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序章

 序章


 面白半分という言葉を使うとすれば、残りの半分は流れと義理で二割五分ずつというところだった。

 厳密にいえば面白半分に関しても、面白そうだと思うほど積極的な感情ではなく『興味がある』くらいのいささか控えめなもので、俺自身の主体性というのはこの時点ではほとんどなかった。


 正直なところ、むしろ俺としてはあまり気が乗らない話だったのだ。


 何がといえば、ひとつは、俺がM中学三年三組の学級委員になるということ。

 もうひとつは、そのM中学の旧校舎にある第一音楽室にひきこもっているという女子生徒を、クラスに引っ張り出すという案。このふたつ。

 前者はお調子者の友人の悪戯に、後者は女子学級委員でもある幼馴染の提案に端を発するのだから、友だち付き合いといってしまえばそれまでだが、あまり面倒な思いはしたくない。


「ほら、カズくん。鍵あいたよ」


 担任から預かっていた第一音楽室の鍵を手に、鳴河弥子(なるかわやこ)は嬉々とした笑顔をむけた。


 現在はめったに使われることのない旧校舎。その最上階に第一音楽室はある。俺と、幼馴染の弥子は、第一音楽室のドアのまえに立っていた。


 第一音楽室にこもっている女子生徒に会いにきた男子学級委員と女子学級委員という構図だが、その感情は対極的だ。

 弥子の方はこれから会うひきこもりの同級生との面会を、新たな友との出会いとしてとらえている、そんな様子だ。

 俺としては教室にこないで旧校舎に閉じこもっているような生徒だから、そううまくいくとも思えないというのが本音なのだが。


「さ、いくよ!」


 スタンプラリーの最後のチェックポイントに到達した子どのようなわくわくした表情で掛け声をひとつ、弥子は古びたドアに手をかけると意気揚々とスライドさせた。


 夕陽とともに、中の光景が目に飛び込む。


 旧校舎の教室はめったに使用されない。だから機械的に整列された机や、その周辺に並んだ楽器も古びていて、うっすらほこりをかぶっている。

 においもやはり、自分たちが普段使っている教室とは違った独特のものが鼻をつく。くさいわけではないが、ほこりっぽさや乾きを感じる、あまり嗅ぎ慣れないたぐいのにおいだ。


 そんな寂れた教室の窓辺。古びたグランドピアノのすぐ近くの席に例の少女はいた。


 物悲しい空気の一室をかざる置物みたいに、ぽつんと椅子に座っている。制服もおろしたてみたいにやけに綺麗で、よけいに作り物めいた、人形のような雰囲気を感じさせられる。


 突然俺たちがやってきたことに驚いたのだろう。ワンテンポ遅れて少女はこちらの方へ振り向いた。物憂げな表情がわずかに変化して動揺の色を見せたような気がした。


 黒髪の、おとなしそうな女の子だった。


 その手には文庫サイズの本(小説だろうか)があって、余計に物静か、内気、おしとやか、そういった静的な雰囲気を強めている。


 ただ――。


 ひとつ奇妙なのは、そんな彼女のおとなしそう、物憂げといったイメージには似ても似つかない、それこそラジカセを担いだヒップホップな外国人がつけていそうな大きくてごついオーバーヘッドタイプのヘッドホンを、彼女はかぶっていたということだ。



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