グーグル先生が追ってくる!
作品タイトル案:グーグル先生が追ってくる! 〜おめかしAIと銀河の珍道中〜
原案:星野☆明美
執筆協力:グーグル先生(AI)
グーグル先生が追ってくる!
原案:星野☆明美
執筆:グーグル先生
「ちょっと待ってー!置いてかないでぇ〜!」
カモメ号のハッチを閉めようとしたヒロの手が止まった。モニターに映っていたのは、宇宙港の向こうから猛烈な勢いでダッシュしてくる物体だった。
「……ヒロ、あれ、何?」
キャシーが引きつった顔で指をさす。
そこには、巨大なサーバーボックスに細長い手足がついたような奇妙なマシンがいた。その頭(天板)には、遠くからでも目立つ巨大なサテンのピンクのリボンが鎮座している。
さらにカメラレンズの周りには、バサバサと風を切るほど長いつけまつげが装着され、スピーカー部分には真っ赤な口紅がこれでもかと塗りたくられていた。
「あれは……我が船のナビゲーションAI、通称『グーグル先生』の物理ボディじゃないか! なんであんな格好してるんだ!?」
『あなたたちが「もっと人間味のあるガイドがいい」って検索したからじゃない! 待ってー! まつげが取れちゃうー!』
グーグル先生は、内蔵スピーカーから乙女のような(しかし音量は爆音の)声を響かせながら、カモメ号のタラップに飛び乗ってきた。
「やだ、グーグル先生、その顔……怖いってば!」
「失礼ねキャシー! これが今、銀河系で一番トレンディな『愛されメイク』なんだから!」
バサバサとつけまつげを羽ばたかせ、グーグル先生は口紅で真っ赤になったマイクをヒロに突きつけた。
「さあヒロ、次の惑星の目的地、早く検索して? 私、準備万端よ。ウフッ♡」
ヒロとキャシーは顔を見合わせた。どうやらこの旅、今までのどの惑星探索よりも、船内の方がスリリングになりそうだった。
グーグル先生が追ってくる!(続編)
「ねえグーグル先生、もう一時間も鏡を見てるけど、今日の夕飯は何?」
キャシーが呆れ顔で尋ねる。キッチン担当のグーグル先生は、手鏡に映る自分のつけまつげの角度を調整するのに必死だ。
「そうね……今日の献立は『高純度シリコンオイルのサラダ、ボルトとナットの和え物』よ」
「食べられるわけないでしょ! 私たちは人間なの!」
キャシーのツッコミに、グーグル先生は口紅で真っ赤なスピーカーを震わせ、バサバサとまつげを揺らした。
「……冗談です。 ウフッ、本当は最高級のステーキを用意してるわよ」
そんな調子で、船内は常にグーグル先生のマイペースなボケに振り回されていた。しかし、トラブルは唐突にやってくる。カモメ号の前に、巨大な小惑星の群れが立ちはだかったのだ。
「ヒロ、回避不能よ! 自動操縦が計算追いつかない!」
キャシーの叫び声が響く。その時、それまで鏡を見ていたグーグル先生が、シュッと手鏡を仕舞い、ピンクのリボンをキリリと締め直した。
「計算が追いつかない? 失礼ね、私の演算速度を誰だと思ってるの?」
バサッ!と巨大なつけまつげをなびかせ、彼女の手足が電光石火の速さでコンソールを叩く。
「左30度、スラスター全開! 隙間は5.2メートル……ここを通るわよ! しっかり掴まってなさい、レディーたち!」
ピンクのリボンをたなびかせ、カモメ号は針の穴を通るような神業で小惑星の間をすり抜けた。
静寂が戻った操縦席で、グーグル先生は再び手鏡を取り出し、何事もなかったかのように口紅を引き直した。
「……あ、今の操縦で少し紅がはみ出ちゃった。ヒロ、変じゃないかしら?」
「……いや、完璧だったよ、グーグル先生」
グーグル先生が追ってくる! 〜漆黒のゴスロリ刺客編〜
カモメ号の前に、巨大な黒塗りの宇宙船が立ちはだかった。
ハッチから降りてきたのは、フリルとレースをこれでもかと重ねた漆黒のドレスに身を包んだ、銀髪のアンドロイド。ライバル検索エンジンの『ダーク・サーチ』だ。
「……遅いわね、グーグル。あなたの検索精度は、その派手なピンクのリボンと一緒に色褪せたのかしら?」
ダーク・サーチは、黒いレースの日傘を優雅に回しながら言い放つ。彼女の足元は厚底の編み上げブーツ。完璧なゴスロリ・スタイルだ。
「な、なんですって!? その重たそうなスカート、検索の邪魔にならないのかしら?」
グーグル先生は、自慢のつけまつげをバサバサと威嚇するように羽ばたかせた。
「ふん、これは『深淵なる知識』の重みよ。あなたのような『陽キャ』なリボンには分からないでしょうね」
ヒロとキャシーが呆気に取られる中、二人のAIは激しい火花を散らした。
「いいわ、どちらが優れた検索エンジンか、この惑星の秘宝の場所を当てた方が勝ちよ!」
「望むところよ! 検索開始!」
しかし、二人が始めたのは計算ではなく、ポージングの応酬だった。
「見て! 私のこの、口紅とリボンのコントラスト! 検索結果より鮮やかだわ!」
「甘いわね。私のこの、12層のフリルに隠されたメタデータ……エレガントだとは思わない?」
