表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と画材と鋼竜  作者: 鹿井緋色
第2章 病魔騒動篇
45/146

第二章19 続・無理を通すための戦い

 地面から魔力が爆発的に噴出し、大地が揺れ、そして巨木が斬り倒される。


 深緑の里を壊滅させる三種類の轟音が鳴り響く。


 そのうち今の俺に聞き分けられるのは、漆黒の斬撃に撫でられて巨木が斬り倒されていく音だけだ。


 しかし闇の矛先は里には向いていない。――俺だ。


 俺は剥き出しの木の根を、大きな木の幹を、先の戦闘で出来た切り株を蹴り、蹴り、蹴り、飛び跳ね、漆黒の斬撃を避けて体を馴らす。


 剣を見て、感じて、食らって馴化させる。


 あの漆黒の斬撃は気体状の固体の斬撃といった、あまりにも抽象的な存在なのだ。それはつまるところ、斬撃として触れることができるが、相手の意志か何かで黒靄になって消えるということだ。


「ララ! 魔力はそこそこに抑えろ! とっておきにとっておけ!」


「分かってるわよ。回復してるっていっても全回復じゃないんだから。――――それより、慣れてきた?」


 俺の右手に収まる剣・ララは俺に問いかける。俺はニヤリと笑い、剣を持つ力を強めた。


「結構慣れたきたぜ」


 不意を突くように漆黒の斬撃が迫ってきた。それを俺は「剣」で受ける。


 ――受けて、そして斬り砕く。斬り砕いて、霧散させる。


「第一関門、漆黒の斬撃――――クリア!」


【ひゃはははははははははぁ! 防がれてんじゃねえかフィールよぉ!】


「ふ、大丈夫さ。この僕もケンシロー君を侮っているわけではない。想定内だよ」


 魔剣と喋りながら倒木の上に立つ黒騎士を俺は仰ぎ見る。


 右手に漆黒の剣、左手に祭具用の魔剣をそれぞれ握っている。


「――しかし第一関門とは心外だね。僕としては第四関門くらいの自負があったのに」


 今度は俺に向かって話す。黒の鎧をまとったフィールに落胆した様子はなく、かといって興奮している様子もない。そもそも漆黒状態で表情は見えない。演技が見えない。


「へえ、俺がお前を倒すには第何関門くらい必要なんだ?」


「……今は第六関門くらいかな。ほら、次は第五関門だよ」


 フィールは数十歩距離を開けた俺に向かって剣を真っ直ぐ突き向けた。


 漆黒の剣に黒靄が集まる。


「穿て、ダクネ」


「――――――はぁっ!?」


 ダンッという勢いで「無音」が鳴り、フィールの黒剣から円錐状の漆黒が撃ち放たれて、俺を襲う。


 刹那の出来事だった。


「ケンシロー!?」


 円錐の細い漆黒が、俺の腹を貫いたのだ。思わず俺は傷口を抑えてその場に崩れる。


「ケンシロー! ちょっと! しっかりして!」


「大丈夫さ。毒なんてひっかけちゃあいないから安心してくれ給え。それはただの小型の大砲――銃だよ」


「……銃? お前が作った言葉か?」


「どちらかというと、僕のお師匠様が作った言葉だね。漆黒魔法の使い方を教えてくれたのはお師匠様だからね。黒金に充てる弾――銃弾、銃撃、すなわち銃さ」


 満足そうな声は聞こえるが、フィールの表情は分からないままだ。


「銃、で……今のが銃撃か。悪趣味な魔法だ」


「勝つためには変化は必要だよ。手が届かなければ剣で、剣が届かなければ銃で。ね」


 俺はよろけながらも立ち上がり、そしてフィールをキッと睨みつつ剣の腹を銃撃された箇所に当てる。ララの魔法で傷を治してもらう。


「避けられないんじゃどうやって勝つの? 捨て身で被弾しながら懐に入って斬る?」


「とりあえず、時間稼ぎだな」


「ケンシロー君?」


 そもそもそんなに深くなかった傷が治りきった後、ララを片手に木の陰に逃れ、樹海を縫うように走り抜けた。



    ***



「まさか敵に背中みせて敗走するなんて。あんたらしくもない……こともないか」


「敗走じゃない。背走だ。現にフィールはまだ勝ったと思っていないみたいだし」


 フィールの漆黒の斬撃がまたしても、木々を薙ぎ倒しながら襲いかかる。まだ俺を倒そうとしているのだ。


「なにか策があるのね?」


「いや、特には」


「はあっ!? なに、あんた戦いすぎて馬鹿になったんじゃないの!?」


「元から馬鹿だっつの! ……いや、策っていうのはあるにはあって、向こうの魔力切れを待とうかと思ってな」


「あ、そう。そういうことね」


 前回戦った時のフィールは黒騎士状態を解くとかなりしんどそうにしていた。あの状態は体力と魔力にかなりの負担があるに違いない。


「ケンシロー、あんたフィールの魔力ってどれくらいあるのか分かるの?」


「いや、さっぱり。尽きたところは見たことがないし、あいつは見せようとしなかった」


「ちょっと」


 そもそもそんなにフィールの事なんて見ていなかったし、興味もないから忘れて覚えていないのかもしれない。フィール自身も社交的だからこそ、自己開示の内容に一線は引いていた。学校でも多弁ということはなかった。


 といっても、やはり俺も学生時代のフィールを完璧に覚えているわけではない。学校ってほら、俺的思い出したくない場所ナンバーワンだし。ナンバーツーはハチオージ村の母さん以外。


