第二章10 悪罵と蜜語
宮廷騎士団屋外調査室は将来を嘱望された新米宮廷騎士が最初に配属される花形の部署だという。
しかしそこで成果を上げて昇進できなければ、期待は失望に変わり将来は鎖される。
そんな過酷な競争環境で他の隊員を押しのけて昇進し、あまつさえ一、二年も経たずに室長・副長の席次を得るということは、将来、宮廷騎士団の騎士団長として陛下とこの帝国をお守りする最上の仕事を任されることになる可能性が高いということと同義と捉えても間違いではない。
「ケンシローは騎士の仕事にまだ憧れはあるの?」
俺、ララ、ルビー、ローゼ、フィール、シロフォン先輩の六人で円を作り食事をとる。
献立は熊肉と果物のごった煮。フィールの捕った食材とローゼの採った食材である。
果物のフレッシュな香りと甘味・酸味が上手く熊肉の獣臭さを抜いてなんやかんやしたはずなのだが、料理のプロではない俺たちになんとかすることはできなかった。
肉を食べている感じがないわけではないのでまだ許せるか。
そしてそんな食事中に隣のララが突然聞いてきたのがそれだ。
「かっはっは! 面白い! わらわにも聞かせてみよ! 愚物が未練がましく神に希うのかどうか知りたかったんじゃ!」
ララの反対側のお隣さんがシロフォン先輩。その先輩が俺を嘲笑う。
俺はなにか返事をしようとして、
「なによ。誇り高きハーフエルフのきゅーてー騎士様ってば。肩書きと見比べると性格がきれいに役不足ですね」
シロフォン先輩が絶賛売出し中の喧嘩上等文句をララが買い取り、皮肉で応戦する。
「かっはっは! 画家志望のヒルダ! 面白い舌鋒じゃな! どうしても画家に成りたいのであれば、相手を煽る言葉を覚えるよりも先に芸術的感性を磨くんじゃな。所詮は金勘定で邪魔者を黙らせ排除してきた卑しい家系じゃ。芸術的感性よりも悪知恵の方が得意じゃなあ!」
「わ、私の家は卑しくなんて……」
「ヒルダ。どうせ貴公も落書きで荒稼ぎしたいと考えるうつけじゃろう? 女親の乳でも吸って生まれ直してきたらいい。……ああ、すまぬな。貴公の女親はもうすぐ死ぬんじゃったな」
空になった椀を持ったままシロフォン先輩はせせら笑う。
「なん……で……そんなことを……」
ララは心が打ち砕かれたような力ない抵抗をして、言い返せずに、もしくは言い返す気力が出ないのか俯く。
「シロフォン先輩。高潔なハーフエルフ様にしては口が過ぎるんじゃないですか? これ以上俺の――同僚を侮辱するなら斬りますよ」
「かっはっは! その同僚の女に化けてもらえなければ剣も触れない男が斬ると脅すか! 面白い。斬ってみるがよい。はたしてケンにわらわが斬れるか?」
「副長、お止めください。僕はあまり権力にものを言わせて命令したくはありません」
シロフォン先輩の言動に後輩であり、上司であるフィールも動いた。
『ララに謝るでありんす。半魔の餓鬼め』
「お、お止めください。皆さん、お夕食は楽しく……。フォルテさんもどうしてそんな酷いことを……」
シロフォン先輩は自分以外の五人から非難され、それでもなお、余裕綽々でばつの悪そうな顔をにじませすらしない。
「かっはっはっはっは! 総攻撃じゃな。――そうじゃ! わらわの手で貴公の女親を治してやろう」
「――は? な、なに言ってるのよ。ママの病気は現代の魔法じゃ治せないって……」
「かっはっは! 知っておる知っておる。貴公の女親の病気は癌と言ってな、悪性の腫瘍が体内にできる病魔じゃ。あのできものは現代の魔法では取り除けぬ」
『じゃあ汝の魔法で治せるわけが!』
「部位を捌いて内側から切り取るんじゃ。外科手術と言ってわらわが先駆ける医学療法じゃよ。魔法に頼れば技術は進まん。ずっとこの世は病んだままじゃ」
