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剣と画材と鋼竜  作者: 鹿井緋色
第2章 病魔騒動篇
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第二章17 星座召喚

「んん~~~~?」

『んん~~~~?』


 どこからか男と女の唸る声が聞こえる。


 どこからっていうか、俺とルビーからだけど。


 その声の理由はアズさんからの手土産。謎の魔法陣カードだ。ちゃんと数えれば全部で十三枚。全て違う十三種類の魔法陣が描かれていて、ただの円にくぼんだ線を入れただけのものにしか見えないものから複雑な紋様に見えるものまである。ただの円に見えるものはネタ切れだったのか?


 そして一番の問題は――


「これをどうやって使えばいいんだ?」


『これだけあったら簡易的な占いでもできそうでありんすな』


 俺とルビーは大部屋でアズさんのカードを色々な角度から眺めて使用方法を考え、唸っていたのだ。


「アルカナカードのこと言ってんのか? あれはもうちょっと枚数が必要だったはず。大アルカナと小アルカナがいっぱい」


 たしか、星とか、愚者とか、正義とかの絵が描いてあるやつだった気がする。


『占いにはいろいろあるのでありんす。これだからおのこは』


 別の占いのことを言っていたのか。男子代表として謝っておこう。


「悪かったな。運命は自分で見つけたい性質なんでな。ついでに聞いておくが、世にはどんな占いがあるんだ? 人間大好き『鋼竜』さん」


『今は昔、でありんすよ。杖の従者殿』


 ルビーが頬を膨らませて俺の皮肉に抗議する。杖の従者? 意味が分からん。――さて、可愛い女の子に意地悪するのはそろそろやめにするか。


『占いといえば、まず太占でありんす』


「意外なところがまずで出てくるんだな……」


『次に亀卜、盟神探湯くかたち、それから……』


「もう少し現代的な占いを出せ。まさか今どき盟神探湯なんてやってねえだろうな?」


 熱湯に腕を突っ込んで火傷しなかったら無罪とかいう占いなのか拷問なのかよく分からないあれを!


『くふふ。まあ十三の数で占うとすれば、十三星座占いでありんす』


「ああ、その占いは聞いたことがある。よく朝っぱらから街中でやってる怪しげな占星術師がいるな」


 俺は全く信用していないが。というか、占ってもらう金がない。


『その通りでありんす。ケンシローは獅子座でありんすな』


「……正解だけどなんで知ってんの? 星座どころか誕生日も教えてなかったよな?」


『尻尾を触らせる代わりにアズライトに聞いたでありんす。相変わらず面白い目をしているなんし。あの乳女が乙女座で、ララが射手座。余が水瓶座でありんすよ。ローゼの星座も後で本人に聞いておくかえ』