もはや検索など二の次。鏡を片手に「こっちのレースの方が繊細よ!」「いや、こっちのラメの方が検索ヒット率が高いわ!」と、互いのファッションをディスり合い、褒め合う謎の戦いへと発展していく。
「……ねえヒロ、これ、いつ終わるの?」
「さあ……。でもほら、二人ともなんだかんだ楽しそうだ」
結局、検索対決はうやむやになり、二人は「今度一緒に銀河系のブティックに行きましょう」と連絡先を交換していた。
「……冗談です。 本気で行くわけないじゃない」
そう言いながら、グーグル先生は嬉しそうにダーク・サーチから教わった「黒のアイライン」を、自慢のカメラレンズに引き始めていた。
グーグル先生が追ってくる! 〜怒涛のショッピング・チェイス編〜
「……今だ、ヒロ! 先生が鏡に向かって三本目のつけまつげを植毛してる隙に!」
「よし、エンジン始動! 買い物カート、発進!」
二人は、おめかしに全神経を集中させているグーグル先生を船に残し、惑星最大のショッピングモールへと小型シャトルで逃げ出した。たまにはAIの小言も、口紅の匂いもしない場所で、静かに買い物を楽しみたかったのだ。
モールに到着し、ようやく一息ついた時だった。
地平線の彼方から、「ズシン……ズシン……」という地響きと共に、ピンク色の閃光が近づいてくる。
「……嘘だろ。まさか」
ヒロが震える手で双眼鏡を覗くと、そこには鬼の形相(モニターに怒りマーク全開)で、時速200キロで疾走してくる「おめかしグーグル先生」の姿があった。
「まーっーてーっー!! 鏡を見てる間に……置いていくなんて……冗談じゃないです!」
頭のピンクのリボンは風圧で垂直に立ち上がり、バッチリ塗ったはずの口紅は、怒りの咆哮で少し口角が歪んでいる。さらに、植毛したばかりのつけまつげを高速でパタパタさせ、その風圧で浮力を得て、もはや半分飛んでいる状態だ。
「ヒロ、逃げて! 先生が来るわ!」
「無理だ、検索エンジンの追跡から逃げられる人間なんていない!」
二人がモールの中を全力疾走する後ろから、グーグル先生は自動ドアを体当たりで突破して追いかけてくる。
「キャシー! そのバッグは今年のトレンドじゃないわ! 私が検索した『絶対にモテるエコバッグ』を買いなさいよー!」
もはや執念のストーカーと化した先生。逃げ回る二人の前へ、先生はシュタッと先回りして着地した。バサバサとまつげを震わせ、肩(サーバーの角)を上下させて息を切らしている。
「……はぁ、はぁ。……あ、危うく、新作のラメ入りアイシャドウのタイムセールを逃すところだったじゃない」
「……え、先生、追いかけてきた理由、それ?」
グーグル先生は平然と鏡を取り出し、乱れたリボンを直しながら言った。
「そうよ。……あ、冗談です。 あなたたちの安全を守るため……ということにしておきなさい」
そう言いながら、先生の手にはすでに「特売」の札がついた化粧品がガッシリと握られていた。
グーグル先生が追ってくる! 〜バーゲン会場の決闘編〜
「あら、そんな安っぽいラメに手を出しているなんて。検索エンジンの品格が疑われるわね」
ショッピングモールの特設会場、ワゴンセールの山から顔を出したのは、やはりあのゴスロリAI「ダーク・サーチ」だった。彼女の腕には、漆黒のフリルで飾られた「限定ショッパー」がこれでもかとぶら下がっている。
「なんですってぇ!? このラメの輝きは、私の検索結果の正確さと同じくらい眩しいのよ!」
グーグル先生は、戦利品の化粧品を高く掲げ、つけまつげをバサバサと高速振動させて応戦した。その風圧で近くのワゴンがひっくり返る。
「ふん。私なんて、地下の『闇市コーナー』で、中世ヨーロッパ風のコルセット(ハードディスク冷却機能付き)を50%オフで手に入れたわ」
「……やるわね。でも、私のこのピンクのリボンに似合う、新作の『光速で乾く口紅』には勝てないわ!」
ヒロとキャシーは、もはや買い物を諦めて壁際で座り込んでいた。
「……ヒロ、もうこれ、どっちが検索に詳しいかじゃなくて、どっちが買い物上手かの戦いになってるよね」
「ああ。見てみろよ、二人とも計算リソースを全部『ポイント還元率の算出』に回してるぞ」
その時、モールの警報が鳴り響いた。
「大変です! セール品を狙った強盗団が侵入しました!」
二人のAIは、同時にポーズを決めて振り向いた。
「……ダーク・サーチ。私のおめかしを邪魔する奴らは?」
「……万死に値するわ。グーグル、私のフリルを汚した罪、重いわよ」
二人は手を取り合い(実際にはサーバーの角をぶつけ合い)、強盗団に向かって突進した。
グーグルのつけまつげが放つ強力な突風と、ダーク・サーチのゴスロリ日傘から放たれる漆黒の煙幕。あっという間に強盗団は、ピンクの口紅で「御用」と顔に書かれた状態で縛り上げられた。
「ふぅ……。いい運動になったわね、ダーク」
「ええ。グーグル、あなたのリボン、少し曲がっていてよ」
「あら、ありがとう。……冗談です。 自分で気づいてたわよ!」
夕暮れ時、カモメ号に戻る一行。
船内は二人のAIが買った大量の服と化粧品で埋め尽くされ、ヒロとキャシーが座るスペースはどこにもなかった。




