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剣と画材と鋼竜  作者: 鹿井緋色
第1章 鋼竜討伐篇
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仕事の終わりと碧い視線

「おかえりでしゃる。二人とも。元気そうでなによりでしゃる」


 アオネコ店長が呑気に出迎える。


「初期情報が少ないッスよ!」


「説明責任を果たしてないじゃない!」


 俺とヒルダが声を合わせて苦情を訴えると、アオネコ店長はにゃるーとくねって笑う。


「依頼を受け、情報を集め、任務を執行する。それが仕事でしゃる。情報は自分で集めるべきでしゃる。そして君たちが初陣で苦労したのは自己責任でしゃる」


「うわっ、詭弁くさっ!」


 ヒルダのツッコミにお構いなしでアオネコ店長はぬるぬる動いて持ってきた素材の匂いを嗅ぐ。確認しているのだろうか。


「ふむふむ。上物でしゃる。これならいい定規が作れるでしゃる。さっそくとりかかってもらうでしゃる。アズー、仕事でしゃるー」


「ああ? 仕事だと?」


 じゃらじゃらと金属がぶつかり合う音を鳴らしながら無気力そうな足取りで店から出てきたのは、バンダナを巻いた作業服姿の金髪碧眼の美女だった。鎖のようなものを引きずっている。


 美女は明烏の亡骸を一瞥すると、


「……納期は?」


 と眠たそうにアオネコ店長に訊いた。


「明日でしゃる」


「はぁ? すぐじゃないか」


「できないでしゃるか?」


「できるに決まっているだろ」


 ……なかなかこの人も一筋縄ではいかないみたいだ。


「二人に紹介するでしゃる。この金髪碧眼巨乳のグラマラスギャルが職工長のザラカイア・アズライト・シーカーでしゃる。アズと呼ぶでしゃる」


「職工長……といいますと?」


「君たちが持ち帰った素材を加工して商品にする職人たちをとりまとめているリーダーでしゃる」


「よろしく。お前ら。名前は? あるのか?」


 あるに決まっているだろ。野良犬じゃないんだから。


「ケンシロー・ハチオージです」

「ララ・ヒルダ・メディエーターです」


 アズさんは品定めするように俺たちを見つめる。それも舐め回すように見つめてくる。なんかもっさりとした作業服姿なのにエロいな。


 そしてゆるりと両手で俺の頬を撫でる。だが、冷たい碧い目はなにも語らない。しかし数秒してようやく重たい口を開く。


「なるほどそういうことか。お前らは剣災と覚魔だ」


「……は?」

「かくま……?」


 剣災も覚魔も古今東西聞いたことがない。修羅だとか夜叉だとかは言われた覚えはあるけれど。


 するとアオネコ店長がアズさんの肩にぬるぬる動いて乗っかる。


「気にする必要ないでしゃる。アズの金言術でしゃる」


「きっ……! 金言術!?」


 俺とヒルダは驚いてアズさんとアオネコ店長をぱちくりと交互に見た。


「その様子だと金言術がなんたるか、知っているようでしゃるな」


「よせ、店長。言いふらすような特技じゃない」


「いや、とてつもなく強大な異能じゃないですか! 金言術は特異感覚とも呼ばれる特殊な異能で、肉弾戦闘、魔法戦闘の上をゆく強大な異能力じゃないですか!」


 ヒルダは驚いたのか、とり乱して金言術がなんたるかアズさんに確認するように叫ぶ。


 金言術。

 見たもの、聞いたもの、触れたもの、舐めたもの、その他諸々、感覚と呼ばれるモノに言葉や数値など付加価値を感じ取るというもの。普通の人間の共感覚や超感覚とは違い、それの上位互換だ。


 噂では賢獣以外の動植物の声を聞いて人語化したり、相手を視ただけで体に残っている魔力の残量を算出できたりするひともいるらしい。


「アズの金言術は視覚にあるでしゃる。アズは視たモノの本質を見抜き、短所、長所、体調、体質、潜在能力等々を把握するのでしゃる。それで二人にふさわしいアダ名をつけたのでしゃる」


「なぁに、明烏の体の傷が背中から心臓を経由して胸までをひと突きだけ。剣の才能がなくてはできん。だからその男は剣災だ」


 もう一度アズさんは確認するように俺を見る。そして今度はヒルダを見た。


「だが、剣災は剣を腰に佩いていない。となればそこの女が剣に変身したのだろう? だとしても相当な変身魔法の使い手だ。だからそこの女は覚魔と名づけた」


「な、なるほど……」


 俺とヒルダは同時に呟き、顔を見合わせる。


 褒められたのかな? とヒルダの顔が言っていた。俺もそんなことを考えていた。


 とはいえ『剣災』か。『剣才』ではなく『剣災』なのだ。剣の災い……これはありがたく頂戴していい名前なのだろうか。ヒルダもヒルダで、魔を覚ると書いて『覚魔』だし、このザラカイア・アズライト・シーカーという人は金言術でなにを視たのだろうか。


「まあ、ネーミングは第一印象と格好良さ重視だ。貴様らの働きによってはそのうち変わるかもしれん」


 おいおい。


「それより、アズ。納期は守ってもらいたいんでしゃるけど。上客の相手はこの我が輩に任せるでしゃる」


「ああ。任せろ。急いで完璧に造る。分度器だったな?」


「……製図用定規でしゃる。どれくらいかかるでしゃるか?」


「つきっきりで作業をすれば九時間といったところだ」


 アズさんは俺達が獲ってきた明烏の亡骸を片手で引きずってそのまま店の奥へ悠然と歩いて姿を消した。まさか九時間ぶっ続けで働くつもりなのか……?


「では、二人とも。今日はもう休むでしゃる。長旅であったでしゃるな。明日定時に出勤すれば定規が完成しているでしゃる」


 今日……というが、今は既に午後一〇時だ。そして出勤ということは定時で考えれば九時である。一一時間しか休めない。今から飯を食って、家に帰ってシャワーを浴びたらもう寝なければならない。自宅の木剣で練習もできないではないか。


「この画材店……まあまあのグレーね」


「ああ……そうだな。みんななかよしたのしい職場だ」


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