第八章/1
第八章/1
文化部発表会当日。
クラスメイトを体育館へ先導し所定の場所に整列させるのは学級委員の役目なのだが、今回は小次郎に頼んで代役を務めてもらった。
昼休みに姫宮さんのところへ行き体育館へ連れてくる必要があったので、そちらまで手が回らなかったのだ。
小次郎に事情を説明すると、最初こそは面倒くさそうにしていたものの「ま、頼まれてやろうじゃないか」と引き受けてくれた。ちなみに武山先生にも事情は話してあって、体育館のうしろの方で文化部発表会を観覧することの許可ももらえた。
俺は給食を終えて昼休みに入るなり、旧校舎へとむかった。
旧校舎にはめずらしく生徒たちの姿があった。一階の東端の教室なのでたしか第一家庭科室だったろうか。ただ生徒は少人数だし、学年もばらばら。その中にはうちのクラスメイトもいた。その子は家庭科部だったはずだから、おそらくみんなそうなのだろう。文化部発表会での家庭科部の出し物の準備のために利用していたというところか。四限に別のクラスが授業で使用していて、旧校舎の方を臨時使用したのだろう。
階段をあがり三階へ。
第一音楽室に入ると、姫宮さんは昼食をとっているようだった。ヘッドホンをかぶったまま、両手で静々とおにぎりを口に運んでいた。
すぐに、俺が来たことに気がついたようで、俺の姿を確認するなり姫宮さんはヘッドホンを外して首にさげ、小さくお辞儀をした。
「おう。ちょっと早く来すぎちゃったか」
「いえ、だいじょうぶです。すぐ食べ終わりますから」
姫宮さんはそっとかぶりをふる。机のうえには以前と同じようにおにぎりと携帯サイズのマヨネーズとウーロン茶の紙パックがあった。
「そんなに焦らなくていいよ。まだ時間には余裕があるからさ」
いうと、姫宮さんは「はい」と頷き、粛々と食べるのを再開した。
急かしても悪いと思い、俺は窓際に行って外の様子をみながら(といっても変化らしい変化は体育館へ移動する生徒たちがちらほら渡り廊下を歩いていく様子くらいだが)待っていた。
「お待たせしました」
食べ終わったようで、姫宮さんはゴミを片づけると立ち上がる。
時刻を確認すると、文化部発表会の開始まであと八分。移動時間を考えても充分間に合う。
「それじゃ行くか」
出ようとすると、姫宮さんはまごついた様子で、
「これは、外したほうが、いいですよね」
首にさげたヘッドホンを指さした。
いつも姫宮さんはヘッドホンを付けているが、なにかこだわりがあるのだろうか。それとも、よほど音楽を聴くのが好きなのか。よくわからないが、この音楽室ならともかく人目がある校内でヘッドホンをかぶっているのはまずいだろう。
それは彼女も重々承知しているようで、俺がこたえるよりも先に鞄の中にヘッドホンをしまっていた。
そして彼女は鞄を手に持つ。
「鞄は置いていってもいいんじゃないか。発表会が終わったらまたここに戻ってくるだろ?」
俺がそう指摘すると、
「……いえ、その、そうなんですけど。なんだか、落ち着かなくて」
「そうか。まあ、いいけど」
みんなの荷物も置いてある教室と違って、無人の音楽室にじぶんの荷物だけ置いておくのはたしかに心細い。まあ、そもそもここまで来る人間がいるかどうかはわからないが。
「行きましょうか」
彼女は耳に手をやりながら、梅干しを取り上げられた日の丸弁当のような心許なげな表情をしていた。




