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剣と画材と鋼竜  作者: 鹿井緋色
第3章 士魂死闘篇
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第三章14 断片 木漏れ日

    ※※※※



 貴方がわたくしに与えて下さった木漏れ日は、とても暖かい。


 崩壊していくアレスの里の中で、わたくしは世界に呪われていると思っておりました。


 しかし、貴方はもっと呪われています。仕事中毒という呪詛にかかっています。


 しかし、貴方はそれ以上に祝われています。仕事があるという祝福を受けています。


 呪詛と祝福に愛されている方なのだと思うのです。


 呪詛なのか、祝福なのか、貴方の周りは女の子だらけです。それがわたくしは不満です。


 焼きもちを妬いてしまいます。


 しかし、他の方々が不満そうにしておりませんので、わたくしも呑み込むことにします。


 そもそも、貴方は陽だまりのように心根が温かく、わたくしはそれだけで不満を忘れてしまいます。貴方は良い意味で卑怯者なのです。


 だからわたくしは貴方の花でありたいと思います。


 陽だまりを浴びせて下さった貴方が着飾れる花に。


 わだかまりを断ち切って下さった貴方のはなむけに。


 傷を負ってまで仕事に打ち込む貴方が誇れる花束に。


 わたくしは成りたいのです。


 貴方に花を贈りたいのです。


 誰かの役に立ちたい。


 そして贅沢をいうのであれば、わたくしは貴方の役に立ちたい。


 貴方の喜ぶ顔が見たい。


 貴方の笑う顔が見たい。


 貴方の楽しそうな顔が見たい。


 貴方の優しそうな顔が見たい。


 貴方の誇らしげな顔が見たい。


 絶望に暮れる貴方の顔などわたくしは見たくないのです。


 だからわたくしは貴方を待ち続けます。


 永遠という地面にかたく根を張り食い込んで、わたくしは貴方の帰る場所をおつくりし、お守りいたします。


 わたくしは木になるのです。


 わたくしは気になるのです。


 貴方がわたくしをどう思っているのか。考えるだけで固まってしまいます。


 本当はなんとも思っていないのか、わたくしという花を気に入ってくださっているのか。


 陽だまりのような貴方は素直ではありません。陽光が強くなったり、弱くなったりします。


 でも、それでいいとわたくしは思います。


 貴方という光は、いつも眩しいだけでは味気ないですから、たまに眩しいと思えることがわたくしの幸せのひとつです。


 それでも翳ってしまわれたら、わたくしはとても心配です。どうしたのだろうと思います。


 悲しくてつらくて、どうしようもない嘆きを持っていらっしゃる時は、いっそのこと、休んでしまってもいいと思うのです。


 ですが、弱くてもいいとは言いません。


 絶対強くなくてはいけないとも言いません。


 勝て、とも言いません。


 ただ、ひたすらに無理を通そうとして下さればいいのです。


 何かを喪ってしまった時こそ、心が潰れてしまいそうになった時こそ、です。


 貴方が通す「無理」はとても優しくて、とても暖かくて、とても眩しいのです。


 そんな貴方をお慕い申し上げております。


「ですから、ケンシロー様。御無理なきよう、御無理をなさってください」


 貴方の無理は只人と違って、案外無理ではなかったりするのです。


 深い世界の断片でわたくしは今日も貴方の帰りを待ち望みます。


 ああ、今回の仕事では、ケンシロー様にどんな花を添えたらいいのでしょうか。


 今の時期でもあり、貴方の誕生季である夏の花が良いでしょうか。


 何色の花が好きなんですか?


 どんな花なら似合うのでしょうね。


 個人的には、トレニアなんて似合いそうな気がします。


 飾り方は熟考を要しますが、可愛らしい立派な花なのですよ。


 花言葉は、『ひらめき』です。


 わたくしはいつまでも貴方の木漏れ日をお待ちしておりますよ。


 今度のケンシロー様はどんな無理ひらめきを通すのでしょうか。



    ※※※※


第三章14話です。「わたくし」の女の子のモノローグでした。

本編は今日の夜か明日の朝くらいには投稿できそうです。

それと、4000pv突破いたしました。

今後ともよろしくお願いします。

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