第一章/4
第一章/4
第一音楽室を出たあと、弥子は部活動(演劇部に所属している)に顔を出すということだったので、そこで俺たちはわかれた。ちなみに俺は科学部というものに入っているのだが、べつに科学が得意なわけでも興味があったわけでもなく、週に一度しか活動がないためそれ以外の日は遊べるじゃないか、という安易な理由での参加だ。
ただいま、と帰宅するなり台所の方から「おかえりぃ。あんた、勉強の方はしっかりやってんのー」と母さんの急かしを兼ねたむかえの声が聞こえたが、適当に返事をして俺は部屋へと直行した。まあ、宿題くらいはやっておこう。
その後、夕飯や風呂を済ませて部屋でのんびりしていると、携帯電話が鳴った。
メールの着信。差出人は鳴河弥子である。時計をみると夜の八時だった。部活はとっくに終わって帰宅している頃だろう。
内容は姫宮さんのことで、明日も行ってみようと思う、そのときはまた協力してほしいとのことだった。律儀に今日の俺にたいしての礼も書いてあった。
弥子には、無人の音楽室にひとりとじこもっている姫宮さんの姿がとても寂しそうに見えたそうだ。それには俺も同意で、彼女が教室に出てきてクラスメイトたちと笑って過ごせるようになれば、それは良いことだと思う。
しかし、俺としてはこのまま今日のように姫宮さんのところに行って事情をききだそうとしたり、場合によってはその問題を解消して教室に引っ張り出すということをしていいのかどうか、迷っている部分もある。
会って話してみた印象としては、彼女は目立つタイプではないがけっして他人とのコミュニケーションがとれないほどに引っ込み思案なわけでもない。だから、第一音楽室にひきこもっている原因さえ解消できれば、彼女はすんなりとクラスにとけ込んでいけると思う。
だが、だからこそ、彼女を自分の殻にとじ込めさせている原因が、いちクラスメイトに踏み込めるほど簡単なものではないんじゃないか。それをあばき、介入しようとすることは出過ぎた真似で、せっかく第一音楽室とはいえ学校にきている彼女の状況を悪化させるようなことになったりはしないだろうか、と心配にもなる。
まあ――。
今はまだ結論を出せるような段階でもない。もう少し、様子を見てみるか。
俺は携帯を枕もとに放り投げ、ごろんとベッドにあおむけになった。