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第一章/1

第一章/1



 お世辞にも成績や素行の優秀な生徒とは呼べない俺が学級委員になったのには、それなりの理由がある……といいたいところだが、実を話せば「俺がトイレで席を立っている間に、クラスメイトたちの悪ノリで欠席裁判的に決まってしまった」というだけの話である。


 それは……今年の春のことだ。


 M中学の三年三組へと進級し、始業式を終えたあとのホームルームでのこと。

 ざっとクラスメイトたちの顔を見回し、中学一年の頃からの友人の小次郎や、幼馴染の弥子が同じクラスであること、他にも知った顔が多い(地域の近いふたつの小学校の生徒が合流してできている中学なので当然ではあるが)ということを確認した俺は、ひとつだけ空席があることが気になったものの、それ以上に気にかかっていた腹のゆるみ具合に耐えかねて「先生、トイレへ行かせてください」と席を立った。


 そのときは学級委員や係活動などの役割決めをしていたので、小次郎に「適当に楽そうなやつに名前を入れておいてくれ」と伝言して、教室をあとにした。二年のときはストーブ係という冬場にストーブの灯油を運んでくる以外は何もしなくていいという係活動を小次郎と一緒にやっていたので、しっかりと俺の意図をくんでくれていると思ったのだが。


 しかし教室へと戻ってきた俺は黒板を見るなり呆気にとられてしまった。


 各役職の名称と、それを担当する生徒の名前が板書されていたのだが、一番先頭の項目「学級委員」の脇には「男子・松木一秋(まつきかずあき)」と、俺の名が記されていたのだ。


「なんなんだよ、これは!」


 教室後方の入り口で叫んだ俺を見るなり、クラスメイトたちは「してやったり」といった顔で笑っていた。爆笑しているものから、くすくすと笑いをこらえているものまで多様な笑みを披露してくれている。


 ひーひーと、制服の内側にねずみでも忍びこんだのかというくらいに腹を抱えて笑っていた小次郎が、


「最初は去年みたいにボクたちふたりでストーブ係になれればと思ったんだけど、希望者がひとり多くなっちゃってさ。それじゃ平等にジャンケンしようか! ってことで――」


「ジャンケンしたのか?」


「うん。出さなきゃ負けよーってね。そしたらカズアキの負けが決定したんだ。お前がいけないんだぞー、ジャンケン出さないから。反則負けってやつだね」


「当たり前だ! むしろ掛け声の間に地獄耳で聞きつけた俺がトイレから猛ダッシュで戻ってくる方が反則級の聴力とダッシュ力だろ!」


 鬼の居ぬ間に洗濯ならぬ、俺の居ぬ間にジャンケンで、俺は空席だった学級委員に押し込まれてしまったのだった。


 こんな取り決めは無効だと訴えようかとも思ったのだが、すでに他の係活動は埋まっていて、よもや他のクラスメイトに「俺と学級委員を変われ!」なんて横暴めいた主張をするのも悪い気がしてけっきょくはその決定で落ちついた。


「まー、いいじゃん。女子の学級委員は弥子ちゃんなんだからさ。お前ら仲良いだろ?」

 と、小次郎は悪びれる様子はいっさいなかったが。


「えへへ、よろしくー、カズくん」

 近くの席にいた弥子がこちらへ振り返ってにんまりと笑う。


 弥子とは家が近所というのもあって小さい頃からの付き合いなので、関わりの薄い女子とタッグを組むよりかはいくぶん気が楽だが、はめられた感は否めない。


 ちなみに小次郎の言う通り、他の女子たちとくらべれば弥子とは仲が良いが、弥子にたいして俺が友達以上の感情を持っているということはない。というのは、べつに友人の期間が長すぎてそういう気持ちになれないだとか、容姿が好みじゃないという話ではなく(むしろ容姿は快活な女子という感じで、良い部類に入るかもしれない)、


「は! カズくん、思いついたよ!」


「……なんだ」


 閃いたとばかりに弥子は自信満々な顔で、


「学級委員がっ吸飲!」


 そういって紙パック飲料のストローをちゅぅぅぅと吸っていた。


 ぷはぁっ、と口を離すと、


「ふっふふ。いまのは『学級委員』と『~~が吸飲』の韻をかけたの」


 得意げにダジャレの解説をした。


 ……これだ。弥子はそれなりに顔もいいし、成績もいい。性格も明るく男女分け隔てなく接することのできる良いやつなのだが、いかんせん親父ギャグが好きなのだ。しかも確実にスベる寒さの。


「こら、鳴河~。まだホームルームだぞ。休み時間以外にジュースを飲むんじゃない」


 担任の武山先生が遠くから呼び掛ける。ちなみに、うちの学校は茶類に限りパック飲料やペットボトルの持ち込みが許可されている。


「はひ。すみません」


 注意を受けて弥子は俊敏に着席、肩身狭そうに縮こまっていた。


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