第三章14 断片 木漏れ日
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貴方がわたくしに与えて下さった木漏れ日は、とても暖かい。
崩壊していくアレスの里の中で、わたくしは世界に呪われていると思っておりました。
しかし、貴方はもっと呪われています。仕事中毒という呪詛にかかっています。
しかし、貴方はそれ以上に祝われています。仕事があるという祝福を受けています。
呪詛と祝福に愛されている方なのだと思うのです。
呪詛なのか、祝福なのか、貴方の周りは女の子だらけです。それがわたくしは不満です。
焼きもちを妬いてしまいます。
しかし、他の方々が不満そうにしておりませんので、わたくしも呑み込むことにします。
そもそも、貴方は陽だまりのように心根が温かく、わたくしはそれだけで不満を忘れてしまいます。貴方は良い意味で卑怯者なのです。
だからわたくしは貴方の花でありたいと思います。
陽だまりを浴びせて下さった貴方が着飾れる花に。
わだかまりを断ち切って下さった貴方のはなむけに。
傷を負ってまで仕事に打ち込む貴方が誇れる花束に。
わたくしは成りたいのです。
貴方に花を贈りたいのです。
誰かの役に立ちたい。
そして贅沢をいうのであれば、わたくしは貴方の役に立ちたい。
貴方の喜ぶ顔が見たい。
貴方の笑う顔が見たい。
貴方の楽しそうな顔が見たい。
貴方の優しそうな顔が見たい。
貴方の誇らしげな顔が見たい。
絶望に暮れる貴方の顔などわたくしは見たくないのです。
だからわたくしは貴方を待ち続けます。
永遠という地面にかたく根を張り食い込んで、わたくしは貴方の帰る場所をおつくりし、お守りいたします。
わたくしは木になるのです。
わたくしは気になるのです。
貴方がわたくしをどう思っているのか。考えるだけで固まってしまいます。
本当はなんとも思っていないのか、わたくしという花を気に入ってくださっているのか。
陽だまりのような貴方は素直ではありません。陽光が強くなったり、弱くなったりします。
でも、それでいいとわたくしは思います。
貴方という光は、いつも眩しいだけでは味気ないですから、たまに眩しいと思えることがわたくしの幸せのひとつです。
それでも翳ってしまわれたら、わたくしはとても心配です。どうしたのだろうと思います。
悲しくてつらくて、どうしようもない嘆きを持っていらっしゃる時は、いっそのこと、休んでしまってもいいと思うのです。
ですが、弱くてもいいとは言いません。
絶対強くなくてはいけないとも言いません。
勝て、とも言いません。
ただ、ひたすらに無理を通そうとして下さればいいのです。
何かを喪ってしまった時こそ、心が潰れてしまいそうになった時こそ、です。
貴方が通す「無理」はとても優しくて、とても暖かくて、とても眩しいのです。
そんな貴方をお慕い申し上げております。
「ですから、ケンシロー様。御無理なきよう、御無理をなさってください」
貴方の無理は只人と違って、案外無理ではなかったりするのです。
深い世界の断片でわたくしは今日も貴方の帰りを待ち望みます。
ああ、今回の仕事では、ケンシロー様にどんな花を添えたらいいのでしょうか。
今の時期でもあり、貴方の誕生季である夏の花が良いでしょうか。
何色の花が好きなんですか?
どんな花なら似合うのでしょうね。
個人的には、トレニアなんて似合いそうな気がします。
飾り方は熟考を要しますが、可愛らしい立派な花なのですよ。
花言葉は、『ひらめき』です。
わたくしはいつまでも貴方の木漏れ日をお待ちしておりますよ。
今度のケンシロー様はどんな無理を通すのでしょうか。
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第三章14話です。「わたくし」の女の子のモノローグでした。
本編は今日の夜か明日の朝くらいには投稿できそうです。
それと、4000pv突破いたしました。
今後ともよろしくお願いします。