宝くじが当たった
ふっと思いついたのでガッと書いた
一話:宝くじが当たった
――それは俺が、じいちゃんの家で遅い正月休みを満喫していたある日の事だった。
「聡、ちっとこれを銀行へ持って往てはくれんか」
そう言いながらじいちゃんが俺に手渡したのは……宝くじの束。
年末恒例のアレといえば通じるだろうか。今年は一等が三億円だとかいう、その宝くじだ。
「……じいちゃん、まさか! 三億円!!」
「そうじゃ……いや――」
十枚買うたから、前後賞つきで五億円じゃ――。
それを聞いたとき、自分のなかでどのような感情が沸き起こったか、言葉にするのは非常に難しい。
……五億円の何百何千分の一の金額で賄える、しかしささやかとは言いがたい幾つもの物欲。
……無賞与無保険、低賃金のフリーター生活からの脱却。
……悠々自適のニート生活。
(いや、これはじいちゃんの当たり。じいちゃんのお金……)
「ワシ、もうあんまり長うないでのう、さすがに使い切れんわい」
「え、でも、じいちゃんまだギリ六十代……」
「相続させてえらい税金取られるより、お前が買うた事にしてしもうた方が楽じゃろうと思うての。
お前の今しとる仕事、長うは続けれんじゃろう。その金を元手にして、はよう違う仕事にせえ」
フリーター生活からの脱却……悠々自適のニート生活……!
―――――
その後の一週間は、十八時間シフトで七連勤した、あの一週間よりも目まぐるしく過ぎた。
朝イチで銀行に行き、宝くじの当選金の受け取り手続き(口座が無かったので作らされ、その上有料会員制度やら定期預金やらの説明を日暮れまで聞かされ、しかも入金には数日かかると最後に言われた)。
バイト先に「事情を話さずに」退職する旨を電話(祖父の伝手で就職したが、明日入社しないと取り消しになるとウソをついた)し、両親には包み隠さず、祖父母の家の手伝いをしつつ、自活の道をこっちで探すと報告(ちゃんとした仕事を探せと、何度も念押しされた)。
祖父宅での生活と、今後の活動に必要な物をネットで執拗に品定めし、宝くじの入金を待って車で買いに行った(クレジットカードがまだ届かず、通販で買えない物がいくつかあった)。
役所に行って住民票と世帯の変更手続きもさっさと済ませた(とってもめんどうくさかった)。
「じいちゃん、本当によかったの? その……俺なんかで」
「何べん言うんじゃ。お前が一番ええんじゃろうが。」
「……」
「ワシらは老い先短いから五億円なんぞ使いきれん。
子供らも他の孫も真っ当にやっとるから、こんなあぶく銭持ったら破滅じゃ。
決して、あん時お前がすぐそこに居ったからじゃあ無い。
お前が――聡だけがこの金で前よりええ状態になれると思うたから、お前にあげることにしたんじゃ」
――お前はうちで一番自活できとらんからのう。
そのじいちゃんの声は、俺の卑屈さが作ったまやかしにすぎない、と思う。
でも、そんな空耳が聞こえてくるほどに、自分はみじめで、貧しく、情けない男だった。
「じいちゃん、俺――」
孝行しよう。
じいちゃんにも、ばあちゃんにも、あと三十年は生きてもらおう。
この五億円のかわりに、俺の三十年を捧げよう。
そのために、俺――
「大物動画配信者になって、在宅でお金かせぐよ!」
――母ちゃん怒るかなぁ……。
二話とかまだ影も形もないです。




