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契約のピアス

とりあえずメイヤの力(物理)で枷を外すと、互いに自己紹介をし現状を把握する。もちろん俺の自己紹介は適当に濁して伝えている。今この状態で異世界人ですなんて言っても余計混乱させるだけだからな。


生け贄になっていた彼女は名前をエリスといい、村が生け贄を出すようになった理由を詳しくは聞いていなかったらしい。

と言うのも、エリスは村で生まれたわけではなく、生まれてしばらくしてから村に引っ越してきたらしく、あまり馴染んで居なかったこともあり今回の生け贄に選ばれたというのだ。


「村を守るための生け贄なのに村人じゃない人を生贄にしていいのか…?」


素朴な疑問をつい口にしてしまうと、エリスは苦笑いを浮かべ首を左右に振る。


「むしろ、生け贄に選ばれたことで村の人間として認められたんだって、少し、思ったの。それよりも私よりも前に生け贄になった子たちはどうなったの?」

「他の者達は記憶を封じ、他の町や村へと届けておる。そのままにしておけば獣に襲われかねんし、かと言って村に戻せばそれはそれでいろいろ問題が出てくるしのぅ。」

「でも、人の言葉がしゃべれるなら最初から誤解だって言ってくれればよかったのに。」

「怯えた者はなかなか他の話を聞き入れぬものだのだよ。」


メイヤは寂しそうにつぶやくと遠い過去でも思い出しているかのように虚空を見つめているが、パッと表情を雰囲気を切り替えて言葉を続ける。


「にしてもじゃ、お主らとは誤解が解けた。故にウチが贄を求めてないということを伝えて欲しいのじゃ。いい加減、記憶喪失として人を送り込むのも限界なのじゃ。」


確かに何人も同じ街に記憶喪失の人間を入れるわけには行かないだろう。増えればその分捜索がかかってしまうかもしれない。


「わかった…村の人には伝えてみる。でも、その代わりお願いがあるの。私をあなたの旅に同行させて!」

「へっ、俺!? いや、でも俺…冒険者って言ってもいろいろ訳ありでまだLv2だし…。つか、願いをする先はメイヤじゃないのかよ。」

「ぅ…そう、かもだけど、今更あの村に私の居場所はないの。お義母さんが頑張ってくれてたけど、死んじゃってからは……」


エリスは肩を落とし、村でのことを思い出しているのかなんとも言えぬ表情で視線を彷徨わせて口ごもってしまう。


「のう、カズキといったか。お主、ウチを使役してみる気はないかのぅ?」

「はい?」


話の腰を折るメイヤの申し出に、一体全体何をどうしたらそんな考えに行き着いたのかと、思わず変な声が出てしまう。


「おそらくじゃが、お主この地…いや、世界の者ではないのじゃろ?そして困惑具合からすれば来たばかりといったところかのぅ。ゆえに、ウチを使役すればウチが知るかぎりの知識を提供しよう。見返りはお主の観察かの。で、ウチはあまり人の子の常識は知らぬ、故にこの娘を連れて行け。」


使役という言葉を使っている割にはかなり上からの言葉だったが、自己紹介の際に濁したこの世界の人間ではないと見抜いている部分はおそらくメイヤが言う知るかぎりの知識に入ってくるのだろう。つまりは、なんか面白そうだから連れて行けという所か。


「んー?知識だけでは足りぬか?なんなら、この身を自由にする権利も与えなくもないかのぅ。」


返事に困っていると思ったのか、人間の体になっている怪鳥メイヤは、そのたわわな胸を俺の腕にムギューっと押し付け色仕掛けを迫ってくる。

胸の谷間に視線が行くのは、男なんだからしょうがない。しょうがないったらしょうがない。


「わ、わかったから離れてくれ。なんで俺がこの世界の人間じゃないかわかったのか気になる所だけど、話について行けてない見たいだからちゃんと説明してやってくれ。」

「簡単な事じゃ、魔力の色が違う。」


世間一般的にはきっと簡単でない判別方法をサラリと告げ、今後の方針をエリスへと改めて伝えると、エリスはマジマジと俺の方を観察するように見てくる。おそらく異世界の人間だと聞いて俺の様子を伺っているのだろう。


「あの、異世界とかはよくわからないのですが、私からもお願いします。」


美女からの色仕掛けと美少女からのお願いをされてしまえば断るという選択肢は選び難い。さらに言えばこの世界のことを殆ど知らない俺にレクチャーまでしてくれるのだから断る必要もほぼないだろう。

とりあえずはメイヤの話に乗る形で進む方針を決めると、村に対してはどう説明するかの問題に考えをシフトする。


「村への説明なんだが、メイヤ人型になれるんだから、こう鳥の姿で行って、村の近くとか広場とかで人の姿に変わって、もう生け贄はいらない。的な事いえばいいじゃないか?」

「近づく前に攻撃されたりしないか心配なんじゃが…あの村には魔法に長けているものはおるのか?」

「えっと…高レベルの魔法が打てる人は居ないはずよ。そんな事がホイホイできるなら村になんて居ないで街に出てるもの。」


この世界で魔法は当たり前にあるものだが、使える系統・魔力量などは遺伝によるものが大きいらしい。

故に、レアな系統であったり、魔力量が人より多かったりと言うと街に出て職にありつけることが多くなり、場合によっては王宮に仕え貴族になれる場合もあるということだった。


「では、カズキの提案でとりあえずはいくかの。っと、その前にお主と主従契約をしておかねばな。」


俺としてはわざわざ契約をしなくても良かったのだが、街などでは身分の証明が必要になり、魔獣などは契約していないと入れないというので、主従関係を結ぶ事を同意する。

契約をするにあたり、何か俺の持ち物が必要だと言われるがいかんせんこっちに来た時点で衣類などはすべて変わっており、渡せるようなものは…と考え、片手を首の後ろに回し頭を掻く動作をしようとしてソレに気がつく。


「コレでもいいか?」


手のひらに乗せ見せるのはピアス。これはこっちに来た時に亡くならなかったらしい。


「十分じゃ。お主の気配が十二分に宿っておる。これは…ふむ、耳に穴を開けてつけておるのか。」


ピアスを受け取ると、まだ俺の片耳についたままになっているピアスをまじまじと観察し、何やら納得した様子でピアスの方を眺めている。


「ではすまぬが、主の血を1滴もらえるかのぅ?」

「血って…血液?」

「ソレ以外に何がある。ほれ、そのナイフでさくっとやるのじゃ。」


俺は躊躇いながらも言われるがままにナイフで指先を小さく突っつき1滴の血を渡したピアスへと落とす。不思議な事にピアスへと落ちた血液は吸い込まれるかのようにすぐに消えてしまい、メイヤが血を落とすと同じように吸い込まれてしまう。

メイヤは魔法を駆使して己の耳に小さな穴を開け、二人分の血を吸ったピアスを装着する。


「流石に少し痛むのじゃ…でもまぁ、回復しておけば問題はないじゃろ。ではこれからよろしくたのむの、ご主人様。」


これで契約は完了だとメイヤは笑みを浮かべ、俺の横に来ると胸を押し付けるようにして腕を組んでくる。

元は大きな鳥とは言え、現状美女であるメイヤの行動にドギマギしていると「ごほんっ」とわざとらしくエリスが咳払いをしてくる。


「そう睨んでくれるな。100年以上ぶりの主従契約なのだからのう。とは言え遊んでいても仕方がない、村へ向かうとするかのう。」


俺から離れるとメイヤは姿を怪鳥へと変え、俺とエリスが背に乗る形で一路エリスの住んでいた村へと向かっていった。

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