贄と怪鳥
しばらくして落ち着いた後で、消えたスライムの後に残っていたアイテムを手に取ると鑑定をかけてみた。
宝石のようなものは『魔石(極小)』グミのようなものは『スライムグミ』というそうだ。
ちなみに、スライムグミをさらに鑑定したところ食材である事が判明した。単品では食べれないようなので、おそらくゼラチンみたいな扱いなのだろう。
ついでにあれだけの戦闘だったにも関わらずレベルが2に上がっていた。
そして、あの後何度か鑑定を使ったおかげか、自身のHP、MPを数値的に確認できるようになっていた。
カズキ イチガヤ
Lv2
HP:95/100
MP:85/85
防具:布の服
武器:ナイフ
スキル:短剣術Lv1、メールオーダー、鑑定Lv2
パッシブスキル:経験値上昇、自然治癒、全属性適応、言語習得、魅了チャーム
装備アイテム:マジックバッグ(2/無制限)、マジックリング(0/100)
ちなみに、マジックバックというのはこっちに送られたときに服と同時にいつの間にか装備されていたウエストポーチだ。外観は手のひらサイズ程度だが、入り口から入るものなら無制限に収納することができるらしい。いくつか石を拾って入れてみたが全く重量は変わらず、外観が変わることはなかった。
取り出すときは出したいものを念じるか、軽く2回たたくことで入れたものの一覧が表示され、そこから選んで出すことも可能だった。
マジックリングに関しては容量制限があるものの、自分で持てないような大きなものでも、指輪をつけている手で触り念じれば収納することができるらしい。取り出し方はマジックバックとほぼ同じ。
旅をするならば大きな荷物を背負って移動しなくていいというアドバンテージがあるわけだ。これが、こっちの世界の当たり前なのかどうかはまだわからないが。
とりあえず現状の確認もできたので、日が暮れる前に人里に出なければと移動を決め立ち上がる。
とはいえ、ここは森の中。方向うんぬん以前にどの方向に人が住んでいるのかすらわからない。
「どうしたもんかな…?」
出だしから全力で躓き途方に暮れていると何やら生き物の気配がするような気がして、魔物の可能性も踏まえつつナイフを手に装備した状態でできるだけ音を立てないように気配がする方へと歩いていく。
しばらく歩いていくと突如目の前が拓け、かなり透明度の高い湖が姿を表す。
大きな公園でボート乗り場があるようなそんな大きさの湖の中央には島があり、こちら側からは飛び石を伝って渡れるようになっている。
そしてその小さな島は何かの儀式用なのか中央が祭壇のようになっていて、そこには書いて字のごとく生贄であろう人物が鎖に繋がれている。
生贄イベントといえばゲームの中盤あたりの中ボスイベントだ。助けようとすれば中ボスランクの敵が出てくるのは間違いない。LV2で倒せるとは到底思えない。
たが、ここが本当に現実であるならば、ゲームの様に『後回し』はきっとできないだろう。生贄がここにいる時点で生贄を求める者がすぐにでも現れる可能性が高い。たとえゲームだとしても、このイベントのスタートフラグは生贄の存在を確認することだろうと簡単に予想がつく。そう、生贄を見た時点で始まっているのだ。
驚いたことが一つある。
そんなことを考えてはいたが、考えながらもすでに体は生贄を助けるべく走り出しているのだ。自分のどこにそんな正義感があったのだろうかと嘲笑を否めないが、助けないという選択をいまさら選べるわけもなく飛び石を抜け祭壇へと駆け寄る。
祭壇の上の生贄は両手足を祭壇の上から降りれない程度の長さの鎖で繋がれ、はじめは抵抗したのだろう、枷のかかる手首や足首はすれて赤くはれている。
目元は黒い革のようなもので覆われ光を遮られ、白いワンピースは生贄の装束…というよりは花嫁のそれである。
「……だれ? 私を食べに来たの? 殺すなら早くしてっ! ねぇ、もう気が狂いそうよ!!」
どれぐらいここにいたのかわからないがおそらく極限状態なのだろう、俺の気配に怯えるよりも死を強請り、この場からの解放を懇願している。
「俺は、冒険者だ。偶然通りがかったんだが……」
