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剣と画材と鋼竜  作者: 鹿井緋色
第2章 病魔騒動篇
59/146

短編 鈍感な自己愛と敏感な他者愛

    〒〒〒〒



 前略


 鈍感で敏感な貴公に伝えなければならないことがある。


 わらわはこれで三度目の手紙を書いたわけじゃが、今のわらわはどこにいると思う?


 正解はオーラン地方のダリアという街じゃ。活気があって良い街じゃよ。


 あの事件が「アレス大災」という災害で片付けられたのは今までの旅路で聞き及んだ。


 自ら望んだこととはいえ、つまらん事の顛末じゃと思ったよ。じゃが、なによりつまらないのはわらわ自身じゃて。つまらないエゴを貴公に押し付けてしまったと思っている。少しは反省しておるのじゃ。


 じゃから今は自分探しと称して世界中を旅しておるのじゃ。


 かっはっは! 変なものじゃな。『自分探し』とかいう言葉は!


 自分は自分の中にあるもので、余所で探しても見つからんはずじゃのに。


 しかしそれなりに旅は楽しませてもらっておる。知らない奴に会い、親切にされ、粗雑にされ、悪罵され、歓迎される。地域によって対応が全く違うのじゃ。ヴィクトリア帝国は広くなり過ぎたとつくづく思う。


 いつかどこかで仕事中のケンとばったり会うこともあるじゃろうが、今までの不満はその時に晴らすことじゃな。わらわも謝る準備は出来ておる。


 ――もちろん、負けなければ謝らんがのう。


 とにかく今は拠点を作らずに旅の連続じゃ。旅費の心配はしばらく必要ない。必要になったらフィールか貴公にせびりに行くから貯金はそれなりに蓄えておくようにの。


 なぜか灰桜色の髪をしたガキが旅についてきておるが、害意は無いようじゃからとくに突っぱねたりはしていない。この手紙もそのガキに作らせた。アレスのカミは丈夫じゃな!


 風呂でわらわの全裸を見て、ませたように顔を真っ赤にしておった。狼狽える様子は爆笑ものじゃった。


 ケンには迷惑をかけてばかりじゃったが、それもケンのわらわを慕い、努力を重ね、必死になっていた姿を大切に思っていたからじゃ。


 同時に大切に思ってはいけないとも思ったがな。


 貴公は優しすぎるから、大切さをこじらせて寄りかかると、こちらから離れるまでは、添い続けるじゃろう?


 そうなったらわらわはダメになってしまいそうじゃ。二度とケンから離れられなくなりそうじゃ。じゃからわらわは貴公を一番強く悪罵しておったのじゃよ。距離感というものじゃな。じゃから、今の距離感がわらわとケンでは丁度いいじゃろうな。


 貴公に寄り添っていい女は貴公が選んだ女じゃ。責任もって選び、選んだら、決してその女を裏切るんじゃない。その手を離すな。


 もちろん、わらわを選んでもよいが、はたして貴公に手懐けられるかのう?


 もう一度、何度でも言うようじゃがな、


『大切』を手離すようなことはするな。


『護るべき』ものを作れ。


『好き』を見つけろ。


『愛』に飢えろ。


 貴公の幸せは、貴公にしか見つけられぬが、幸せと愛は切り離せぬのじゃからな。


 鈍感な自己愛と敏感な他者愛を抱えた貴公には、最後にこう言っておこうか。


 そろそろ■▼◆●★▲への


 いや、やっぱり書かないでおこう。この黒に潰された箇所に何と書かれたか、悶々として次の手紙を待てばよい。


 貴公は愚物ゆえ、すぐには気づかんじゃろうが、貴公は愚物ゆえ、いつかは気づくじゃろう。


 次の手紙は次の地方か地域に流れ着いてからじゃがな。


 じゃあ、ケンシロー・ハチオージ。


 努力を続けろ。


 しかし努力と驕るなよ。


 他者が努力と思うのが、貴公の努力ではない。


 貴公の努力は貴公の熱狂の内にある。


 それくらいは鈍感な自己愛と敏感な他者愛の持ち主たる貴公にも分かるじゃろうて。


 じゃあ、ケンシロー・ハチオージ。


 あとでな。



    〒〒〒〒


短編その3です。短編というよりもあの人からの手紙ですが。

この短編が本編に絡むのか、絡まないのかはまだ断言できないところがあります。申し訳ありません。

次回からそろそろ第三章に入ります。これからもよろしくお願い致します!

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