始まりはここから
つたない文章ですがよろしくお願い致します。
「みんな、今までありがとう!!今まで応援してくれたみんなにこの曲を送ります。」
「これは俺達がユニットを組んで初めて作って、初めて歌った歌だぜ!」
「シングルにもアルバムにも入れてない曲だ、心に刻み込めよ!!!」
「「「きゃぁー~~~!」」」
「「うぉぉぉー!」」
広い会場に響く黄色い声援。
大多数が女性だが通常の男性ユニットに比べ男性ファンも多く所々から低い声の声援も聞こえてくる。
『アイドルユニット・トライアングル』
中学1年の時にスカウトされ瞬く間に国民的アイドルまで駆け上がった男性3人組。
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ことの始まりは中学1年の文化祭。
中学校1年、絶賛隠れオタクな俺は全力帰宅部で
今日も早く帰って新刊を買いに行きたい…などと、心ここにあらずでHRに出ていた。
HRの議題は文化祭で何をやるか。
なんでもいいから裏方になってできるだけ楽をしたいと討論の外でボーッとしていると
文化祭役員で選出され、会議に出ているはずのクラスメートが教室へと戻ってくる。
「会議中ごめん、市ヶ谷くんいるかな?ちょっと来て欲しいんだけど。」
そりゃ、強制参加のHRなのだからいるだろうと心のなかでツッコミをしながら
己を呼ぶクラスメイトに、視線だけで行かなくてはいけないかと訴えるが気がついて貰えるわけもなく
仕方がなしに立ち上がると廊下へと出て行く。
「俺、何かしたっけ?」
「いや、したというより、して欲しいというか…とにかくついてきてよ。」
全力で拒否したかったがおそらく拒否権は無いであろう。
呼ばれたので教室を離れる旨を担任に告げ、呼びに来たクラスメイトの後について廊下を歩いて行く。
たどり着いたのは文化祭実行委員会がこの時期専有している空き教室。
扉をくぐると一斉に視線が向けられ、視線だけで死ねるんじゃないかと
この場から逃げたい衝動をなんとか抑え、教室の中へと入ると
俺と同じく呼ばれたのであろう男子生徒2名が教卓の脇へと立たされていた。
「3人集まったね。わざわざ来てもらってありがとう。三人にはどーしてもお願いしたいことがあるんだ。」
嘘くさい笑顔を向けて話しかけてくるのはおそらく実行委員長。
なぜならばその腕に『委員長』と書かれた腕章をつけているからだ。
「単刀直入に言う。文化祭のステージに上がって欲しい。」
話についていけず、頭の上にハテナマークが浮かんだままの俺達と
ドヤ顔を決めている委員長。そしてその横では呆れたようにため息を付く女子生徒。
おそらく副委員長か何かだろう。だいぶ苦労をさせられていそうだ。
「ごめんなさい、何も説明がなくて。私達文化祭実行委員会では文化祭中の体育館の出演メンバーの順番を決めたりもしているんだけど、今年はどうしても枠が埋まらなくて。
そこで、まだ入って半年足らずなのに人気のある3人に舞台に出てもらえないかなって。」
「ちょっとまった、確かにこの二人は他クラスの俺でも見覚えがあるぐらい有名だけど、俺は何も無いですよ!?」
そう、俺より先に来ていた二人はイケメンで学年問わず女子から絶大な人気を受けている『瑞江』と
入試で満点を叩き出し、親が芸能人と囁かれている『住吉』だ。
かと思えば俺は平々凡々な上に隠れオタ。二人と並ぶ理由が思い当たらない。
「…1年女子のアンケートでは二人に僅差だったわよ?それに歌声がすごく良いとか。」
いつの間にそんなアンケートを取っていたのか、
自分が隣の二人に匹敵していたと言う事実に少しうれしくも思いながらも、続いた言葉に言い淀んでしまう。
歌唱力は確かに高い方…らしいのだ。カラオケでは100点連発、
いつだったか待ち合わせでヘッドフォンをしたままつい口ずさんでいたら、ギャラリーに囲まれていたこともある。
「だから一曲だけでいいのよ、お願い。」
この時に断るべきだったのだ。
これがすべての始まり。
栄光と言うなの作られた道を歩き出したからこその転落。
その転落の先にあるのは…?
闇が広がる。真っ暗で何もない。
自分が居るのかすら不安になる。
今ここで一筋の光が見えたら、きっと有無をいわさずにすがってしまうだろう。