「……っ!」
俯いていたララが顔を上げ、縋るように俺の顔を見た。
俺はそんなララが泣き崩れてしまわぬように言葉を探して紡ぐ。
「……当たってるよ。シロフォン先輩は回復・再生魔法の優秀な使い手だ。……その気になれば戦場で下半身を吹き飛ばされた兵士のそれを再生することもできるはず。……なんだかんだつけられたあだ名が――――『再生医』だ」
「なんじゃなんじゃ、ケン。わらわの肩を持つような発言をしおって、そのおなごの援護はやめたようじゃな!」
「――うるせえよ、シロフォン!」
俺は反射的に立ち上がり、持っていた木箸を逆手で握り直していた。これ以上我慢しろと俺を窘めようとするやつは人間じゃない。
俺を小馬鹿にして楽しむのならまだしも、ララを、そしてララの病床の母親を引き合いに中傷するのは騎士としてではなく人としてクズ行為過ぎる。
「かっはっは! 威勢はいいが勢いはないのう! そのままその箸でわらわの眼なり心臓なりを貫けばよいのに躊躇うとはの!」
「お望みとあればもっと死にやすいもので突き刺してやりますよ」
「かっはっは! ヒルダ! わらわに誓え! 画家などを目指すのは辞めて分相応の卑しい仕事をするとな! そうしたら貴公の女親を治してやろう!」
「ララ! 剣に変身しろ!」
「……」
ララは無反応だった。心が打ち砕かれたような悲愴感のある顔をしてまた俯く。泣かなかったのか、泣けなかったのかは分からない。
「ララ」
「私は……私は……」
「ララ!」
『やめなんし。ケンシロー』
俺が叫んだのに対して諫めようとしに来たのはルビーだった。
『ララは傷ついて戦える精神ではない。そこを強要して戦わせる方が非道というものでありんす。――その代わりに、余が共に戦う』
「ルビー、お前……」
『ララ並みのサポートは出来ぬでありんすが、必ず汝を勝たせる』
ルビーは髪の毛を一本引き抜き俺の右手首に結ぶ。
『この髪にあるだけの魔力を込めたでありんす。竜の加護が、必ず』
――つまり、俺自身に溜めてある魔力が無くても氷の魔法が使えるってわけか。
「かっはっは! わらわと戦うつもりじゃな! よいぞよいぞ。ただし貴公には悪いが手加減はせぬからなァ! 負けたらしずしずと家に帰るがよい!」
「あーはいはいはいはい――――ぶっ飛ばしてやる!」
俺が剣のイメージを作ると、ルビーの加護が込められた銀糸のような髪の毛から氷の剣が生成されていく。
対して先輩は一足で後退し、後退した先に置いてあった剣を手に取る。
浴衣一枚の先輩は着衣が崩れるのもお構いなしに跳びはねて俺から距離をとり、お得意の術式を展開する。
「お二人ともお止めに……ん!?」
俺と先輩の喧嘩にローゼが割って入って制止しようとしたが、素早く動いたフィールによって回収・保護された。悄然としていたララも同様に。
これは以前、「目当ての刀」を手に入れるために宮廷を急襲した時の能力を持つ氷剣ではない。竜の力の大半を失った成れの果てのルビーが生成した形だけの剣だ。
脆く、繊細さに欠ける氷の刀身。俺のイメージする氷剣とズレのある出来上がり。一刀に全てを賭けるというより、濫作して数で押し勝つしかない。
しかし、
「殺さないならこれで十分だァアアアア!」
「殺意無くしてわらわに勝てるか!?」
抜剣した先輩は瞳孔を開いて嗤い、俺の一撃を受ける。押し返し、逆に俺に斬りかかり、また刃と刃を競り合わせる。何度も何度も剣戟を続け、
そして氷剣は圧力に耐えきれずに砕け散る。
「かっはっはっは! ケン! そんなものか!?」
先輩は大きく振りかぶり、俺を撫で切る予備動作をする。そこでとっさに判断する。
