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第九章/6

第九章/6



 そうして俺は先生とふたりで資料管理室へ来ていた。教室の半分くらいの大きさの部屋で、名前の通り棚やケースの中に様々な資料がしまってある。日の当たらない位置にある部屋なので、電気をつけてもじゃっかんほの暗い感じがする。


 先生に頼んで第二十三回の生徒の卒業アルバムを出してもらい、受け取るとすぐにそれを見はじめた。


 当時のクラスは全部で五組まであったらしい(ちなみに現在は三組までだ)。

 写真はモノクロだったがどれも茶色く変色していて、かなりの年季を感じる。

 序盤のページには過去のM中学の校舎や、校庭の写真、職員一同の写真などのページがあり、そのあと各クラスの生徒と担任の一覧の写真や、日常風景の写真などのページが続く。


 一枚ずつ順にめくっていき生徒の名前を確認していく。


 そして十二ページ目、三年四組の女子生徒の写真の一覧に、俺の目当てにしていた人物であろう名前があった。姓の都合上もっと苦戦するかと思ったが、それはすんなりと見つかってくれた。


 ――姫宮ゆめ。


 上品さを感じさせる端正な顔立ちと、穏やかそうな雰囲気が姫宮さんとそっくりだった。


 ――きっと、このひとが姫宮さんのお母さんだ。


「先生。もしかして姫宮さんのお父さんって、いわゆる婿養子だったんですか」


「ん……。あまり個人の家庭の情報だから答えていいものかどうか悩むが……そうだな。奥さんがちょっとした企業の娘さんだったそうでね。跡継ぎの都合なのかもな。そういう事情もあって姫宮のお父さんもだいぶ苦労していたみたいだよ」


 なんとなく、姫宮さんがお父さんのことを必要以上に悪くは語らなかった理由がわかった気がした。もちろん怒鳴ったり、家族に当たったりというのは良いことじゃない。けれど、ひとは仏様じゃない。ストレスや重圧に耐えかねて感情が荒れてしまうことはある。……まあ、俺が口を挟むようなことではないだろうけど。

 あと、これもなんとなくだが、姫宮さんが以前に問題集にたとえて話していた、人生がうまくいく、いかないといったたぐいの話。あれは、もしかしたら姫宮さん自身ではなく、姫宮さんのお父さんのことを言っていたんじゃないだろうか。確証はどこにもないけど、そんな気がした。


 俺はそんなふうにふと湧いた思考を一旦止めて、卒業アルバムを再度見る。そして、

「もうひとつだけ確認させてください。姫宮さんのお母さんは、ここの卒業生だったんですか」


 もしかしたら偶然、この写真のひとの姓が一緒だっただけという可能性もある。確認はしておいた方がいいだろう。


 先生はひとさし指を額に押しあてて、記憶を掘り起こすように眉間にしわを寄せる。

「どうだったか……。さすがに私もこの中学に転任してくるまえの生徒に関しては……いや――ああ、そうだ。……そうだな。確かそんな話を去年の三者面談のときに聞いた。姫宮のお母さんもここの卒業生なんだ、と」


 先生はうんうんと自問自答で確認するように、数度首を揺すって頷いた。


「そうですか……」


 間違いない。この人が姫宮さんの母親で、この中学の過去の卒業生で、あのグランドピアノを寄贈した卒業生の中のひとりで――。


 なにかが見えてきそうだと思った。そのとき。


 慌ただしく誰かの走ってくる足音がきこえてきた。


 それはたちまち大きさを増し、この資料室の前で止まる。


 同時に、なかば乱暴にドアがひらかれた。


「カズくん! 先生!」


 やってきたのは、弥子だった。息を荒くし、興奮した様子で、


「保健室に……未恋ちゃんが、未恋ちゃんがいないの! それも、なんか荷物と一緒に、遺書みたいなメモが残ってて。どうしよう! ねえ、どうしよう!」

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