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剣と画材と鋼竜  作者: 鹿井緋色
第1章 鋼竜討伐篇
18/146

断片 独り言

    @@@@


 このミディアムヘアの金髪を美しいとは思わないけれど、この目で視るものは美しいと思う。


 たとえば花。

 咲き誇り、未来の為に種子を残す。


 たとえば獣。

 吠え猛り、世界の為に体を揺らす。


 たとえば人。

 考え抜き、誰か皆の為に力を使う。


 たとえば画。

 美しくて、いつも世界を魅了する。


 たとえば材。

 ただそこ、あるがままに役に立つ。


 アタシの目には全てが美しく、アタシだけが美しくない。


 この碧い瞳には感謝さえするが、価値と言うものを未だ見出せない。


 人はみな、アタシの金の髪を見て、碧い瞳を見て、膨らんだ胸を見る。


 もう慣れたはずなのに、どうしてかその「視線」には慣れない。


 金言術師『ザラカイア・アズライト・シーカー』


 その名を与えられ、アタシはアタシを作った。


 その次にアタシは画材を作る。


 もっと人の役に立ちたいから。


 もっと世界の役に立ちたいから。


 まだこの世界に存在しない、美しいものを造り上げたい。


 役に立ち、美しく、そして、未来に残るものを造り上げたい。


 そういうものを遺したい。


 アタシのわがままはそれだけ。


 それ以上のわがままは、きっと誰かを傷つけてしまうから。


 アタシのわがままはそれだけ。


 アタシの世界は異世界画材店未来堂とその周辺の少しの世界。


 アタシをそこから連れ出してくれるのはきっとあの――剣を持った厄災の少年くらい。


 好きなものを聞かれたら、もしかしたらあの少年と答えたりして、はぐらかしたりして。


 どうだろう。よく分からない。あの厄災の少年は案外よく視えないのだ。


 なんでも解かるこの瞳も案外、歳のせいか、元々の出来のせいなのか、分からない事が多い。


 しかしいつかこの瞳の力を失った時、そこから眺めた景色というのは、もしかしたらもの凄く、自分すら美しいと思えるくらい、視力が落ちてくれるかもしれない。


 よく視えないからこそ、美しく視えるものもある。



 ――こちらから深淵を見つめる時、深淵もまたこちらを見つめている。



 そんな言葉にふと思うことがある。


 つまらない、只人の言葉遊びの類だが、


 もしかしたら、アタシが覗く厄災の深淵が覗くのは、アタシではなく――――


 厄災の剣士、ケンシロー・ハチオージ、


 アタシは君を待っているよ。


「必ず帰ってこないと、さすがのアタシも怒るからな。剣災」


 この世界の断片で、アタシは独り、そんなことを言う。


    @@@@


短いですが、あの人のモノローグです。

本編の続きはしっかり今日の夜頃にと思っております。

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