氷剣を新たに生成し直す時間はなくとも、先輩自身の体に右手で――竜の加護で触れることはできる。
俺は先輩と距離を詰め、直進の勢いそのままに右手を先輩の顔に伸ばす。近すぎれば大振りの攻撃は出来まい。
「――ん!?」
俺が距離を詰めるとは思っていなかったのか、先輩は動揺し、動きが一瞬鈍る。いや、俺が鈍らせた。
「凍れ!」
「離れろ!」
先輩は即座に握っていた剣を投げ、自由になった手のひらで俺に風魔法を放った。
強力な突風が襲いかかり、俺は温泉地帯から巨木の群生地まで押し飛ばされる。
「――っ!」
俺は巨木の幹に叩きつけられる前に体勢を取り直し、氷の盾を作りながら太い枝に着地する。シロフォン先輩相手に距離をとってしまったが、盾があれば何とかなろう。
そして先輩からの追撃に備える。――が、追いつかなかった。風魔法に乗って高速で移動する先輩は考える暇を俺に与えず、数拍遅れただけで俺に間合いを詰めて肋骨に飛び蹴りを食らわせてきた。
「かっ……」
「かっはっはっはっは! どうした! 竜の加護を使ってみい!」
俺が痛みに体をよじる時間を与えず、どこが痛いのか確認する時間も与えず、まともに考える時間すら与えず、ひたすらに手足で打撃を繰り返す。
「さあて、喧嘩に人死には興醒めじゃからのう! そろそろわらわに『まいった』と言ってよいぞ、ケン!」
下からの強い殴り上げで俺は上空に浮き上がる。
先輩は枝木に立ったまま放物線を描く俺が負けを認めるのを待つ。
――そこしかない。
俺は剣とも槍ともつかない細長い氷の刺を生成し、ありったけの敵意をこめて射出した。
――俺の大切を傷つける悪罵という病魔へ向かって。
***
――あの時の夕暮れは白も青も赤く染めていた。
「なんじゃ? 小坊主。なぜそんなところに倒れておるのじゃ?」
「……うるせえ」
「涙眼……泣いておるのか?」
「うるせえ」
「喧嘩か? 病気か?」
「うるせえ!」
――赤い光に照らされた青い髪の少女は嘆息し、倒れている俺を足だけで仰向けにした。
「会話にならぬな。なにを傷つけられた?」
「……誇りだよ」
――少女はそれを聞き、満足したのかニカっと笑って手を差し伸べる。
「ならよい。存分に戦え。積み上げろ。努力はいつだって美しい」
――あの時の少女も青い髪を結いあげて、自身の青髪を引き立てるだけの落ち着いた色合いの浴衣を着ていた。
あの時の言葉は蜜語に似ていた。
度々、フォルテ・シロフォン・クラシック――あの先輩は社会的弱者と呼ばれる人たちからも、精神的・物理的に生活が満たされた人からも誤解される。
――ハーフエルフは才気の塊。地道な努力なんてしなくとも大抵のことは易々と習得する。それはきっと、フォルテ・シロフォン・クラシックでも同じことだと。
だから先輩は努力する。「無才能者」として浮遊大陸から捨てられた先輩の唯一残された選択肢だからだ。
宮廷騎士団屋外調査室副長「天才のフォルテ・シロフォン・クラシック」は、「努力家のフォルテ・シロフォン・クラシック」だ。
努力して再生魔法の第一人者になった。
努力して風魔法を一人前以上に使いこなした。
努力して体術を学び、格闘術を格闘家以上に使いこなせるようになった。
先輩は才能に恵まれず、夢を否定され、拒絶され、努力を愛する人になった。
だから先輩は俺にすらきっと誤解されている。きっと俺は先輩のことを誤解している。もしかしたら先輩は誤解されようとしているのかもしれない。
どうして先輩は自分と同じように才能に、身分に、金銭に、その他諸々に恵まれない境遇の人へ、無慈悲に冷徹に、そして苛烈な悪罵を吐きかけるのだろうか。
それを病魔と片付けていいものか。
