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剣と画材と鋼竜  作者: 鹿井緋色
第4章 奪還血痕篇
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短編 画材の世界の姫と騎士

 烈夏の日差しが衰えてきたころ、


「色々と材料が足りなくなってきた」


 職工会議で、アズさんはそんなことを言った。


 職工会議とは、職工だけで行う会議のこと。

 主催者はアズさん。

 召集されたのは、俺、ローゼ、リシェス、レオナルドの四人。


 ちなみに俺の影の中にレンナもいるはずだ。

 つまり、職工会議の会場である工房には六人いることになる。


「材料といいますと?」


「金属、木材、樹脂、油、獣毛、骨、諸々だ」


「なるほど。ルビーにローゼ、あとはレオナルドですね」


「おい、なんでオレっちまで材料にされそうになってんだ?」


 俺が早合点(?)しかけてレオナルドが抗議してくる。

 金属類――主に鋼はルビーの鱗から採取でき、木材と樹脂はローゼが作ってくれる。油は難しいかもしれないが、


「なんだよ、レオナルド。亜種化すれば毛と骨くらいゲットできるだろ?」


「ゲットってか、体の部位を生け贄に捧げてるよな? 部位欠損してるよな?」


「普段怠けてるんだから、良いだろ別に」


「よくねえよ! なんでオレっちが仕事に殺されなきゃなんねえんだ!?」


 オレっちが――というか、ひとりたりとて仕事に殺されてはいけないですよね……。


「とにかくだ。お前たち。今日は諸々の材料の調達のために街まで出てくれ。役割分担をする」


 アズさんはメモをとり出して、必要な材料を読み上げ、分担を発表する。


「賢樹は木材・樹脂の生成のために工房で作業だ」


「はい! 分かりました!」


「剛砂と間熊は馬や牛、豚の皮、骨、羊毛を調達しに屠畜場まで行ってきてくれ。店長の依頼状を渡せば話はすぐに通る」


「はぁ~い」


「ええー?」


「……行ってこい」


 レオナルドの渋りは却下された。


「剣災とアタシで他の材料諸々を入手しに町市場まで行く。剣災には荷物持ちを頼むと思うが、……やってくれるか?」


「あいにく、今日買うモノの相場なんて知らないんで、荷物持ちくらいしかできないですよ。もちろんやります」


「ありがとう、剣災。愛しているぞ」


「愛情が直接的すぎやしないですか!?」


 今日、この人と一緒に行動して大丈夫なのか……?

 いや、絶世の美人を侍らせるのは鼻が高いけれども。けれども……っ!



    ***



 吸血鬼の血液はなかなか有能らしく、加工のしかたを変えれば不可視インクだけではなく、普通のインクも、はては熱を加えると消えるインクなんてものも作れるらしい。

 ――というか、前例がないのにアズさんが試しに作って完成させた。


「――だからインクが尽きる不安はもうないんだ」


 活気あふれる大通りを歩いている時、アズさんはそう伝えてくれた。


「血からインクを作るっていうのは、凄いですけどなんていうか少しおどろおどろしいですね」


 以前、店長が冗談で、血文字が云々ということを話したことがあったが、実現してしまった。……レンナが貧血になりそうだ。貧血にならないのが吸血鬼だけれども。

 ちなみにレンナの血を手に入れる方法は、アズさんが作った「管のある極細の針」を刺して血を吸い出すというやり方をとっている。


 レンナが吸血衝動を催した時の為に、俺の血も同じように採血して備蓄している。

 吸血鬼の眷属性を高めるのは吸血鬼の唾液や牙が関係するらしいので、俺と彼女の親和性が高まる恐れはない。

 とにかく、吸血鬼の血は未来堂の仕事に大きく貢献しているのだ。


「それで俺たちに必要なのは、……あと半分ですか」


 それぞれが大量というわけではないが、十五品目も持っていれば、そろそろ持つのがツラくなってきた。最初の予定は二〇品目だったが、市場を眺めている間に追加でアズさんが購入し、増えた。

