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第三話

 少女は、バスに乗っていた。

 別に少女だけでは無い。めいちゃんも、きいちゃんも、るりちゃんも、まいちゃんも。彼女の友達も、クラスメイトも全員乗っている。

 今日は楽しい場所へ行くのである――それは先生の受け売りになるけれど。


「今日はどこへいくのですか?」


 きいちゃんは言った。


「とっても楽しいところですよ」


 先生は答えた。

 でも、先生はどこか楽しそうに見えなかった。

 だから、少女はたずねる。


「先生、そこって、どこにあるのですか?」


 上っている山は、人も居ない場所。とても観光スポットがあるとは思えなかった。


「楽しいところよ。とっても、とっても、楽しい場所」


 先生はそれ以上答えなかった。





 少女たちが到着したのは、白いドームだった。

 少女はテレビで見たことがあった。最新鋭の研究設備が揃った研究施設だということを。もちろん、単語の意味はまったく理解できていなかったけれど。

 ドームの中に入る少女たち。

 最後に入るから、と先生は最初に入ろうとはしなかった。


「中心に寄り添うように入ってね」


 中には何も無かった。

 少女は疑問におもいながらも、進む。

 全員が入ったところで、立ち止まる。


「先生、全員入ったよー!」

「ええ、そうね。確認したわ」


 冷たい声だった。

 今まで聞いたことのない、冷たい声だった。

 まるで少女の母親がワイドショーを見ているときに見せた――あの表情のように。

 そして、ドームにある唯一の扉は――閉められた。

 同時に、ドームの中心に火柱が上がる。


「わああああああ!」

「きゃああああああ!」

「うわあああああああ!」


 子供たちはそれぞれ叫び声をあげる。

 少女もその例には漏れなかった。

 ドアを叩き、外に出ようと思う。外に出たいと願う。

 しかしその扉は、子供たちの力で開くわけが無かった。


「ねえ先生! 開けて! 開けてよ! 帰りたいの! どうしてこんなことをするの!悪かったよ! 先生! 私たちが何か悪いことをしたの? そうだったら、ごめんなさい! 先生、先生……!」


 少女の声は響く。

 しかし、その声が外に居る先生に届いたかどうかは――少女たちには解らない。





 先生は外で子供たちの悲鳴を聞いていた。地獄絵図となっているであろう中を想像しただけで身震いがした。

 だが、仕方なかった。

 仕方のないことだったのだ。


「ごめんなさい……ほんとうにごめんなさい……。こうするしかなかったのよ……!」


 先生は泣きながら、ドームの壁に寄りかかる。

 森の中に、先生の泣き声だけが響き渡った。


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