第四話
ワイドショーを収録しているスタジオ。
顎髭を生やしたコメンテーターが話をしていた。
「……というわけで、凄惨な事件が起きてしまいましたなあ。まさか救いの手を差し伸べる前に、自らの手で子供を殺すとは。まったくもって、考えられませんよ」
「そうなのですか? 今の社会事情を考えれば仕方ないことなのかもしれませんが……、ちょっとこのフリップをご覧ください」
そう言ってアナウンサーは何かを取り出した。
指差ししながら、アナウンサーはフリップの説明に取り掛かる。
「はい、それではフリップの説明に移ります。二〇三一年、今から一年前ですね。とある病気が流行しました。それに対策をした政府が僅か二ヶ月でワクチンを完成させました。思えばこれが凡ての元凶とも言えるのではないでしょうか?」
「そうですなあ。……子供に使うと『大人をお菓子と思い込む』、そんな副作用、誰が考え付いたのでしょうね?」
「被験者は大人でしたから、気付かなかったのでしょう。それに頭を悩ませた政府は大急ぎで『お菓子に見えなくなる』ワクチンを開発するに至りました。まだ、そのワクチンは開発されておらず、このように連日報道しているわけですが」
「まあ、どうやら……大人というのは若干広い意味で、実際には男性ということらしいですがね。そういえば聞いたことがありますよ、男性と女性ならば、生まれる確率は若干ながら男性のほうが多いらしいのですよ。ですから、口減らしという意味にも当てはまるのかもしれませんなあ」
「……恐ろしい、ワクチンですね。ほんとうに。それにしても、そうであったとしても、恐ろしい事件であることには変わりありません。この研究施設、テレビで取材も入りました。私も取材に行きました。ワクチンを開発する研究センター……人類の英知がここに宿っていたとも言える場所。そこで二十五名の幼い命が失われた、ということです。犯人である教師はもう疲れた、とおっしゃって自らの首を切ろうとしたところを警察官に取り押さえられたのだと言います。警察では再び詳しく調べるとのことです。それにしても、今後もこのような事件が増えるのでしょうか。増えてほしくありません。増えてほしい、とは願いません。はやく、この副作用が無くなってほしい。そう願うばかりです」
◇
そのワイドショーを見ていた少女はニヤリと笑い、涎を少し垂らしながら母親に言った。
「ねえ、どうしてテレビにシュークリームとチョコレイトが写っているの?」
終わり。