とりあえず落ち着かせるために目隠しを取ろうと手を伸ばすと同時に突如として突風が吹き荒れ晴天だった空に陰りがさす。
「ひっ…き、来た……」
圧倒的な威圧感に生贄の女性は乞うのも忘れジャラジャラと鎖を引きずり祭壇の端の行けるぎりぎりまで後ずさる。
「でか…」
現れたのは怪鳥と呼ぶにふさわしいであろう大きさの鳥だ。これは、考えるまでもなく戦ったら負ける。戦わなくても負ける。
『第一声から無礼な人間じゃな、そっちはまた生け贄か。人の子も懲りぬのぅ』
「え、あ…すみません」
『っ!お主、我が声が聴こえるのか?』
業界に数年とはいえ在籍していた影響か、上の人…まあ、今は人ではないが、格上の者に対して反射的に誤ってしまうのは処世術っだったのだ。華やかな裏ではいろいろと上下関係が激しかったのだ。
そんな俺の反応に対して驚きを見せる怪鳥。
『ふむ、言語習得のスキルか…なるほどのぅ、最近の人の子にしては珍しい。』
「あ、あの、納得していただけたのはありがたいのですが、こちらの生け贄の子どうしても出さないとダメですか?」
怪鳥も鑑定を持っているのかこちらのステータスは筒抜けのようで。
怪鳥の様子からして問答無用で食べようといった様子でないのを汲み取ると、俺は恐る恐る様子を伺ってみる。
『む、そうだったのう。丁度いい、この者の村に行き伝えてはくれぬか?ウチは贄なぞ求めておらんのじゃ。』
「生け贄を求めてない…?」
『左様。もともとこやつらの村に悪雲が立ち込めておってな、あれは放っておけば農作物や体調に影響が出る。故にウチの風で吹き飛ばしたのじゃが…村人にはウチが襲ってると勘違いされてのぅ』
「なるほど、まだ影響の出てない悪雲とやらより、豪風の方が害があると判断されたんですね。」
「ちょ、ちょっと待ってください!!あなた、怪鳥と話が出来てるんですか!?」
こちらに対して特に害がないとわかり、のほほんと経緯を聞いていると、すっかりとその存在を忘れてしまっていた生け贄の女性が会話に割って入ってくる。
「あー…なんかそういうスキル持ってるみたいで。なんでも、この…えっと、お名前は?」
流石に敵意を持ってこない相手に怪鳥と言うのは憚られて、名前を聞けば怪鳥は首をかしげてしまう。
『名というものは持っておらぬのじゃ。ウチらは互いを名では呼ばぬ、故に付ける必要もない。便宜上必要とあらばお主がつけるが良い。』
「名前かー、いきなりそんなこと言われてもな…んー、そうだな……メイヤってのは?俺が読んでた本にでてきた名前なんだけど。」
『構わぬ。個人を特定する名…悪くはない。』
「ということで、メイヤは村を悪雲とかいうものから助けただけで、村を襲おうとかは思ってないから生け贄は要らないんだって。」
「そんなっ!だって今まで何十人もの乙女が生け贄にされて戻ってきてないんですよ!?」
両手両足の鎖を鳴らして抗議されるが、俺は色んな意味でいま来たばかりなので何も言えない。とりあえず目隠しだけは取ろうと、一言詫びを入れてから革の目隠しを取る。
「んっ、眩し…、…ありがと…ひやぁっ!?」
先程からいるのはわかっていたはずなのだが、実際にメイヤーの姿を見ると思っていた以上なのか女の子は悲鳴を上げてへたりこんでしまう。
まぁ、気持ちはわからなくもない。
「なぁ、メイヤ。人の言葉は理解出来てるんだったら、しゃべることはできないのか?」
決して、翻訳役がめんどくさいわけではない。ちがうったら違う。
『むぅ…?ああ、そうじゃ、こうすれば…』
何やら思いたったらしいメイヤーが聞き取れない単語をつぶやくと、体全体が光に筒まれ段々と縮小していく。何が起こってるのか予想を立てた俺はそれができるなら最初からやれよ!!と心の中でツッコミを入れつつ光が収まるのを待っている。
「ふぅ、どうじゃ、これで人の子にも言葉が伝わるはずじゃ。」
俺の予想はしゃべり方からしてロリっ子幼児体型だったのだが、光の中から出てきたのはお姉さまと呼びたくなる見た感じ20代前半の美女だった。
「……一体なんなんですかぁ~~~~!?!?!?」
主人公は結構肝が座ってます。
と言うか、根っからの中二病患者なのでむしろ楽しんじゃうタイプです。