アメ
「作業しながら話なんてできるの?」
「身体に染みついてるからな」
「あんたほどの剣魔術士ならそんなことしなくても傭兵とかで稼げそうなのに」
「お金のためだけにやってるわけじゃないからな。これやってると落ち着くんだよ。小さい頃は剣を振るってるか剣を造ってるかのどっちかだった」
「そりゃあれだけ剣術が上達するわけね」
「アメリアも俺と似たようなものじゃないのか? あれだけの魔法を使えるんだから」
魔法剣は最初から強力な魔法が使えるわけではない。もちろん鍛冶師の実力、込められた想いによって伸びしろや初期値に差があるのも事実だが(ファーストにとって『才能』とはこのことを指す)、後天的に伸ばさなければ実戦で通用するような魔法を習得することはできない。
人間の姿で身体を鍛えたり、または魔法剣として何度も魔法を使ったりすることで魔法を強化することができる。何十、何百、何千と重ねることでより強く、速く。
「そうね。娯楽といったら毎日の食事か寝る前の読書くらいで、それ以外の時間はずーっと鍛錬だった。物心つくころからね」
そう語るアメリアの目はやや虚ろで、今までの生活に嫌気がさしていたことがうかがえる。好きで剣を振るい、造っていた俺とは根本的に違うように感じた。
「そうか。通りであれだけ強力な魔法を放てるわけだ。まだ他にも二種類も使える魔法があるって考えると恐ろしくなるな」
「ふふん。あたしに勝る攻撃魔法特化型の魔法剣がどれほど存在するかしらね」
「その代わり攻撃魔法に特化しすぎて身体強化魔法は一切使えないんだがな」
「仕方ないじゃない。そっちのメニューは組まれてなかったんだから。剣状態での魔法訓練ばっかり。まああたしが剣を使った鍛錬が苦手かつ嫌いだったっていうのもあるけど」
魔法剣は生まれ持った魔法に追加して魔法を習得することができる。例えば、はじめから使える魔法が水属性の攻撃魔法一つだったとしても、人の姿で剣を用いた鍛錬を積むことにより身体強化魔法を習得することができる場合がある。もちろん容易ではないが、根気よく続ければ習得できる可能性は高い。
習得できる魔法の上限数は魔法剣によって個体差があるが、平均して三つほどだそうだ。アメリアの場合、発現していないもう一つの魔法も併せると生まれつき五つの魔法を保有していることになるので追加は難しそうだな。
剣状態のときの強度は決して高いとは言えない。魔法はすべて攻撃魔法。こうしてみると大分ピーキーな魔法剣だということがわかる。
「剣を使った鍛錬が嫌い? それはきっと教えたやつが悪かったんだな。俺が教えればそんなことにならなかったろうに。どうだ、今からでも剣の鍛錬、やってみないか? 必ず上達するぞ」
「お断りするわ。あたしは元々持ってた魔法を磨き上げるのに精一杯だし」
「そりゃ残念」
「あんたはよっぽど剣が好きなのね。剣を教えた人の影響?」
「ああ。それは多分にあるな。剣を正しく振るうことを教えてくれた人、剣を造ることの責任と楽しさを教えてくれた人。それぞれ俺が最も尊敬している人たちの一人だ」
「どんな人なのか聞いてもいい?」
「もちろんだとも」
俺はじっくり話すべく、作業の手を一旦止めてアメリアに向き直った。
「あら、作業を続けながら話してくれればいいのに」
「こういう話をする機会ってそうそうないからな。腰を据えて話したくて」
そう言いながらいつも持ち歩いているアメをアメリアに差し出す。
「なぁにこれ?」
「アメっていう食べ物だよ。口の中で溶かしながら食べるんだ。甘いぞ」
「あたしの名前とそっくりね。こんなきれいな色してるのに食べ物だなんて、なんか不思議」
高級な果物であるメロン味のアメを口の中に入れたアメリアは、んーっ! と目をつぶりながらうなり、足をバタつかせる。
「お気に召したようだな」
「甘くてすっごくおいしい! あたしの名前と似てるし気に入ったわ! まだ持ってたりする?」
「まだまだたくさんあるぞ。小袋に入ってるからこれごと渡しとく。食べ過ぎるなよ?」
「うん!」
アメリアは、それはそれは大切そうにアメの入った小袋を小さな両手で包み込んだ。毎度のことながら、これだけ喜んでもらえると悪い気はしないな。
アメリアは心底幸せそうにアメを口の中で転がしながら俺が話し出すのを待っていた。左右のほっぺたが膨らんではへこみを繰り返していた。こりゃすぐ舐め終わっちゃうだろうな。
「さて、何から話したものか。まずは俺の生まれ育ったところの話からかな。東方の端っこにある小さな村。そこで厳しくも優しい、尊敬できる両親に育てられた。村の名前はあえてださない。今はもう無いし、言ってもわからないくらい小さかったからな。五〇人くらいしかいなかったんじゃないか。村人たちのほとんどは、傭兵をして稼ぎを得ていた」
脳裏に懐かしい風景がよみがえる。
緑が多く、家屋はどこまでも質素。人数は少なかったが、活気に満ちていた。
そのまま目を閉じながら話を続ける。最近は思い出すこともだんだんと少なくなってきたからか浸りがちになってしまう。
「温かい人たちだった。みんな、家族みたいだった。村人のほとんどが傭兵だったから、時間さえあればみんな訓練していたよ。小さい頃から色んな人に稽古をつけてもらっていた。父親は鍛冶師、母親はその手伝いでいつも忙しそうにしていてあまりかまってはくれなかったけれど、俺は両親が刀を打っているのを見るのが好きだったからあまり気にならなかった。作業を手伝わせてくれるようになった時は本当に嬉しかったよ。幼い頃の俺にとって、剣術の腕を磨くこと、鍛冶をすることは遊びだったんだ」
あの頃は純粋に楽しかった。剣術も鍛冶も上達するたびに周りから褒めてもらえ、俺自身も前に進めているという確かな実感を得ることができ、嬉しかった。剣術は人を殺すためのもの、鍛冶は人を殺す道具を造り出すためのもの。当時はそんなことよくわからなかったし、考えもしなかった。あの瞬間までは。
「物心ついたときから剣を振るい、剣を造ってたってわけね。魔法剣を使っての訓練もしてたの?」
「そりゃもちろん。それが俺の尊敬している人物の一人、村正師匠だった。村正師匠はセカンドで、人の姿のときは普通の剣で稽古をつけてくれて、剣状態のときはアドバイスをしながら身体強化魔法中心の稽古をつけてくれたもんだ。村正師匠と稽古した時間が一番多くて、親父の幼なじみで両親とも仲が良かったから俺にとって兄のような、もう一人の父親のような存在だった」
「それじゃあユキトの剣術のルーツはその村正っていうセカンドの人だったのね」
「ああ。村正師匠のおかげで剣魔術士になれたと言っても過言じゃない」
「あ! あたしわかったかも。もう一人の尊敬する人ってあんたのお父さんでしょ?」
「当たりだ。俺に鍛冶のイロハをたたき込んでくれた、俺の憧れの人。お袋は鍛冶の補助で、造るのは主に親父だったんだが、これがまたすさまじかった。遠方からわざわざ親父が鍛えた刀を買いに来るほどだったよ」
「そんなに優れた刀を造れるんだったら、当然魔法剣も造れたのよね? もしかしてお父さんが造った魔法剣が前のパートナーだったり?」




