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剣と画材と鋼竜  作者: 鹿井緋色
第3章 士魂死闘篇
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第三章24 砂塵の金剛石

「らァあああああああああああああああ――――ああ!」


 光り輝く金剛石の粉末のように、リシェスは砂状になって俺の体を纏う。


 剛砂――アズさんが彼女に勝手につけた名前。


 金剛石のような砂。剛毅の盾。


「ケンちゃん、ウチがなんとか空気読んで盾に成るから――――盛大に暴れていいですよぉ」


「――おう! 恐竜三体のかたき討ちだ!」


 俺は息を整え、意気を上げ、そして剣を握り直す。


「――――くっ」


 この場で劣勢に転じたのは砂の王、ベラノ・プリメロ・アンビシオン。


 ヤツの砂の攻撃と防御は――俺たちにとっては脆い。


「らァあああああああああああああああ――――ああ!」


 俺の体がついていける。


 俺の剣が斬ってくれる。


 俺の盾が護ってくれる。


 ヤツの砂の防壁は――割れる。


 俺の体と最強の剣が、割れる力を持っている。


 だからこそ、強気に攻めに行ける。


 ヤツの砂の攻撃は――防げる。


 俺の最強の盾が、護る力を持っている。


 だからこそ、強気に攻めに行ける。


 ヤツが目の前真正面から放った砂の波濤は砂状だったリシェスが俺一人分の盾に成って防いでくれる。ヤツの砂の棘も、剣も、槍も同じく、リシェスが盾と化して俺を護ってくれる。


 ――――俺を護ってくれるやつがいる。


「らァあああああああああああああああ――――ああ!」


 激戦の死闘の中で、俺の士魂の魂が泣きそうになる。


 俺を助けてくれるやつ、力をくれるやつはいたけれど、ここまでしっかりと分かり易く護ってくれるやつは初めてだった。


 もはやベラノ・プリメロ・アンビシオンは敵ではない。


 俺は戦える。


 俺は死なない。


 俺は勝つことができる。


 俺はまた、仕事で笑うことができるのだ。


「らァあああああああああああああああ――――ああ!」


 ベラノに肉薄し、うなじを狙うが向こうも気を許したりはしない。


 彼も隷属させた砂で急所をコーティングし、殺されないための策を講じる。


「図に乗るな、人間が! これだけのことをしておいて、ただの徒罪で済むと思うな! 唯一神『ラビ』様の名を守るために貴様ら全員――――」


 ベラノが吼える。五〇を過ぎた高齢に見える男が、十八前後の三人の若造にいいように翻弄されている。


 ――そうだ。怒れ。赫怒しろ。


 光り輝く砂塵の金剛石に、


 光り輝く銀閃の鋼鉄剣に、


 せいぜいそこで惑うことだな。


「らァあああああああああああああああ――――ああ!」


 ほら――


 ――俺が突き入る隙間を作れ。


 ――お前が斃れる契機になれ。


「徒罪なんて怖くねえな! 俺はいろいろと大罪を犯してきた男だ!」


「そんな自慢が老生の野望の隘路になると思うなよ、糞餓鬼共!」


 吼えるベラノ・プリメロ・アンビシオン。彼は隷属させた特大の砂の塊を俺たちに波濤として差し向ける。


「リシェス――――」


 呼びきるより早く、彼女は割れた卵の殻のような盾となって俺たちを護る。


 ――リシェスは完全に護り手として孵化した。


 次はお前だ、ベラノ。


 ――――お前にお前の居場所を教えてやる。


「砂上の楼閣は俺が崩す! 俺の剣が崩す! 俺の盾が護ってくれるから! お前の野望を今ここで崩す! ――――ララ、真っ白な世界を汚してしまえ!」


「オーケー! ケンシロー! あんたにはちょっと屈辱的な魔法を遣うわよ! 突き出して!」


 砂の波濤攻撃の勢いが止まると、金剛の盾は再び砂に戻り、攻撃の隙間を作る。


 俺は即座に剣をベラノに向けて、真っ直ぐ突き出す。


 ベラノは即座に砂の壁を作って防御を企む。



「――――穿て! ダクネ!」



 俺の剣が、俺の嫌いな黒騎士さながらに漆黒の黒靄を纏い、そして城壁を崩せるほどの特大の黒い銃弾が彼めがけて飛んで行く――――。



    ***



 砂の城壁と砂の王の腹に孔が開いた。


 ララ渾身の黒い弾丸は――――黒の爪は真っ直ぐ伸びてその先――――ベラノの繰り出した砂壁と彼の腹を突き破り、後ろにそびえる城壁にまで被害を及ぼした。


 俺とララの猿真似では、うなじを含めた首元に精密射撃とはいかなかった。


 漆黒の魔法では、彼に開けた大穴は権能により容易く修復されてしまう。だが、


 ――――屈辱は与えられた。


 ベラノは砂地に膝をつき、悄然とその場に俯く。


「今が隙間だ! 行くぞ、二人とも!」


 アズさんが視抜いた核魂の位置はうなじ――――


「待ってください! やばい予感がします!」


「そうよ。――――嫌な予感がする」


 逸る俺をリシェスとララが制する。俺を護るために止めてくる。


「どうした?」


 装備した矛盾に問いかけながら、俺はベラノを注視する。風が強くなってきた。



「これ以上、老生を馬鹿にしてくれるなぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああアアアアア!」



