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剣と画材と鋼竜  作者: 鹿井緋色
第4章 奪還血痕篇
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第四章24 紅玉眼の考察

    □□□□



 余の名は『ルビー・メタル・シルバー』。


 ルクレーシャス鉱山・最強の守護竜。


 鋼鉄と氷結の支配者でありんす。――しかしそれももはや過去の話。


 今はもう、異世界画材店未来堂の可愛いアイドルを目指すだけの身。


 異世界画材店未来堂の拙い厄災の騎士に鋼の意志を与えるだけの身。


 ――ケンシロー・ハチオージに心を預ける身。


 ――ケンシロー・ハチオージにプロデュースされる身。


 余はあのケンシロー・ハチオージを少なからず好いているでありんす。


 あの日、最初にルクレーシャス鉱山まで単騎で攻め込んできたあの男の気概を気に入って、時空凍結術を使わずに戦った。掌の上で転がして遊んだようなもの。


 今思えば、それが慢心だったとも言えるかもしれない。驕って足をすくわれて負けたとも言えるなんし。そう言われても、反駁は出来ぬ。


 昔ならば、余が人間に恋をすることなど考えられなかった。人間とは余の敵で、余にとっての悪そのものでありんした。


 その冷え固まった考えを溶かしたのが、――ケンシローに恋慕を抱いたきっかけが、


 ララ・ヒルダ・メディエーターという剣の魔女。


 いや、「魔女」は人間の女にとっては心ない侮辱の言葉だったでありんす。


 だから、ララというおなごは言うなれば……いや、しかし、ここは褒め言葉としてあえて彼女を魔女と形容するなんし。


 あの魔女にたぶらかされて、唆されて、余は命乞いをした。


 あの優しい魔女が余を見つめてくれたから、あの魔女と一緒に生きたいと思った。


 ララ・ヒルダ・メディエーターのせいで、余はケンシロー・ハチオージを好いた。


 ケンシロー・ハチオージがララ・ヒルダ・メディエーターを遅かれ早かれ愛することなど分かりきっていたのに、それでも余はケンシロー・ハチオージに恋をした。


 その場の勢いで同棲することになったのは余の口から滑り出たワガママでありんすが、それ以降、ケンシロー・ハチオージを貴く思い始めたのは、なにを隠そう――ケンシローが悪い。


 あの男は人たらしでありんす。女たらしでありんす。変態でありんす。


 人の心に無意識に入り込む。怪盗のように心を盗んでいく。


 巻き込まれているように見せかけて、色々な人を巻き込んで惹きつける。


 余だけかもしれないでありんすが、あの厄災トラブルメーカー的な生き方は、在り方は、見ているときっと、愛に似た欲情をかきたてるのかもしれないなんし。


 彼を見、接すれば、母性めいたものをくすぐられるし、父性めいたものを彼の眼から感じる。


 そんな男が世界で一番好いているのが、――ララ・ヒルダ・メディエーター。


 傍目からすれば一目瞭然。


 ケンシローはララを見かけると、必ずじっと男の眼で眺めるのでありんす。店先でララと一緒に店員をやっているからすぐに分かる。


 その時、どんな感情が彼の中に渦巻いているのかは分からない。愛でているのか、それ以上の劣情でも覚えているのか。どちらにせよ、分かるのでありんす。


 ――ケンシローはララが好きなのだと。


 仕事の相方として、男女の相手として彼女を見ていると、分かる。


 だからこそ、余は剣の魔女がすごいと思える。


 あんな無自覚な女たらしの男の心をすべて鷲掴みにしているのだから。


 だからこその、魔女でありんす。


 余のことを妹かそれくらいのおなごとしか思わないくらいに、ケンシローはララに傾倒しているのでありんす。……いや、今の余の姿に発情したら、それはそれでまずいのでありんすが。


 だから、余はあの魔女を疎ましく思う時もある。


 いつも隣で戦って、剣として彼を剣士にしている彼女が羨ましいでありんす。


 魔女ララは可愛らしく、気が強く、その割に気弱で優しく、だから死にかけの余までを慈しんで生き返らせた。ルビー・メタル・シルバーとして生きさせてくれた。


 魔女ララは溌剌としていて、夢を諦めず、今も悩みながら生きている。才能の置き場を探している。自分の中で自分探しをして生きている。


 戦って生きているケンシローの隣に相応しいのは、やはり戦って生きているララなのだと思うでありんす。


 羨ましいなんし。


 二人が両想いなのは明々白々。


 きっと今ごろ、鈍感で敏感なケンシローも気づいているはずでありんす。


 あとはもう、二人が子を成すのを待つくらい。


 それくらいのことは、余の過ごした五百数年に比べればすぐでありんす。


 短期間ながら死地を共に越えてきた二人の絆はそれほどまでに深い。


 では、その時、余は何者になるのでありんすか?


 ケンシロー・ハチオージを諦めねばならないのか。


 あの男よりも好きになれる雄ができるのか。捧げる相手を見失った心を、誰かが慰めてくれたりするのか。


 ――――漏れ聞いた話では、ヴァレリー特別区内では裏技を使えば男女ともに第三伴侶まで作っていいらしいなんし。多夫多妻制でありんす。


 男で言えば、正妻と第二夫人、そして第三夫人を作っていいということ。女もまた同様に、三人まで結婚相手を作ってよいということ。


 しかしあの魔女ララが、一般的な感性の女が、伴侶に自分という正妻とそれ以外の女を作ることを許すだろうか。男もまた同様にそうでありんすが。


 余だって、愛を向けたら向け返される関係が良い。


 あの画材職人の女がどう思うかは分からなんしが、余は第二、第三の女で収まりたくはないなんし。


 ケンシローにもっと愛されたい。


 そのためにはララが邪魔でありんす。


 でも、余はララともっと仲良くなりたい。


 薄っぺらな友人関係ではなく、一度斬り合った好敵手として、仕事場の親友として、彼女も愛したいでありんす。隣人に向けるような深い愛を抱きたいでありんす。


 ララは、人に好かれる容姿・性格をしているなんし。過度に美人でもなく、過度に聖人でもない。だからケンシローは心惹かれている所もあると思うでありんす。そこに魔法による「剣」という決定打が加わっているということになるなんし。


 だから、ララは危ういと思うでありんす。


 あの子は、魔に長けすぎている。


 あの歳で、魔法の勉強など片手間程度だった絵描き志望の彼女が、鋼竜を討つほどの剣に変身できるというのは、才能では済まされない。


 魔を覚っていると言えよう。


 そんな彼女の魔女性が覚醒した時、もしかしたらこの世界は――――


 いや、杞憂かもしれないでありんす。


 ララの扱い方をケンシローは分かっているはずなのだから。


 ララが暴走した場合、彼女を止められるのは、誰よりも強く彼女に触れていたケンシローなのでありんしょう。


 ――だからケンシロー・ハチオージ。

 ――だからララ・ヒルダ・メディエーター。


 ――――余は、喧嘩するほど仲のいい汝たちが好きでありんす。


 ――――だから、余が本当に惚れたのは汝たちの関係そのものかもしれないでありんす。



    □□□□


第四章24話目でした。応援よろしくお願いいたします!

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