 しかしアズさんには持たせられない。これは男の俺の、従者たる俺の、筋力が比較的ある方であるところの俺の仕事だ。


「そうだな。ところで、剣災、追加で鹿の角を買ってもいいか?」


 市場の露店に飾られていた調度品用の鹿の角を見たアズさんが職人の顔をする。


「……獣系は屠畜場に行ったリシェスとレオナルドの担当では」


「二人に紹介した屠畜場に鹿はいない。しかもこれは値段が安めだ」


「……今ですか?」


「今だ。買わせてくれないと結婚するぞ」


「どういう脅し!? しないですよ!?」


「まあ、それはいいとして、アタシが持つから買わせてもらう」


 アズさんは店主に金を渡して鹿の角を購入し、両手で抱える。

 調度品で売っていたものだが、絶対なにかの材料にすると確信できる。

 そのまま二人で並んで歩き、アズさんは俺を見上げる。


「剣災は頼もしく、役に立つな」


「アズさんの方が頼もしいし、役に立つじゃないですか。この前の加護も役に立ちましたよ」


「……タリア島か。すまなかったな」


「……?」


 唐突にアズさんに謝られ、俺は無言で疑問符を浮かべる。


「魔境になっているとまでは視極められなかった。視えすぎて困っただろう?」


「ああ、いや……眼が潰れるかと思いました」


 タリア島でのララが特殊なだけかもしれないが、視えすぎて本当に手に余るスキルだった。


「あんな光景をアズさんは常時見ているんですね」


「慣れだ。慣れてしまえばあんなのは苦痛ではない。事実、こんなに人通りの多い所にいてもアタシは平気そうにしているだろう?」


「オン・オフは付けられないんですか?」


「無理だ。この異能だけはどうしようもない。それよりアタシは剣災が頼もしく役に立つという話がしたい」


「……どうぞ」


 それを掘り下げようとしても大して掘り下げられない気がするが、そこはアズさんに任せてみよう。


「剣災が魂を分けてくれたから、アタシは今も生きている。剣災の魂は今も役に立っているぞ」


 アズさんは購入した鹿の角を両手で抱きながら喋る。


「……」


 俺はというと、アズさんの豊満な両胸に挟まれた鹿の角を眺めてムズムズした気分になる情けない男だった。


「覚魔もきっと、剣災のことを頼りに思っているはずだ」


「……そう思いたいですね」


 俺の特別な女の子、ララ・ヒルダ・メディエーター。

 あの子に頼りに思われて嫌な気分にはならないし、むしろ心地良いくらいだ。


「アズさんは、ずっと視えていたんですか?」


 アズさんの眼は、俺とララとの相性を最初から見えていたのだろうか。

 ――相性が良いのか悪いのかよく分からなかった、出会った頃の俺とララを。


「……視えていたさ。剣災の気持ちがアタシに向いていないことも」


「ぁ……」


 アズさんの俺への好意には気づいていた。そもそも明言していたし、気づかないはずがない。

 俺はそれをはぐらかして明言を返さなかった。これは不義だと分かっていながら。


「アズさん」


「どうした、剣災?」


 俺は覚悟を決める。


「俺は特別好きなやつがいるのでアズさんと恋人には成れません」


「……」


 アズさんはぎゅっと、鹿の角を抱く腕を締める。


「そんなこと、アタシには視えていたさ。それをあえて明言しないのは、剣災の優しさだと思っていた」


「でも、そのままだとアズさんは、先に進めません。俺とララに破局する可能性があるかないか、視えているんじゃないですか?」


 俺の言い方は意地悪なんだろうか。しかし、アズさんの相手に相応しいのが俺だけのはずもないのだ。このままだとアズさんは俺に縛られて本当に婚期を逃してしまう。

 アズさんが婚期を逃したら、それこそ責任を取って俺はアズさんと結婚を……あれ?


「……ああ、視えている。視えているものが本物なら、剣災と覚魔の相性は抜群だ。きっと良い関係を続けられるだろう。アタシが入り込む隙間もないくらいにな」


 アズさんは訥々と語る。


「――しかしな、あくまで剣災はアタシを護る騎士様だが、アタシと剣災の相性も良い方なんだぞ? 覚魔には及ばないがな」


「なるほど……」


 覚魔には及ばないが――に全てが詰まっているような気がした。

 アズさんは俺のことを好きでいてくれて、それでも敵わない相手がいることを知っていて、しかし諦めきれない気持ちでいる。


「いつか、剣災の手がアタシまで回らなくなる時が来ると思う。それまでにはアタシの特別な相手を視つけたいと思っている。――そして、剣災」


「なんですか?」


「残りの寿命を分かち合ったアタシたちは、……一緒に死のうな」


「怖いこと言いますね」


 しかし、それは俺が戦死しないで人生を終えられる場合、有り得る話だ。


「でも、それが一番長生きするケースだとしたら、俺はそうなれるように頑張りますよ」


「ありがとうな、剣災」


 アズさんは不器用に笑った。

 死ぬなんていう物々しい話をしているのに、俺とアズさんは笑い合ってそんな話をしていた。

 人はいつ死ぬかなんてわからないけれど、天命を全うした時は、俺とアズさんは一緒に死ぬのだろう。


「貴女をお護りする騎士は、貴女と共に死ぬ覚悟を持っています」


 死が二人を別つまで、姫と騎士は生き続ける。


 それが、いつか枯れるはずの俺の、覚悟の証だった。


短編その②でした。まだ短編が続く予定です。

応援よろしくお願い致します!

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