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剣と画材と鋼竜  作者: 鹿井緋色
第4章 奪還血痕篇
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第四章16 ごちゃまぜ大富豪

 大富豪というカードゲームを知っているだろうか。


 二から十、そしてJ、Q、K、Aの十三種類の数かつ●■▲★の四種類の絵札――つまり五二枚のカードとジョーカーを一枚か二枚使って、計五四枚ほどで行うカードゲームである。


 ちなみにララとエルサは知らなかった。


 魔法騎士養成学校で流行っていたカードゲームの一種だからなのかもしれない。


 簡単に言うと、その時々に出せる手札を場に捨てていって、手札を早くゼロにするというゲームだ。ローカルルールが多すぎて全てを取り入れると狂気の祭りになるという伝説がある。


 今回はそのローカルルールをごっちゃごちゃに混ぜたものを五人で興じることとなった。


 まずはルールの説明。


 基本ルールその一。ゲーム開始時に一番弱いのは三。そこから数が上がるごとに強くなり、J、Q、K、A、二の順に強くなる。場にあるカードより強いカードしか場に出せない。


 基本ルールその二。ジョーカーは全てのカードより強く、全てのカードの代用として使える。


 基本ルールその三。数が同じであるなら二枚でも三枚でも四枚でも一度に出していいが、次の人はそのカードより強く、かつ同じ枚数の出し方しかできない。


 基本ルールその四。パスは無制限に可能。パスを一度した周回でも次に回ってきた時に出せるならば出してもいい。


 基本ルールその五。自分以外の全員がパスした場合は次の周回のスタートは自分からになる。


 これくらいの説明で、ララとエルサには基本の動きが伝わったので、それでは混乱の特殊ルールの説明に移る。


 特殊ルールその一。【革命】四枚以上一度に出した場合は「革命状態」となり、カードの強さが逆転する。


 特殊ルールその二。【階段】絵札マークが同じであれば、並んだ数――三、四、五のように三枚以上からまとめて出せる。四枚以上だった場合は自動的に革命状態になる。


 ちなみに、階段になった時の周回は同じ枚数の階段しか出せない。


 特殊ルールその三。【上がり制限】通常時は二とジョーカー、革命状態は三とジョーカーでの上がり方は禁止。その場合はゲーム終了までパスを続ける。


 特殊ルールその四。【階級】一位で上がった者を大富豪。最下位を大貧民とし、大富豪は大貧民からゲーム開始前に一番強いカードと要らないカードを同じ枚数交換できる。交換する枚数は一枚から二枚が好ましい。


 特殊ルールその五。【都落ち】大富豪が次のゲームで大富豪に成れなかった場合は、自動的に大貧民に落ちる。


 特殊ルールその六。十三枚の数のカードにはそれぞれ、以下の特殊効果を持つ。


【▲三】ジョーカーが一枚のみで出た場合に、▲三を出すと唯一勝つことができる。


【四返し】四を含むカードが出た場合、出した本人は使用済みの山札から四枚ランダムに選んで一枚を自分のものに、残りの三枚を誰かに押しつけることができる。しなくても可。


【五スキップ】五を含むカードが出た場合、次の人がスキップされる。


【六六六】六を三枚同時に出した場合、革命になる。


【七昇り】革命状態で七を含むカードが出た場合、その周回だけ革命状態が解ける。


【八切り】八を含むカードが出た場合、その周回は流れ、八を出した人から次の周回が始まる。


【九ターン】九を含むカードが出た場合、周回の回る流れがその回だけ逆になる。


【十戒】十を含むカードで周回が流れた場合、次の周回でのみ特殊効果がなくなる。特殊ルールはそのまま。


【Jバック】Jを含むカードが出た場合、その周回のみ、革命状態になる。


【Qクイック】Qを含むカードが出た場合、Qを出した人の十二カウント中に次の手を出すかパスをしなければならない。


【KKK】Kを三枚同時に出した場合、出した本人の階級はそのゲームで勝っても負けても変わらない。ただし、ゲームには参加する。


【Aアタック】Aで周回を流した場合、周回とは別に要らないカードを一枚捨てなければならない。


【★二】★二で周回を流した場合、自分の次の番の人から次の周回がスタートする。


 説明パート終了。


 あくまでこれは魔法騎士養成学校でのルールなので、微妙に違う場合もあるし、全く違う場合もある。とにかく郷に入ってはではないが、今回はこのごちゃまぜルールで行うこととする。


