07 1日目終了
「本格的な従魔というよりは、相棒と言ったほうが良いかもしれないな」
「相棒! うん、そのほうがしっくりくるよ。契約して従わせるって感じじゃないもん。僕とユキは、良い相棒だね!」
「相棒! 相棒!」
僕は、再び小さくなったユキをそっと両手に乗せると、高い高いをするように上下に揺らした。
ユキも嬉しそうに、「相棒」と言いながら、僕の動きに合わせてジャンプする。
「でも……。体験版終わってしまったら、僕とユキの関係はどうなるの?」
僕が今いるこの世界は、体験版だ。製品版とは違うと言っているから、おそらく新規にデータを作成するのだろう。それなら、今いるこのユキはどうなるの?
僕は急に不安になって、ユキを両手で包み込んだ。
「その点については、俺も知らないんだ。ごめんな。……でも、今度知り合いに聞いてみるよ」
「うん……」
ラパンは、知り合いに頼まれて、このゲームにもう何度かログインしていると言っていた。その知り合いは、このゲームの関係者なのだろうか。
もし可能なら……僕は製品版になっても、ユキと一緒にいたい。まだ出会ったばかりだけど、もうこんなに愛着が湧いてるんだ。体験版が終わる頃には、離れがたくなっていると思う。
「今日はもう宿に帰ろうか」
「うん、部屋で今日教えてもらったこと、もう一度確認したいな」
「そうだな。初めてのログインで色々と体験したから、整理するといい」
街の一番外れまで来たから、入口方面に向かってゆっくりと戻ることにした。宿は大通りから一本入った道の、真ん中あたりにあるらしい。
歩きながらふと空を見上げると、オレンジ色に染まっていた。
「リベラリアの世界にも、夕焼け空はあるんだね」
「グリーンヒル周辺は、冒険者たちの拠点となるところだから、馴染みやすいように作られているんだ。帰ってきたって感じで、ホッとするだろ?」
「うん、たしかに」
「製品版では、もっと広い空間を移動できるから、色々な場所を体験できるぞ」
「それは楽しみだね!」
僕とラパンとユキは、話しながらゆっくりと宿に向かった。
そして宿に到着すると、ラパンは手際よく手続きをしてくれた。
「このゲームはオートセーブになっているから、パネルで選択すればログアウトができる。ベッドで寝る前に予約すれば、そのままじっくり寝たあと、ゲーム内で朝になる前にログアウトできるようになっている」
「ログアウトの予約なんてあるんだね」
「おやすみーってこちらの世界で寝て、元の世界で起きると、なんか疲れが取れる感じがしていいだろ」
「そういうところ、こだわりなんだね」
何度もログインしているだけのことはあって、やっぱりラパンはリベラリアについてとっても詳しい。
まるで、VRゲームの開発者側の人間みたいだ。
「食事は部屋で食べてもいいし、食堂でも食べることができるけど、どうする?」
「食堂で! ラパンとユキと一緒に食べたいな」
「わかった。じゃあまたあとで合流しよう。食事はパネル注文すると、お昼に食べたお店から、料理が転送されてくる仕組みだ」
「すごい! そんなこともできちゃうの?」
「転送魔法があるからね。レベルを上げれば、人間の転移魔法も使えるよ」
「レベル? 他の人はレベルがあるの? 僕はなかったんだけど……」
僕がしょぼんと顔を下げると、ラパンの少し困ったような声が聞こえてきた。
「あ、それは、製品版の話で、これからのことだよ。だから、今シロにレベルがなくても、おかしくはないんだ」
「そうなの? 僕だけ違うってこと、ないよね?」
「全然おかしくない! このリベラリアは、自由がテーマなんだ。種族も生活も何をしても楽しめる、自由度の高いゲームで、今のシロはフリー状態。何にでもなれるんだ。だから、製品版になったら、やりたいことをたくさんやればいい。リベラリアの世界の中には、制限なんてないんだから」
ラパンは、一生懸命フォローしてくれようとするのが伝わってくる。僕が変なこと言ったから、困らせちゃったよね。ごめん。
でも僕は幸せ者だ。現実世界でも、ゲーム世界でも、僕を心配してそばにいてくれる人がいる。
このゲームを勧めてくれたのも、いつも僕のそばで支えてくれる人だ。
僕は現実世界で待っている人の笑顔を思い出し、心が温かくなった。
ログアウトしたら、たくさん話したいことがあるんだ。
初めてゲーム内で会ったラパンは、モンスターに襲われそうになった僕を助けてくれた、強くてかっこよくて頼りになる人。
サポートキャラのユキは、ふわふわで可愛くて普段はのんびりしてるけど、いざという時にとても頼りになる。
ちゃんと匂いも感じるしお腹も空く。不思議な食べ物も多いけど、それは楽しくて美味しいこと。
街の人たちはNPCなのに、まるで本当にここで生きているみたいに、自然に街に溶け込んでいること。
……あとちょっと残念だったのは、僕は剣術向きではなくて、サポート魔法が得意だということ。
そして、一番伝えたいのは、たくさん動いても、苦しくならなかったよってこと――。




