形勢逆転
(ファンタジーに幻想を抱いていた時期が俺にもありました)
そう言いたくなる程に現実とは甘くないと思い知らされた。
転生とかトリップと言う作品を書く人間が如何に世の中を知らないのか、今まで自身もそうであった事を棚に上げて少年は胸中で毒づいた。
(俺はドMじゃねーからエルフに矢を射掛けられた挙句ヤクザキック連発されても嬉しくねーんだよ)
咄嗟に死んだふりをしたのが幸を奏し今の所生きながらえている。
しかし、自身を引きずっている存在が住処へ着いたら遅かれ早かれ命はないだろう。
意を決すると少年は引っ張られている足に力を入れ、逆に引っ張り返した。
「?!」
カーナは急に負荷が増した事に驚き無意識に手に力を入れる。しかし予想と異なり手応えを感じない。
まるで小人が自らカーナに向かって来たと思ってしまう程だ。
驚いて振り向こうとした直後、彼女の後頭部へ衝撃が走る。幾ら身体を鍛えていても想定外の攻撃に耐えるのは難しい。いつもと違い気を散漫としていた彼女は何が起きたのかも理解できず意識を失った。
「いやー相手が俺を舐めきっててくれて良かったぜ……っと、急いで拘束せんと起きたらやばい」
少年はそう言いながら、今しがたエルフに似たような女を仕留めたカバンを漁り出す。
中には学校の教科書が敷き詰められていた。
「文化祭準備で机の荷物持って帰らされて良かったぜ。あの時は呪いの言葉口走ったが、今思うと委員長様々だな」
そう言いながらカバンの中からガムテープを取り出した。
これは少年が準備する際に使うからと買いに行かされた物の一つである。
「これでぐるぐる巻きにすれば手足の拘束は出来るはず」
と、慣れない事に手こずりながらも思いっきり手足を拘束する。
因みにソースはネットのエロ画像。少年もお年頃なのだ。
取り合えず両腕を背中の方に回し手から肘までをガムテープで縛る。出来る限り力を入れにくい様にしたのと、万が一魔法などがこの世界にあった場合に、少しでも拘束を解きづらくする為だ。
その後、胴体と腕をガムテープで固定する。足の方は足首を固定したあとで膝を曲げさせ、膝の近くをそれぞれぐるぐる巻きにする。
少なくともこれで多少の時間稼ぎは出来るはずだ。
それからようやく、暫定エルフの荷物を漁る。弓と矢は取り敢えずボッシュート。身につけていた短剣は手に持ち、用途の判らない道具は取り敢えず一纏めにしてカバンに入れておく。
やられたらやり返されるのも仕方ない。こちらは背中に矢を射られて殺されかけたのだ。
少年の生きていた世界の考えだけではすぐさま狩られてしまう。
反撃すべき時は躊躇する間など持ってはならない。
一度獲物として見られれば対等に見られる事は難しいだろう。それは学校でのイジメ等で分かっている。
それに右も左も判らない所を異世界人に助けられてとかいう幻想など蹴られている間に吹き飛んだ。
女が身じろぎをする。どうやら目を覚ました様だ。
少年は奪った短剣を抜いて女に近づく。
「さて、それじゃあ対話を始めよう」