 ちなみに混ぜてくれる相手がいなかったから、俺もほとんど初見組だ。


「ララ、大丈夫だ。いつも使ってる言語だぞ」


「……とにかく紙に書いてルールを把握しようとはしてるんだけど、これゲームとして成立するのかしら」


 孤城の紙を拝借してルールをしたためたが、ララはすとんとルールが頭に入っていない模様。


「アタクシ、こんな節操のないカードゲームは初めてだわ」


 エルサもララの隣に座って書き出したルールの紙を眺めているが、理解というより、観察に近い眺め方だった。


「ふふん、まずは一回でも回してみて、感覚を掴めば大丈夫なんじゃないかな」


 命や金銭がかかっているゲームではないので、フィールの提案通りに、とりあえずやってみようということになった。


 そもそも、どうしてサンダーとエルサの仲直りの為に俺たちはカードゲームをしているんだろうか。そっちのほうがよく分からない。



    ***



「……フィール、今は革命状態だったか?」


「ふふん、革命状態で七を出して革命状態が一時解けて、Jが出て革命状態に戻って、もう一度七が出て一時的に革命状態が解けているのさ。そして僕が九を出したから流れが逆転してケンシロー君の番だよ」


「なるほどな。全てを理解した」


 ……つまり俺は何を出せる状態なんだ?


 革命状態が一時的に解けているということは、スタート時の強さの序列で考えて、七よりも強いカードを出せばいいんだな?


「じゃあ、★二」


 このゲーム中一番の★のマークの二のカードを場に出して、俺は周回を流そうと目論む。


「それでいいの? ケンシロー。私パスするわよ?」


「アタクシもパスで」


「…………パス」


「パスだね」


 ララに続き、エルサ、レンナ、フィールもパスをする。


 この周回が流れた。


「じゃあ、俺は……」


「いや、★の二で周回を流したから僕からだよ」


「……あ」


 確かにそうだった。今回のルール下では、【★二】はデメリットしかないカードで、流れが正常に戻って、それでフィールの番からだ。


「このルール難しすぎないか?」


「あんた以外はそれなりに適応してるわよ」


「あはは、アタクシもなんとなくこのゲームの面白みが分かってきたわ」


「ふふん、強いカードは弱くなりうる。そして――」


 フィールは六を二枚とジョーカーを一枚出して【六六六】の革命を起こした。革命状態がまたしても反転する。


 つまりどうなったんだ……。


「はあ!? フィール! ここに来て【六六六】とかなにやってんのよ! 強いカード全部出しきっちゃったわよ!」


 ララがフィールの出したカードに憤慨する。俺もQ、K、Aあたりは出し切ってしまった。ちなみに前のゲームで大貧民になっていたので、二とジョーカーはフィールに献上していた。


「ふふん、こうやって場をかき乱すことこそが、大富豪の醍醐味さ」


 フィールは肩をすくめて涼しげに微笑む。憎たらしい……!


「そもそも僕はこのゲームの序盤に【KKK】を出したからどうなったって大富豪のまま、都落ちもしないのさ」


 そうだった。こいつはこのゲームで大貧民の俺から【五スキップ】でスタートして、【八切り】をし、その次の周回初っ端で【KKK】を出して盤石の地位を手に入れていたのだった。


 こいつはナイトというより、キングの称号の方が似合うのではないだろうか。


 そしてゲームを眺めるように余裕で参加するフィールを尻目に、俺たちの大貧民に成りたくない戦争が加熱し、カードを出し合い、せめぎ合い、けん制し合い、掻き乱し合い、


 ――――俺がまたしても大貧民に成った。さっきと順位がほとんど変わらないじゃねえか。


「よし、次だ! 次こそ俺がフィールの連勝記録を止めてや――」


「待って、ケンシローの坊や」


「なんだよ、エルサ。まさかこのままフィールに勝ち逃げを……」


 大富豪をしているうちに、いつのまにか俺たちはすっかりエルサと打ち解けていた。


「アタクシはおなかが空いたわ。お昼ご飯にしましょう」


 エルサは円卓から席を外し、給湯室だか厨房だかに向かって歩いていく。


「な――」


 それではフィールが勝ち逃げする形になってしまうではないか!


「ケンシロー、誰のための大富豪だと思ってるの?」


 ララが俺に耳打ちしてきて気づく。


 これはエルサがサンダーと仲直りをするためのカードゲームだった。効果があるのかはよく分からないが、そういう流れで始まった大富豪だった。つまりはエルサのための大富豪だ。


 エルサの機嫌を損ねるのが一番よくない。


「……しかたねえな」


 今回は俺の負けにしておいてやろう。


 今回はな。


第四章16話目でした。

このルールに似た感じで大富豪をしたことがあるのですが、

わけがわからなくなるのでオススメしません(笑)

感想・ご意見等々お待ちしてます!

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