 ――砂上の楼閣がボロボロと崩れ去った。


 ――砂漠の土砂が渦を巻いて宙に浮かぶ。


 そしてそれら大量の土砂は隷属されて彼――ベラノ・プリメロ・アンビシオンに寄り集まって纏われる。



「フォーサイスノ神ヲ舐メルナ」



 現れたのは、天を衝くほど巨大な砂の塊の番兵だった。



 ――――いや、巨大な砂の王様だ。



「くっ……」


 思わずたじろいでしまいそうな巨躯。巨人族の原種のように通常の巨人族の何倍も大きい。俺の身長の三十倍にまで達しそうなほどの巨人――いや、巨神。それこそ、巨大な砂の城とその周辺の土砂を隷属させたのだ。これほどの大きさになるのはむしろ自然だ。


 あの巨大な土塊から手のひらサイズの核魂を摘出して破壊するのは難儀しそうだ。


「樹の巨大な神の次は、砂の巨大な王様かよ……」



「ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲオオオオオオオオオヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲををををををヲヲ!」



 ベラノは雄々しく鬨の声を上げる。口もまともに利けぬほど怒りに燃えているらしい。


【剣災、もうじき王城につくはずだ。今そっちはどうなっている?】


 アズさんから心配の声が聞こえる。ペアリングが切れていたようだ。まだ維持が慣れない。


「あ、アズさんですか? 今ですね、ちょうど敵がゴーレム魔人からゴーレム巨神に変幻・顕現したところです」


 そう受け答えしてペアリングを繋げると、


【――――ここからでも視えた。頭に本体が埋まっている。その本体に埋まっている核魂を狙えば何とかなりそうだな】


「……それが一番難しそうなんですが」


 まず、埋まっている状態をなんとかできない。


【少年、巨神化したというのは、ベラノ・プリメロ・アンビシオンが隷属させた砂を体に纏わせた状態で間違いないか?】


「概ねその通りだぜ、ラピス。なにか妙案が?」


【老骨からのアドバイスだ。竜の加護を使え】


「はあ? ルビーの加護はスペーニャに向かう前から紛失済みだが?」


【なんと! 余の加護を切らすとはケンシローの薄情者!】


 銀翼の騎士団のモチーフキャラクターが怒る。


「いや、すまんって」


 どのみち、加護をもって出発しても、アズさんを失った時に自暴自棄になって棄てていたのだと思う。


【もうひとつ、加護があるだろう?】


 ラピスの意味不明な言葉。


「は……?」


【昨晩の老骨の魔力がこもった特製のアラ汁は堪能して頂けたかな?】


 ――――っ!


「お前、あのスープに使った骨って……」


 思わず吐き出しそうになる。


 あれはラピスの骨の出汁を使った料理で、つまりそこには骸竜の魔力の力を借りることのできる加護が宿っていて――――



「ヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲヲオオオオオオオオオオオオオオオヲヲヲヲヲヲををををヲヲ!」



 巨神がもう一度雄叫びを上げる。これ以上はブルートゥースでだらだらと喋っていられなさそうだ。


「もう一度だ。ララ、リシェス。俺たちの矛盾を見せつけてやろうぜ」


「ええ!」


 右手の剣が力強く応える。


「もちろんです!」


 前方で煌めく砂塵の金剛石のような粒子が輝きを増す。


 今ここで、リシェス・ヴィオレ・ヌウェルの魂は、紫紺色に艶めき、褐色に力付き、橙色に闘志を燃やしていた。


 ここが士魂死闘の最終決戦だ。


 静かにケンシロー・ハチオージの、騎士の魂が加熱していく。


 ――大丈夫、俺の半分の魂は、もうあの方に預けてある。


 ――そんなところは怖くはない。あの巨神は怖くない。


「行こうぜ、――砂塵の金剛石」


 強欲で矮小な砂の巨神に――――盾突いてやろうじゃないか。


第三章24話でした。よろしくお願いします。

そして、5000pv突破いたしました。

これからもよろしくお願いいたします!

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