「アズさんの目、すげえな!? 個人情報駄々漏れじゃねえか!」


 恐るべし、アズさん。この様子だと俺の誕生日もしっかり見透かしているのだろう。八月が楽しみだ。


「……で、十三星座だとなんか分かるのか?」


『くふふ、うむうむ。ようやっと思い出したでありんす。このただの円の上に曲線が描かれているのが牡牛座のシンボルでありんす』


「正真正銘、十三星座占いのやつだったのか。アズさんはなんのために……」


『それは分からんなんし。余にはこれが占いのためのカード以上のモノには思えぬでありんす。これ以上はケンシローの力になれそうにない』


 無念そうにルビーは首を振る。これ以上は人間の領分。竜には荷が重いかもしれない。


「おやおや、半端者の男と退化形態の竜がイチャイチャしていると思ったら、召喚札なぞ持っているなんて。ずいぶんと金の周りが良いのじゃな」


 後ろから気配を消してシロフォン先輩が現れた。


『うぎゃ!? びっくりした』


「かっはっは! なにをビビっておるのじゃ、悪竜め」


『び、ビビッてにゃどにゃいにゃんす!』


「先輩! ……どうしたんですか? 仕事は?」


 このままルビーと先輩を放置して戦争を勃発させるわけにはいかないので、俺が先輩の話し相手になることにする。


「仕事は小休止じゃ。胸がでかいと肩が凝るんじゃよ。そうじゃろう? 鋼竜」


 肩を回しながら嗜虐的に笑う先輩からルビーへのあきらかな挑発行為。俺が話し相手を代わった甲斐なし。


『このぉ……! 話を続けるなんしぃ……!』


 お、踏みとどまった。偉いぞ、ルビー。


「で、召喚札ってなんですか。疲れるから早く教えてください」


「この数時間で言うようになったな、ケンめ。……まあ、よい。教えてやる。貸せ」


「……」


 俺は十三枚の召喚札と呼ばれるもの――魔道具の一種だろう。それを黙って手渡す。


「ケンは獅子座じゃったな。あの絵心のない娘は何座じゃ?」


『それはララのことを指して悪罵しておるのであれば、射手座でありんす』


「かっはっは! それじゃあ……射手座の召喚札を用意するかの」


 先輩は射手座のシンボルが描かれた札を額に添えて呟く。


「ララ・ヒルダ・メディエーター」


 次の瞬間、甲高い音が鳴り響き、そして白い光の球が目の前に現れる。


 そういえば、先輩はこれを召喚札って言っていた。ということは……。


「――――あれ?」


 光の先からララの声。現れたのはもちろんララ。


 シロフォン先輩はララ・ヒルダ・メディエーターを召喚した。


「かっはっは! これは遠征する宮廷騎士に稀に与えられる魔道具の一種。『召喚札』じゃ。召喚したい相手と同じ星座の札を額に当てて、顔を想像し現在のフルネームを呼ぶと召喚できるのじゃ。一枚につき一回しか使えぬからもう射手座の人間は召喚できぬぞ」


 見ると、ララがパレットと絵筆を持って呆然としている。なんならルビーも呆然としている。


「こんなもの、どうやって手に入れたんじゃ?」


「……いやホント、どうやったんですかねぇ……」


 俺はララに召喚した経緯を説明し、そしてなぜか殴られた。



「――しかたないわね。許してあげるわよ」


 よかったよかった。許してもらえた。俺は殴られたけどな。


「要するに、これでアズさんを呼び出せばいいんだ! アズさんの目なら魔剣の弱点なんて暴き放題だしな!」


「アズさんってば本当に凄い人ね。こうなることを踏んでたのかしら」


「それはどうだろう。分かっていたのだとしたら、もう少し言葉にして伝えてほしいところなんだが……まあ、アズさんらしいっちゃらしいか」


『ケンシロー、さっさとあの乳女を呼び出して仕事を終わらせるなんし』


「おうよ! アズさんの星座は乙女座だったな? くっそ、さすがアズさんだ。星座までかわいいなんて。こりゃもうぐうの音も出ね……いってぇ!」


 ララ、ルビー、先輩に頬と鼻と耳をつねられた。


「ぐだぐだ言ってないではやく召喚してよ」


 ひどい。人を褒めて怒られるなんて!


 俺は心外に思いながらも額に乙女座のカードを押し当て、念じる。アズさんの顔を思い浮かべ、思い浮かべ、思い浮かべ、思い浮かべ、そして、


「ザラカイア・アズライト・シーカー!」


 するとララの時と同じように甲高い音と白い球形の光が現れ、召喚の術式が展開される。


 そして現れた。


 ――全身びしょ濡れの全裸のアズさんが。



    ***



 ララに殴られた。二度も殴られた。生まれてこの方親父にも殴られたことないのに。(俺が幼いころ、実家はおろか故郷に親父がいた記憶はない)


「すまないな、悪医。衣服を貸して貰って」


「かっはっは! かまわないさ。金言術師殿とお会いできてこちらも光栄じゃ!」


 アズさんに「悪医」と名付けられるとは、――――嫌われているのか?