***
俺が吐いた息はあの竜のように白く、あの瞳のように赤が混じっている。
「あの気高き鋼竜の加護を受けておきながら、この程度かいな? ――――ケンシロー・ハチオージ」
先輩は俺の胸ぐらを左腕でつかみ上げ、風魔法の応用で空中を浮かぶ。俺も先輩も宙を浮いているのだ。
「先輩がいくら悪態吐こうが、取っ組み合いの喧嘩をしようが、俺だけは先輩を嫌いになりませんよ」
殴られて腫れ上がった俺の顔が滑稽なのか、先輩は幼気な笑みを浮かべた。
「……阿呆じゃな。ちと殴りすぎたか」
「口と表情が一致してないですよ」
「かはっ! 貴公、最初からわらわに傷をつける気がなかったな?」
先輩は自由の利く右手で母親が子供をあやすようなに俺の髪を撫でつける。
「いや、本気で戦いましたよ。でもお世話になった人に殺意なんて向けられませんよ」
「……かっはっはっはっは。やはり殴り過ぎたな。治してや――」
「でもララには謝ってください。言いすぎです。そこだけは譲りません」
「……」
白けて感情の抜け落ちたような先輩の目。白い吐息を漏らし、彼女は身震いする。
「寒々しい。そんなに謝らせたいんじゃったら、わらわの臓腑を潰し、五体を切り落とし、耳と鼻を削ぎ落としてでも謝罪を求めるんじゃな」
「その状態じゃあ、さすがの先輩も謝罪は無理じゃないですか?」
「その時はわらわの勝ち逃げじゃ。さて、戻るぞ。皆がわらわの死を待ち望んでおる」
「はは……」
それを知りながらけろりとした顔で場に戻れる肝の据わり様ったらねえな。
「それにしても、あの細っちょろい氷の刺で周囲一帯をことごとく凍てつかせたのは見事じゃったな」
先輩は凍りついたその場一帯をもう一度見渡す。樹海の一部――林と呼べそうな範囲が氷の世界に様変わりしていた。
「そいつは、どうも。本気の本気……だったので」
俺のありったけの敵意が多少なりとも先輩に通じたのだと、そう思うことにして俺は気を失った。
***
深い緑と地鳴りが聞こえる。
はしばみ色の声が、涙を流している。
右手が熱い。血が蒸発しそうなほどに。
目を開けてみると深緑色の天井が最初に俺の瞳に映る。
「まともな天井を見たのは久しぶりだな……」
率直な感想が口をついて出て、布団で自分が眠っていたのだと気づく。
「ケンシロー?」
横からララの声が聞こえ、俺の視界に不安そうな彼女の顔が入り込む。
「っ……」
不安そうなだけではなかった。彼女の顔は目元が赤く腫れていた。
「すまん……勝てなかった」
「……そうね」
「シロフォン先輩はなんて?」
「あんたに全部聞け。だそうよ」
いやらしいな、あの人。俺に全部押しつけやがったのか。
「俺からも聞きたいことあるんだけど」
「じゃあ、順番に質問を飛ばし合いましょう。先、いいわよ」
一発目を振られてしまい、俺はどれから聞こうかと考え、右手を握り直す。
「なんで俺の右手、握ってんの?」
「……そこ、聞くんだ。察しなさいよ」
「今の発言で俺からではなくお前から握ったということを察することができた」
「あーうざい。そうよ。全然目を覚まさないから心配で握ったのよ」
「なるほどな。ほら、質問してこいよ。ほら」
「ちょっと、急かさないでよ。病み上がりのくせに」
「まだ病んでんだよ」
握ったのはララからだったと認めた。それはいいのだが、それならば逆に、「現在進行形で握って離さない」のは一体どっちなのかという疑問が浮かぶ。いや、それは疑問ですらなく、当事者である俺とララには主語が誰かというレベルで自明の動詞なのだ。
その話題になったら、今の俺たちの距離感ではせっかくつないだ手が離れてしまうので、話題を明後日の方向に向けてくれるようにララに願う。察しろ、ララ。察しろぉ!
