重々承知している。彼女なりの譲歩をしてくれているのに、無下に断るわけにはいかないだろう。まだアメリアには俺の旅の目的、あの人のことについては話していなかったから連れていきたくはなかったんだがこの際仕方がない。今日の夜にでも話すとするか。心の準備をしておかないと。

 魔法剣・ブランフラムとなった彼女を腰にさしながら、俺は喧噪に包まれている大衆食堂へ足を踏み入れたのであった。


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