「やっぱりあんたに任せてたら埒が明かない」


「いや、実際に体動かして戦うの任されてるのは俺なんだが」


「いいのよ。気を利かせてあげるから、あんたは好き勝手動きなさい。……その代わり、魔法は遣うわよ」


「……ほう。それなら」


 俺はこのコンビの脳であるララを信用し、背走を止めて逆に斬撃の飛んでくる方角へ向けて走り出した。


「おらぁあああ、ああっ!」


 漆黒の斬撃を剣で受け、斬り砕く。百数歩走ったところで黒騎士の姿を捉えた。黒騎士も俺の姿を捉えたようで銃撃の準備を始める。


「穿て、ダクネ」


「護れ、シエル!」


 即座にララが盾魔法で殻のような盾を作り俺の体を守る。衝撃ですぐに割れた。


 俺を狙っているって分かっているなら分かり易い。


【ひゃはははは! 防がれてんじゃねえか! どぅするぅ!?】


「静かにしてくれないかな、ナギ。――穿て」


「焼き滅ぼせ! インフェーノ!」


 ララの最大火力が再び燃え上がり、噴魔で朽ち逝くアレス樹海を火の海に変えんとする。


 しかも前回よりも熱量が上がっている気がした。


 これならフィールを圧倒できる。本気でやって後悔することもある、か。


 しかし、


「くっ――消せ、ダクネ」


 黒騎士の剣から漆黒の炎が湧き出て、ララの炎を呑み込む。


 赫赫に燃える炎に、漆黒に揺らめく炎が絡み、威力を弱め打ち消していく。


「そんな……私の最大攻撃が無効化された……?」


「無効化ではないよ。僕にそんな大層なことはできない。僕がしたのは相殺さ」


 フィールの黒騎士鎧である頭部が砕け散る。汗だくのフィールが顔を出した。限界の一歩手前といったところか。


 対してこちらも、剣の姿だったララが人間に戻った。


「そんな、私の魔力が……尽きた」


 もともとララの魔力は完全回復していない。先に尽きるのもあり得る話だ。


「僕の漆黒相殺術は相対する魔法と同じ量の魔力を使わないといけないからね。もう、あと少ししか魔力は残っていないよ。体力も少しきついしね」


 フィールはそう言いながら黒剣とナギの二刀流で剣を構える。


「どうやら両方とも限界らしいなとは言っていられない状況か」


 武器を持っているのは敵対者・フィール。俺は丸腰、ララは無力。


「どうするんだい? ケンシロー君」


 言外にフィールが俺に降参を勧める。ここでフィールがララを攻撃するとは思えないが、その可能性も勘定に入れて選択すべきか。それこそ命あってのなんとやらだ。


「俺の……」



『ケンシロー、あまりおなごを待たせるものではないでありん、す!』



 ベシッ


 フィールの背後をいきなりとって現れたルビーが自慢の尻尾でフィールの頭を殴りつける。


「くっ……! ルビーさん!」


 不覚をとって悔しそうなフォールの声。


『ケンシロー、さっさと片付けるでありんす! 加護を!』


「――――あっ!」


 鋼竜の加護が右手に――――っ!



    ***



「僕の負けだよ。ケンシロー君」


 足が氷漬けになって座るフィールが静かに敗北を宣言する。


 ギリギリだ。ギリギリだったのだ。


 俺があそこでルビーに言われ、鋼竜の加護を使ってフィールを氷漬けにした。それによってフィールは動けなくなり、結果、三人に囲まれた彼は敗北を宣言するに至った。


「さて、猿芝居を辞めて、先輩がなにをしようとしているのかしっかり教えてもらうぞ。……その前に」


『その前に?』


「なんでルビーはここに来てんだよ! 怪我したらどうする!」


 俺はルビーの頬をつねって叱りつける。


『う、うるひゃいでありんす! あんまり遅いと心配になるのは当然でありんす! ここでケンシローと一生離れ離れになるかと思うと胸が張り裂けそうだったでありんす!』


「それくらい信じて待ってろよ! だいたい、俺が大丈夫なようにお前が竜の加護を与えたんだろ!?」


『うるさい! ケンシローの遅漏!』


「嘘を大声で言うなあ――――っ!」


 人間の俺・ケンシローと竜の少女・ルビーがとっくみあってコミカルに喧嘩する。


 俺のそっちはきっと標準的な方だ。比較相手はいない。


「はい、二人ともストップ。喧嘩はお終い。そろそろ……」



 ゴォォォォォォォォォォォォォオオオオオ!



 噴魔の音がすぐ近くで聞こえる。終わりが近い。


「よし、フィール。早いとこ……」


「悪いけれど、僕には先輩の居場所は分からない。先輩はアレスの里含むアレス樹海の処々で噴魔の発生を促しているはずだからね」


「……噴魔の発生を促す? わざとアレスの里に噴魔を引き起こしてるっていうのか?」


 フィールは間違いだと肩をすくめる。


「もちろんこの土地の噴魔は起こるべくして起こった。でもね、先輩のしていることは噴魔の被害の拡大さ」


「……なんのために」


「それはね」


 フィールは真剣な顔でちらとルビーを一瞥する。そしてもう一度俺を見て続けた。


「この地を支配する、悪しき巨大樹の竜に退散してもらうためさ」


「――――」


 竜。生命の優位種のひとつ。


 それをただの冗漫な言葉や猿演技と言ってほしかった。


 ――――無理を通すための戦いが、もう少し続きそうだった。


第二章19話です。この第二章の核となる新たな竜がもうすぐ出ます。

今日は夜にも更新できたらいいなと思っております。

よろしくおねがいします。感想等々、待ってます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