「負けたってことは、一方的に向こうに貸しが……」
「違う。勝てなかったんだ」
俺は左手だけで身を起こし、ララと視線の高さを近づける。
「今回は勝てなかっただけで、負けたわけじゃない。なぜなら俺は『まいった』と言っていないから。次回勝てばあの先輩は謝る。お前の目の前で必ず謝らせる。ララを泣かせたこと、絶対に――」
「ばか」
「だっ」
ララの頭突きが炸裂。慣れていないようで恐る恐るの優しい頭突きだった。
「私が泣いたのは私と家族をボロカスに言われたからじゃないわよ。階段があったら突き落としてたかもしれないけど、泣きはしないわ」
「じゃあ、なんで泣いたんだ?」
「……泣いてないし」
「おい」
明らかな嘘をつきやがった。
「負けたことに対するフォローはそれでいいとして、じゃあ、次は私が質問する番ね」
「ええ!? 今の俺の質問扱いかよ!? ずっる!」
「じゃあ、質問です。フォルテとあんたの本当の関係を教えなさい」
「シロフォン先輩? それを聞いてどうする気だ?」
「今後の参考にする」
なんの参考だよ。俺の発言とか参考文献に乗っけちゃいけないくらい信憑性と責任能力に難ありの妄言だぞ。参考にした結果、全世界ケンシロー学界から総スカンを食らっても知らないからな。どこにあるんだそんな異世界。
「……ただの学生時代の先輩と後輩だ。それ以上でもそれ以下でもない。……ただちょっと、憧れていた」
「好き、だったの?」
「惚れただなんだの感情じゃない。尊敬的な、あれだ」
先輩が誰よりも陰で努力している姿を学生時代の俺はずっと見ていた。強く、賢く、気高く在り続けるために、先輩は血の滲むような努力をしていた。
「あの人は努力の人なんだ」
「そうなのね。どっちかというと、なんでも小器用にこなせちゃう人に見えるけど」
「俺にも本心がよく分からねえんだ。あの人を正しく見えているのか分からねえんだ。あの人、努力家なのに努力する人を貶すから」
魔法も遣えず騎士を目指す俺を嘲笑うのは、見下しているのか、他に理由が在るのか。
あの先輩を理解するには、先輩と俺の距離が遠すぎる。
「あんたも努力してたのにね」
繋いだ手にもう片方の手を重ね、ララは悔しそうにぽつりと呟いた。
「私が剣になっていたら、もしかしたらもっとフォルテを理解できたかもしれないのに」
ララがあの時、俺の叫びに応じて剣に変身していたら、俺は先輩に勝って非礼を詫びさせることができていたのだろうか。それとも――
「そうでもないな」
「そう?」
「根拠はないけど、もう少しだけ距離が近くなければ、どんなに勝っても俺はあの先輩を何も理解できないんじゃねえかな」
彼女は伏し目がちに唇をきゅっと引き結び、そして俺の手を離して立ち上がり、部屋の窓を開けた。右手が寂しくなる。
窓の外から淡い緑の輝きが差し込んでくる。
朝なのか昼なのか、よく分からないが夜の月光ではない。
「もしかして、ここは……」
「そうよ。休憩は終わって仕事の時間」
ララの弱い蜜語のようだった言葉に力が戻り、そして憑き物が落ちたように、涙眼を止めた清々しい顔で俺に振り返る。
「あんたが寝ている間に着いたわ。――アレスの里に」
濃厚な草木の精気が俺の体に染みていく。
第二章10話です。シロフォン先輩、ただの悪い人ではないことを約束します。よろしくお願いします。
まだまだ続きます。感想・ご意見等々お待ちしております。