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君を知らないまま、恋をした  作者: 一ノ瀬麻紀


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56 メンテナンス後

 楽しかった花火大会も終わり、新しい日常が始まった僕の元に『リベラリア体験版の再開のお知らせ』が届いた。

 メール通知とほぼ同じくして、(すばる)からも連絡があったので、再開日にログインをする予定を立てた。

 前日はワクワクし過ぎて、目が冴えてなかなか眠れなかった。まるで遠足前の子どものようだった。


 再開日当日、昴の迎えでマシンが設置してある建物にやってきた。ここに来るのはかなり久しぶりだ。


「集合場所は、グリーンヒル入り口な」

「わかった! また後でね」


 VRゲームは一人一マシンだから、一緒にログインはもちろんできない。

 それぞれマシンに乗り込むと、スイッチを入れ起動した。

 初回ログインではないので、いろいろスキップしながら操作をすると、目の前のパネルに『ログイン完了』の文字とAIアシスタントの声が聞こえた。


『ログインを確認しました。リベラリアの世界をお楽しみください』


 うーん! この声も久しぶりだぁー!

 僕は久しぶりの高揚感に包まれながら、目を閉じた。

 AIアシスタントの声が遠くなったと思った瞬間、かすかな浮遊感を感じた。


 次の瞬間、草木の匂いに全身を包まれた。目を開けると、そこは草原だった。


「あー、懐かしいな、この感じ!」


 僕は、今回はグリーンヒル周辺の草原スタートを選んだ。

 初めてのログインの時は、操作がわからず意図せず草原スタートになってしまったけれど、今回はちゃんと自分の意思だ。

 わざわざここを選んだのは、再開の場所に相応しいと思ったからなんだ。


 ロード時に選べる場所は、以前は行ったことのある街や登録スポットのみで、数も少なかったみたい。けど今回のアップデートで、ポイント増設されたらしい。 

 だから、本来ならば僕の初めてのログインでは、草原の選択ができないはずだった。やっぱり、あれもバグだったのかなぁ。


 僕は、初めてラパンに会った時のことを思い出していた。

 颯爽と現れて、ベアウルフをあっという間に倒し、僕はお姫様抱っこされたっけ。

 まだそんなに前のことじゃないはずなのに、とても懐かしく感じる。


「よし、行くか」


 グリーンヒルまでそんなに遠くないから、軽く肩慣らししながら行こうと思った。

 戦闘はそんなに得意じゃない僕だけど、バグ修正されたこの辺りのエリアは、初心者向けのモンスターしか出ないはず。


「あ、いた」


 少し先には、水色とオレンジ色のスライムが、集団でぽよぽよと跳ねながら草原を移動していた。まだこちらには気づいていない。

 僕は弓矢を構えると、狙いを定めて勢いよく放った。矢は一本のはずなのに、命中の瞬間に光が分かれて、複数のスライムをまとめて消し飛ばした。


 悲鳴も断末魔もあげることなく、スライムたちはガラスが砕け散ったように、キラキラと輝きながら消滅した。そして残された場所には、複数枚のコインが転がった。


「お見事。複数いても余裕で倒せるようになったね」


 パチパチという拍手とともに、背後から声がかけられた。振り返るとそこには、よぉと手を挙げるラパンが立っていた。


「ラパン。なんで僕がここにいるってわかったの?」

「リベラリアのスタートって考えたら、もしかしたら、草原にロードするかなって思ってね」

「なんだ〜。ラパンはなんでもお見通しだね――うわっ」

「落ちるから掴まってろよ!」


 二人でゆっくりグリーンヒルに向かうのかと思ったら、ラパンはあの時と同じように、突然僕をお姫様抱っこしてすごいスピードで走り出した。

 初めて会った時の再現をしているのかと思うと、僕はおかしくて笑いが込み上げてきた。でもここで口を開けて笑ってたら、舌を噛んでしまうかもしれない。

 笑いをこらえながら、ラパンにしがみつくように抱きつくと、振り落とされないようにグリーンヒルに到着するのを待った。


 街の入り口が近づいたところでやっと降ろしてもらい、僕はようやく口を開いた。


「急すぎるんだよー。びっくりしたじゃん。……でも、なんか懐かしかった」

「懐かしいよな。あの時、ベアウルフに遭遇したのは、俺も想定外だったからびっくりしたよ」


 二人で出会いを懐かしみながら歩き出そうとした時、僕はあっと思い出して立ち止まった。

 そして、パネルを開いてタッチしていく。すると目の前に、ポンっとユキが現れた。


「ユキ、久しぶりー!」

「シロー?」

「ああ、そっか。ごめんごめん。僕にとって久しぶりでも、ユキはそうじゃないんだよね」


 ユキはNPCのサポートキャラだから、呼び出されて初めて時間が動き出す。ユキの記憶は、ソーマと過ごしたあの頃で止まっているんだろうな。


「ユーアさんからデータもらってるよ。だから、何が起きてたのか少しはわかるんだ」

「えー? そうなんだね」

「基本的には、ゲームに関わる重要事項中心だけど。でも、ユーアさん物知りだから、それ以外のことも教えてくれるよ」

「さすがはユーアさんだ」


 でも、バグ修正されたのなら、サポートキャラも修正が入ってしまっているのかと思ってた。

 残すべきところは残し、修正すべきところは改善していくんだね。


 ユキはいつものように肩に乗ってグリーンヒルの入り口を指差した。


「みんな待ってるから、行こう!」

「みんな?」

「うん、街のみんなが待ってる」

「そうなんだね、楽しみだな。ラパン、ユキ、行こう!」


 僕は軽い足取りで、一歩を踏み出した。

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