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第二話


 西暦二〇三一年。

 世界中にとある病気が蔓延した。その病気にかかると、一日足らずで息を引き取ってしまう――厄介極まりなく、恐ろしい病気である。

 ひとびとは、正確に言えば科学者は、その病気の原因を究明した。


 

 ――結果として、そのウイルスは新種であることが判明したが、それによりワクチンを開発することに成功した。



 ワクチンが支給されるようになり、そのワクチンを先ずは未来ある子供に与えることにした。数が限られているため、そうすべきであるという政府の決断によるものだった。

 その意見に国民全員が賛成したわけでは無かった。

 残念ながら反対意見もあったわけだ。

 しかしながら選挙では賛成派が勝利。結果として、子供にワクチンを与えることが最優先事項となり、感染の疑いがある大人は幽閉されることになった。





「話がむずかしくて、よくわからないよ」

「とはいっても、これは社会の授業だからねえ……」


 眼鏡をかけた先生は、少女にそう言った。

 ついこないだ新しく来たばかりの先生なのか、まだ授業には慣れていない。前任の先生は男性でとてもしっかりしていたが『諸般の事情により』今は休みを取っている。

 ――とはいえ、生徒も口を開けている。ぽかんとしていた。


「……ちょっと難しかったかしらね。まあ、少しお休みしましょう。もうチャイムも鳴ることですし」


 その言葉と同時に、チャイムが鳴った。

 授業終了を知らせる合図だった。





『――それにしてもあの病気が蔓延してからもう一年ですか。時間というのは早いものですね』


 家に帰ると母親がテレビを見ていた。テレビではワイドショーが映し出されており、あの病気のことが語られていた。

 ワイドショーのコメンテーターの話は続く。


『あのワクチン、ほんとうにすごかったですねえ。有効的ともいえるでしょう。しかし――』


 その言葉を言ったと同時に母親がテレビの電源を切った。


「お母さん……どうしたの?」

「ううん。何でも無いわ」


 でも、少女は見ていた。

 一瞬見せた、恐ろしい表情を。

 彼女が見たら竦みあがってしまうほどの、恐ろしい表情を。





 次の日も、次の日も。

 少女は甘いものを駄菓子屋で食べていた。

 誰も来ない駄菓子屋で。

 少女はお菓子を食べていた。

 それは少女にとってとても幸せで。

 少女にとってとても嬉しくて。

 少女にとってとても――至福のひと時だった。





 少女には父親が居ない。

 居ない、というのは家に居ないということだ。単身赴任になっている。場所は遠い場所で、そう簡単に会うことは出来なかった。少女は悲しかった。だけれど、それは仕方ないことだと母親に言われて、そう納得するしかなかった。

 だから、少女には父親が居ない。








 ……そういうことになっている。



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