 どうやらシャワーを浴びていた最中のアズさんを俺は召喚してしまったらしく、俺はアズさんの全裸を事故で目撃してしまった。それでも俺はなんとか即座に目を逸らし、大事には至らなかったのだ。


 危ないところだった。もう少し長くアズさんの全裸を凝視していたらララに両目を刳り抜かれていたところだった……!


 罰として召喚札はアズさんに返すことになってしまった。だが後悔はない。どのみち俺はもうアズさんの全裸を頂戴することはできないのだから!


「それで、剣災。なにか困ったことでもあったか?」


「それがもう大困りです。いろいろあったんですけど、魔剣が全然壊せなくて。このままではアレスの里を捨てなきゃならない状態です」


 俺は今までの経緯をアズさんに全て話した。俺がフィールと先輩に「まだ勝っていない」ことも含めてだ。


「そうか。大変そうだな。なら魔剣を見せてくれ。剣災の膂力で壊せないならアタシには無理だが、視方によっては状況が変わるかもしれない」


「ありがとうございます!」


「しかし店長は激怒だろうな。アタシが急にいなくなって」


「本当に申し訳ないです! 色々と!」


 やべえ。俺ってもしかして減給食らうか……?


 あと、男に裸を見られて恥ずかしがらないのはなにかが違う気がするよ、アズさん。


「さて、行くとするか」





【ひゃはははは! 今度は金髪のお嬢ちゃんかよ! おいおい、オレサマってば興奮しておしっこ漏れそうだぜ!】


 どうやってだよ。できたとしても方法とかは聞きたくないが。


「……ふむ」


「分かりますか? アズさん。この病原菌をぶち壊す方法が」


【おい! てめぇ、ケンシロー! オレサマは魔剣様だぜバカヤロー!】


 うわ、名前を憶えられてしまった。今度から名前を呼ばれたら、相手がこいつの可能性があるのかよ。


「ナギ! うるさいですよ! 異世界画材店未来堂の最高の知識人が考えていらっしゃるんですから!」


 今、暗にローゼが俺とララ、そしてルビーの頭脳を貶した。抗議はできない。


 ちなみにローゼとはここに来る途中で再会した。先ほど先輩に召喚されたララがいきなり目の前から消えて大変驚いたそうだ。


「剣災。ひとつ頼みがある」


 アズさんの碧い瞳が魔剣・ナギから俺に移る。


「なんですか? 腕力なら貸しますよ?」


「アタシを神樹まで連れて行ってくれ。そこで最終的に判断する」


「……分かりました」


 あの桜紛いの神樹がなにかを握っているということだろうか。



    ***



 アズさんが神樹を検分しはじめてもう数時間が経った。もう退勤の支度を始めてもいい時間だ。あまり神樹に立ち入ってはいけない風習でもあるのか、悪目立ちして続々と里の民が野次馬に来ていた。


「アズさん。そろそろ最終的な総評をお願いします」


 アズさんは木の根もとにずっと手を当てたまま動かなかったがじきに決心したのか立ち上がる。「やれやれ、悪竜め」となにかを仄めかす呟きをしながら。


「アズさん」


「分かっている。剣災。アタシのこの目を信じてくれるか?」


「もちろんですよ。俺の十三星座まで見抜いていたじゃないですか」


「ふ、ありがとうな」


 アズさんは感情の分かりづらいかすかな苦笑をたたえて俺を見る。そして次は真剣なまなざしに転じ、口を開く。


「召喚されて早々悪いが――――アレスの里は捨てるべきだ。この里はもうじき滅ぶ」


 神樹の周りに、いやな精気が湧いた気がした。



第二章17話です。アズさん登場で鎖されていたアレスの時間が動き始めます。

よろしくお願いいたします。

感想・ご意見・アドバイス等々お待ちしております。

頂いたコメントへの返事は遅くなるかもしれませんが、しっかり受け止め返事をしようと思っております。

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