第三話
少女は、バスに乗っていた。
別に少女だけでは無い。めいちゃんも、きいちゃんも、るりちゃんも、まいちゃんも。彼女の友達も、クラスメイトも全員乗っている。
今日は楽しい場所へ行くのである――それは先生の受け売りになるけれど。
「今日はどこへいくのですか?」
きいちゃんは言った。
「とっても楽しいところですよ」
先生は答えた。
でも、先生はどこか楽しそうに見えなかった。
だから、少女はたずねる。
「先生、そこって、どこにあるのですか?」
上っている山は、人も居ない場所。とても観光スポットがあるとは思えなかった。
「楽しいところよ。とっても、とっても、楽しい場所」
先生はそれ以上答えなかった。
◇
少女たちが到着したのは、白いドームだった。
少女はテレビで見たことがあった。最新鋭の研究設備が揃った研究施設だということを。もちろん、単語の意味はまったく理解できていなかったけれど。
ドームの中に入る少女たち。
最後に入るから、と先生は最初に入ろうとはしなかった。
「中心に寄り添うように入ってね」
中には何も無かった。
少女は疑問におもいながらも、進む。
全員が入ったところで、立ち止まる。
「先生、全員入ったよー!」
「ええ、そうね。確認したわ」
冷たい声だった。
今まで聞いたことのない、冷たい声だった。
まるで少女の母親がワイドショーを見ているときに見せた――あの表情のように。
そして、ドームにある唯一の扉は――閉められた。
同時に、ドームの中心に火柱が上がる。
「わああああああ!」
「きゃああああああ!」
「うわあああああああ!」
子供たちはそれぞれ叫び声をあげる。
少女もその例には漏れなかった。
ドアを叩き、外に出ようと思う。外に出たいと願う。
しかしその扉は、子供たちの力で開くわけが無かった。
「ねえ先生! 開けて! 開けてよ! 帰りたいの! どうしてこんなことをするの!悪かったよ! 先生! 私たちが何か悪いことをしたの? そうだったら、ごめんなさい! 先生、先生……!」
少女の声は響く。
しかし、その声が外に居る先生に届いたかどうかは――少女たちには解らない。
◇
先生は外で子供たちの悲鳴を聞いていた。地獄絵図となっているであろう中を想像しただけで身震いがした。
だが、仕方なかった。
仕方のないことだったのだ。
「ごめんなさい……ほんとうにごめんなさい……。こうするしかなかったのよ……!」
先生は泣きながら、ドームの壁に寄りかかる。
森の中に、先生の泣き声だけが響き渡った。